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#長編
KEY-STU
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#マジック
結愛
119
――その日の夜。アミは料理を作る為に腕を振るっていた。
それはとても楽しそうに。
妹が修業の旅に出ているので、こうして誰かと食事を取るのは随分久しぶりだからだ。
何かもう一人の家族が出来たような、そんな風に感じていた。
アミが作ったのは、山の幸をふんだんに使った鍋料理だ。
そろそろ冬が訪れるこの季節に、温かい鍋は身体の芯まで暖まる。
それをユキは黙々と口に運ぶ。
あまりにも表情表現が乏しいので、旨いのかまずいのか、その表情から伺う事が出来ない。
「ユキ……美味しい?」
アミは恐る恐る聞いてみる。
やっぱりここは感想は聞きたい処。
まずいならハッキリと言ってくれた方が、次は美味しく出来る様、次への励みになるからだ。
“――あの子はいつも美味しい美味しいって言ってたなぁ……”
彼女はふと、その頃の事を思い返していた。
黙々と鍋を口に運んでいたユキは、そっと箸を置く。
「旨いとかまずいとか、そんな事どうでもいいではないですか?」
おかしな事を聞くものだと思った。
食事なんていうのは、口に入って腹を満たすだけの行為。
だからこそ、彼女が何故そんな事を聞くのか、彼には分からなかったのだ。
アミはそんな彼の返答に、少し悲しそうな表情をしたが、すぐに笑顔をユキに向ける。
「そんな悲しい事言わないの」
それは決して怒ってる訳でも、なだめてる訳でも無い。
「食事は楽しんで食べないと、どんな美味しい料理も美味しくないのよ」
美味しいでもまずいでもなく――
“どうでもいい”
それはつまり、食する事の楽しみを放棄しているという事。
それは余りにも普通とはかけ離れた考え方。
彼女は別段、料理の腕に自信がある訳ではなかったが、それでも彼にその楽しみを感じて貰いたかったからこその。
「口に入り腹を満たす。それでいいではないですか?」
ただそれだけの事。ごく自然な生理的現象を、どう楽しめと言うのだろう? それがユキの出した応え。
それでもアミは優しく語り掛ける。
「私達は生きてるものを食べていかなければ生きていけないの。食べるものは全て命があるのよ。私達は命を紡いで生きている。だからこそ命への感謝の気持ちを忘れては駄目」
彼女の言葉の意味が理解出来ないかの様に、ユキは「はぁ……」と溜め息を吐く様に受け流す。
“今度は命への感謝の気持ち?”
これには更に理解に苦しんだ。
“死んだ動物は只の蛋白質の塊なだけ”
それだけの事なのに、何故そこまで? という気持ちを――
「ユキ! ちゃんと聞いてる?」
「えっ!? ああ、はい……一応……」
“どうも調子が狂う――”
その後も彼女の優しくも厳しい説教は、しばらく続いていたのは言うまでもない。
************
辺りの光も消え、静寂な闇が訪れる。
誰もが眠りにつく時間帯。
ユキは刀、雪一文字を抱き包む様に、部屋の外を眺めていた。
「まだ……寝ないの?」
奥の部屋に布団を敷いているのだが、いつまで経っても寝ようとしないユキに、アミは心配して声をかける。
「夜というのが一番危ない。寝込みを襲われたらそれまでですからね……」
実に理が適っている。
敵が何時此処に侵入してくるかは分からない。
「でもそろそろ寝ないと、身体が持たないわよ……」
「心配はいりません。時が来れば休みます」
彼女はユキを強引に布団に連れて行こうと思ったが、多分テコでも動かないつもりだろう。
何よりアミの方も睡魔が限界に来ていた。
「ちゃんと休む事、いい?」
「はい……」
返事こそしたが、布団で休むつもりはないのだろう。
アミはそれでも最後に『おやすみ』と呟いて、布団の中に潜り込んでいた。
再び訪れる静寂。
ユキは眠るつもりがないのか、ただただ座り込んでいた。
「寝る……か」
呟く微笑。
それは寝る事に何の意味があるのか――
睡魔という生理的現象?
はたまた体力回復?
その全てに意味があって、実は無駄で無意味だという事に――
ユキはこれまでの事を思い返していた。
四死刀と共に戦場を駆け抜けた日々の事を。
何の因果かこの地へ流れ着き、四死刀の不倶載天の敵“狂座”と闘う事になった事。
彼に迷いや恐れは無かった。
それがその名を受け継いだ、否この世に生まれた時から定められた宿命(さだめ)。
ふと彼はアミが語っていた“命”の事を思い出す。
“私はこれまで多くの命を奪い、今を生きている。そしてこれからも――”
戦場や闘いにおいて、奪う事を躊躇う事は、即ち死に直結する。
殺される前に殺す。生きる為に奪う。
だからこそ、ユキは彼女の言葉の意味を理解する事が出来なかったのだ。
自分が死ぬ事に恐れは無かった。
むしろ、いつ死んでもいいと――
“特異点。それはこの世に存在してはならない存在”
月明かりが照らされた静寂な闇の中、彼は一人自虐的に微笑していた。
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