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第155話:決別と防衛線〜This is a System〜
「……ふぅ。これで本当の意味で、終わりにしてやる」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で背筋を伸ばし、冷めた麦茶のコップを固く握りしめた。
画面の中では、我が社のズボラ猫耳娘『ヨモ』の配信が盛り上がりのピークを迎えていた。
陸別のクズ親父による「ナマポ&パチンコ三十万タカリ未遂事件」は、結愛の手によって完璧に匿名化され、世界中のリスナーを大爆笑させる『Toxic Father(毒親父)ミーム』として爆発的に拡散されている。
『SuperChat: $200.00 (Toxic Father got completely destroyed! Best stream ever!)(スパチャ200ドル:毒親父が完全論破されてて草! 過去最高の配信だ!)』
『SuperChat: $100.00 (Protect the Boss from the Trash Dad!)(スパチャ100ドル:クズ親父からボスを守れ!)』
降り注ぐドルの雨。
そんな中、机の上のスマホが再び不気味に震え出した。
画面に表示されたのは、やはり【親父(陸別)】の文字だ。
配信で晒しものにされたことに気づいたのか、あるいは結愛からの警告に逆上したのか、しつこく食い下がってきたらしい。
「結愛、録音を頼む。スピーカーで出るぞ」
『了解いたしました、ルシフェル様。録音、ならびにログの自動保存を開始します』
俺は通話ボタンをスワイプし、静かに口を開いた。
「……何の用だ、親父」
『――おい雪ぇぇぇ!! てめえ、俺をネットで晒し者にして笑いものにしやがったな!?』
案の定、スピーカーから鼓膜を刺すような親父のブチギレ声が響き渡った。
『セイコーマートで知り合った奴から聞いたぞ! 「お前の息子の配信で、お前がトキシック何たらって言われてバズってるぞ」ってなぁ! 俺の名誉はどうなるんだよ名誉はァ! 慰謝料として今すぐ五十万振り込みやがれ!!』
どこまでも自分勝手で、反省の色すらないクズの叫び。
だが、今の俺には、もう一ミリの恐怖も迷いもなかった。
俺は深呼吸をし、四畳半の天井を見上げながら、はっきりと、冷徹に言い放った。
「断る。そして言っておくが、お前に一円たりとも現金を振り込むわけにはいかないんだよ」
『あぁ!? 息子が親に金を払うのがそんなに嫌か!』
「違うな。理由を教えてやるよ」
俺は身を乗り出し、スマホに向かって言葉を叩きつけた。
「いいか親父。もし俺がお前に一円でも現金を振り込んだり、手渡ししたりしてみろ。その瞬間、お前がどうなるか分かってるのか?」
『……あ? 何がどうなるってんだよ』
「今、この瞬間も、世界中の何万人というリスナーが俺たちのやり取りを見守ってる。そして我が社の帳簿と銀行口座は、税務署と会計システムによって24時間厳重に監視されてるんだよ!」
俺は一息にまくし立てる。
「もし俺が追跡不能な裏金を送金すれば、即座に税務調査が入り、俺はお前に現金を渡したことを国税庁に証明しなきゃならなくなる!」
「そうなればどうなる? 俺がお前に現金を振り込んだという事実が、公的な確定申告の記録として永久に刻まれるんだよ!」
電話の向こうで、親父の息が詰まる気配がした。
「つまりな親父。お前に現金を振り込んだ瞬間、全世界のリスナーと、日本の国税庁と、陸別町役場のケースワーカー全員が『お前が不正な裏金を受け取った証人』になるんだよ!!」
『くっ……!?』
「逃げ場なんてねえんだよ! お前が隠そうとしている現金もタンス預金も、現代のデジタル税務と配信システムの前では一瞬で暴かれる! お前が動けば動くほど、お前自身の生活保護打ち切りと刑事告訴の証拠が自動で生成されるんだ!」
完璧なロジックによる一刀両断。
息をのむ親父に対し、俺は静かにトドメを刺した。
「時代が変わったんだよ親父。お前が昔やってたようなガバガバな誤魔化しは、今の社会じゃ一切通用しない。これがシステムだ」
『あ、あ……う……』
うろたえる親父の声に被せるように、結愛が氷点下の声で追撃の通告を行った。
『お父様。貴方様への「法的な防衛線」の手続きが、たった今すべて完了いたしました』
『な、なんだと……?』
『第一に、弁護士名義による「接触禁止および恐喝に関する通知書」を陸別町のアパートへ速達で発送いたしました』
『第二に、陸別町福祉事務所へ「受給者による不審な金銭要求および恐喝未遂」としての公的相談実績を正式に登録いたしました』
『最後に、本日以降、お父様が帯広のボロアパート、ならびに我が社の関係者に一歩でも近づいた場合、即座に警察へ通報し、建造物侵入およびストーカー規制法違反で対処いたします』
逃げ道を完全に塞ぐ、完璧すぎるトリプル・ブロック。
『ひっ……!? お、お前ら、実の親相手にそこまで……!』
「実の親だからこそ、きっちり境界線を引かせてもらう」
俺はスマホに向かって、最後のお別れを告げた。
「二度と俺の前に現れるな。……さようなら、親父」
ブツッ。
俺は自らの手で通話終了ボタンを押し、そのまま【着信拒否】と【ブロック】の操作を完了させた。
静寂が、四畳半の部屋に戻ってくる。
『……お見事でした、ルシフェル様。見事な撃退劇です』
ディスコードから、結愛の珍しく温かみを含んだ(?)声が聞こえた。
『SuperChat: $500.00 (YESSSS! TOXIC FATHER IS GONE FOREVER!)(スパチャ500ドル:よっしゃぁぁ! 毒親父が永遠に消え去ったぞ!)』
『SuperChat: $300.00 (Justice is served! Great job, Boss!)(スパチャ300ドル:正義は勝つ! よくやったボス!)』
画面を埋め尽くす、祝福と大歓喜のスパチャの嵐。
俺は深く椅子に腰掛け、冷えた麦茶をごくごくと飲み干した。
「……ふぅ。長かった戦いが、やっと終わったぜ……」
毒親からのタカリという過去の呪縛を、俺たちは現代のシステムと法的な防衛線で見事に打ち破ったのだ。
「よし! これで邪魔者は消えた! 今日からまた、平和な四畳半で本業(配信)に専念するぞ!!」
俺が力強く拳を突き上げた、その時だった。
『……ルシフェル様。大変微笑ましいところ恐縮ですが、親父様との戦い(コンテンツ化)により、今月の我が社の売上がさらに【倍増】いたしました』
「……え?」
『来期の法人税、事業税、および中間申告の予想額が、恐ろしい跳ね上がり方を見せております。……さあ、次の確定申告に向けた経理作業の開始です』
「結局また税金かよォォォォォォ!!」
帯広の四畳半に、毒親を退治した解放感と、次なる税金の恐怖に悶絶する社長の叫びが、賑やかに響き渡るのであった。
コメント
1件
読了したよ〜!!😭💕✨ 「システムで毒親を完全論破」からの「税金の恐怖で悶絶」…この緩急エグすぎる!!!🧎♀️💥 ルシフェル様が親父に「逃げ場なんてねえんだよ!」って言い放つシーン、最高に胸クサすぎて何度も読み返した…!!あと結愛ちゃんのトリプルブロック、マジでプロの仕事やばいっす👏✨ 最後の税金オチで笑いとばしたのも含めて、この回マジで神回だったよ…!!ゆうきあきやさん、胸熱な展開をありがとうございます🌸
191
레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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