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「……誇張しすぎたアカリン」
「芸人か」
尊さんに突っ込まれ、私はケタケタ笑う。
「水でも飲むか?」
「はい」
彼は冷蔵庫から水の入ったボトルを出し、グラスに注いで「ん」と渡してくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、尊さんは「風呂の準備してくる」と、階段を上がっていった。
ぐーっとお水を飲んだ私は、息を吐いて足を伸ばす。
(とりあえずアクセサリーを外そう。入ってたボックスにしまえば、なくさないよね)
そう思い、私はピアスとネックレスを外し、ポメラートの箱に収めた。
(ワンピースも皺がつく前に脱ごう)
立ちあがって背中に手を回した時、尊さんが階段を下りてきた。
「脱ぐなら手伝うぞ」
「そこまで体が硬い訳じゃないですよ」
クスクス笑って言うものの、尊さんにお姫様扱いされるのは気持ちいいので、彼にやってもらう事にした。
ワンピースを脱いでスリップ姿になった私は、ちょっと恥ずかしくなって「えっちっち」と尊さんを軽く睨む。
「んじゃ、次の箱」
そう言って、尊さんは白いリボンがかかっている黒い箱を手渡してきた。
「まだあるの!? 今日、恵の誕生日ですよ? 相乗りしちゃっていいんですか?」
「きっかけがないと、お前はなかなか受け取らないだろうが。真正面から『こういうのいるか?』って言っても『今はいいです』って言って先延ばしにしようとするし」
「そうですけど……。なんか、私、悪者になってる?」
クスクス笑いながら、『フー トウキョウ』と書いてある箱を開けると、金色のレースがゴージャスな、シルクのキャミワンピと、同色のシルクガウンが入っていた。
トロリとした柔らかなシルク地だけれど、胸パッドがついているので、先っぽがこんにちはする心配はない。
「わぁ~! 映画に出てくるマダムみたい。羽根のついた扇子でファサッてやるやつ」
「今日はそれ着て寝てくれ」
「分かりました。マダムになります」
「ほれ、そんな姿もなんだし」
尊さんはガウンを広げると、私の肩にかけてくれる。
「じゃあ、青コーナー、デストロイヤー・アカリン・エンド・オブ・デス!」
ふざけると、尊さんは横を向いて噴き出した。
「ホントにお前は愉快な女だな。じゃあ、チャンピオンとして受けて立ってやるよ」
「なら、尊さんはデス・エンジェル・ミコティね」
「どうしてエンジェルが出てくるんだよ。朱里のほうが天……」
そこまで言い、尊さんは口を噤んで目を逸らす。
「んー? 照れたのかね? 恋人を『天使』と言いそうになって、照れたのかね?」
私は体全体を傾けて、尊さんの顔を覗き込む。
「違うって」
今度は反対側にプイッとされたので、私も反対側に体を傾ける。
「お前な~……。そんな事をする奴はこうだ! こう!」
「むにゅっ」
尊さんが両手でほっぺを押し潰してきたものだから、私はくぐもった声を漏らす。
彼はそのまま、ほっぺを潰された私を見つめていたけれど、唇を歪ませたかと思うと、「ぷふふっ……」と笑い始めた。
「顔潰されても目力あるもんだから、可愛くて……」
「目力の強さには定評があります。……よく『黙ってると怒ってるように見える』って言われたなぁ……」
不意に学生時代を思い出してぼやくと、ムギュッと尊さんに抱き締められた。
「俺なんて涼に『この世の不幸をすべて背負ってるような、自殺寸前の文豪の顔』って言われたぞ」
「ひひひひひひ! 篠宮文学賞」
尊さんは笑う私を見て微笑み、そっと頭を撫でたあと、首筋にキスをしてきた。
突然だったので驚いて目を見開くと、顔を離した彼は意味ありげに笑い、ポンポンと頭を撫でる。
「食事、美味かったか?」
「すっごい美味しかったです!」
「そっか、なら良かった。明日、朝食の時間を考えたら、早めに寝たほうがいいな。……抱くのは我慢するが、風呂は一緒に入るからな」
「猫洗いですか?」
いつものフレーズを口にすると、尊さんはクスッと笑う。
「風呂上がりにびしょ濡れになったまま走り回って、放心した状態でドライヤーかけられるまでセットな」
「あはは! そういう子いそう!」
私は本物の猫を想像して笑い、ギュッと尊さんを抱き締めた。