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『Ep.1 キッカケ』
それは、今から8年前。俺が20歳になって数ヶ月ぐらい経ったある日のことだった。
『お久しぶりです、先輩。実は折りいって相談したいことがあるんですけど』
キッカケは、1個下の高校時代の後輩MからのLINEだった。
『久しぶり、どうかした?』
『実は、最近ネットで仲良くしてる子が今度こっちに遊びにくるんです』
学校では友達がおらず、よく放課後になると生徒会の事務室に遊びにきていたMに友達ができたのか。
それは良かったと思いながら話を聞いていると、どうやら相手は東北に住んでいる同い年の女の子らしい。
今まで彼女はおろか、友達さえ居なかったMは遊びに来てくれるのが嬉しい反面、リアルではどう扱ったらいいのか分からないから助けてくれと俺に泣きついてきたのだった。
『で、具体的には俺に何をしてほしいの?』
『二人っきりで会うのは気まずいし、俺バイトもしてないから金がなくて…先輩に着いてきて欲しいです』
俺は内心『コイツは本気で言ってるのか?』と思ったものの、どうやらマジで本気らしい。
『俺がお前に金を貸して、事前にアドバイスしとくんじゃダメなのか?』
『…無理です。先輩知ってるでしょう? 俺が女の子と話すの苦手なの』
『お前、逆にそれでよく仲良くなれたな』と呆れたが、どうも実際に会って話をするのと、通話やチャットでやり取りするのとじゃプレッシャーが違うらしい。
『分かったよ、着いて行ってやるよ。でも、お前から事前にしっかりその子に俺が来るってことは伝えとけよな』
『わかりました!!ありがとうございます!!』
知らない男が1人増えたところで、むしろその子の方が困ると思うんだが…先が思いやられる。
「あ、先輩。おはようございます」
「あぁ、おはよう。それで、例の子は?」
「えっと…高速バスが渋滞で遅れてるみたいで、あと30分くらいで着くそうです」
「30分って、随分かかるな…まぁ仕方ないか。タバコも吸いたいし、そこの喫茶店でも入ってコーヒーでも飲んで待つとするか」
俺は駅前の喫茶店を指差して、店内に入っていった。
「俺はブレンドでいいかな。お前は?何か飲む?」
「え、じゃあ俺はアイスココアで」
「はいよ。じゃあ注文しとくから先に席座って押さえといて」
「わかりました!」
そうして俺が飲み物を注文し、カウンターで受け取ろうとした時だった。
「先輩。あの子から連絡が来て、今バスターミナルに着いたらしいです!」
「…まだ10分くらいしか経ってないのに、タイミング悪いなぁ。まぁでも着いちゃったもんは仕方ない、俺コーヒー飲んでタバコ吸いながら待ってるから、迎えに行ってきてあげな」
「はい、すみません!」
俺は溜息を吐きながらコーヒーに口をつける。
そうして10分くらい経っただろうか。タバコを吸ったり、スマホを見てるうちに、店の入り口からMが1人の女の子を連れて入ってきた。
「すみません先輩、遅くなりました」
「別に気にしなくていいよ、どうせタバコ吸ってただけだしね。えっと…君がMの言ってた子だね。俺はT、よろしく」
「は、はい。初めまして、Kです。よろしくお願いします」
「まぁ2人とも立ってないで、座って。Kちゃんは何か飲む?」
「え、えっとじゃあ…オレンジジュースで」
「分かった。んじゃ俺はジュース買ってくるから、Mと2人でお話ししながら待ってて」
この時、俺がKに感じたのは『良い子そうだし可愛いけど、大人しくて芋っぽい地味な子』という印象であった。
そして俺は、この一件がこれからあんなことになるなんてことは夢にも思っていなかった──。