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「え?」
私は予想外の言葉に彼女を凝視した。
「どういうことかなそれは」
ティニは、チタニーを指さした。チタニーもいきなりの事についていけていない様子だった。
「私は彼女のせいなんじゃないかなって思ってる」
ティニはそう言い切った。私は彼女の言葉を待った。ティニが言ったことを信じたくはないが、その可能性も否定出来ない。そう思うほどに、記憶を失って不安に駆られていた。それになぜか、彼女なら答えられるような確信めいたものを感じていた。
けれど、会話は終わったのだと言わんばかりに沈黙が訪れた。チタニーは悲痛な表情をして俯いたまま、黙っている。
その姿に私の良心は痛みを帯びた。あたかも彼女のせいだと思い込む私に気付いたからだ。私の腰にも満たないほどの小さな彼女に、一瞬でも気を抜けば涙が出てきてしまうような顔をさせているのは、間違っている。こんな犯人探しのような事は辞めるべきだ。そう思った時、彼女は小さく呟いた。
「うん。私がやったのかも」
それはあまりにも冷酷に言い放たれたものだった。
「私だよ、コリエンヌ」
チタニーは私の目と向き合ったまま、それが真実であるかのように告げる。間違わないように、追い打ちをかけるように、繰り返す。
「ティニールも驚いた?でも、あなたは分かっていたみたいね」
ティニも彼女への驚きが隠せないようだった。
「私はただ、適当に言っただけで…」
彼女の弱々しい声が教会内の静寂に飲まれていく。
「うん、でも当たったよティニール。あなたの答えは間違ってない」
繰り返される真実。つまり、私の覚えていない部分の行動は、彼女が何かしらで影響を与えていたということなのだろうか。果たして、そんな他人を動かしながら記憶を奪うというような非現実を起こせるのだろうか。それも、こんな幼い子供に。けれど、次々に浮かぶ疑問は度々感じていた彼女の不思議な言動によって消されていった。少なくとも、私も彼女を不思議な子供として見ていたのだから。
「君がどんな子なのか分からない。さっきの事も君に関係があるのかも。分からない」
私は言葉を発していた。
「うん」
チタニーは、私の言葉を否定もせずに受け入れる。彼女がその姿勢なら、私にだって同じものを抱え込む権利くらいはあるもの。私は言葉を続けた。
「君にもし、何かをした自覚があるのなら話して欲しいんだ」
何かを決めつける前に。それを真実だと思い込む前に。彼女の口から聞いておきたかった。
チタニーはしばらく考え込むような、言葉を選ぶように黙っていた。その姿はもう子供とは思えなくなっていた。
「コリエンヌの深層心理を読み取っただけ」
彼女は私が考えるよりも先に、言葉を紡いでいく。
「救いたい気持ちは私も同じだったから」
チタニーは悲しそうな表情をしていた。まるで、その行為や自分の気持ちに罪の意識を背負っているようだった。
「君は、その気持ちで何をしたのかな」
「私はコリエンヌに素直になって欲しかった。だから、気持ちを引き出して動かした」
彼女は苦しそうだった。顔を見ては晴れない私の表情に、言葉を探して気持ちを伝えようとしているからだろう。けれど、私の視界には傷だらけで横たわるドルの姿がずっと映りこんでいた。
「やっぱり言ってることがさっぱりだわ…」
ティニは異端者を軽蔑するように彼女を見つめたまま、気持ちをこぼす。私も彼女の言っていることを理解出来ているとはいえなかった。それは、話す土俵がそもそも違うのかもしれない。彼女の言っていることがすり抜けていくばかりだから。どちらかが苦しい思いをして、気持ちを言葉を工夫したところで、お互いの気持ちなんて、空振り、的外れかもしれない。でも、私も彼女の必死さにあてられ、これだけは伝えておきたかった。
「だからって…」
本音を振り絞るにはまだ早かったかもしれない。言葉が尻すぼみになっていくのをグッと堪えた。
「伝え方は人それぞれだよ。気持ちをさらけ出す事が自由でもなければ、正しいという事でもない」
私自身も悲しいのか、怒っているのか分からなかった。彼女の言葉を受け取ってどう思っているのか。
「対立した気持ちを無理やり通してしまえば、もう一方の気持ちは踏みにじられてしまう。それは、私が伝えたい気持ちじゃないんだ」
ただ、その言葉は私の気持ちに反していたものだと言うことだけは気付いていた。
チタニーは何も言わなかった。
「私を少し一人にさせてくれないかな…」
誰の了承を問うたわけではなかった。私は、返事など待たず、歩き出していた。一人になりたい。沢山の感情や言葉が溢れる中で、私が選んだものは一人の時間だった。何も入れたくない。私の頭はそう叫んでいたから。
ティニの隣で横たわるドルが目に入る。ただ、閉じている瞼がこんなにも苦しそうに見えるなんて。それが私のせいか、はたまた彼は妹の夢でも見ているのか。私はそれを横目で流し、教会を出た。