だてなべ
宮舘side
翔太とデートに行った日の夜からなんだか身体がおかしい、主に嗅覚が。あれからもう2ヶ月ほど経つがじわじわと何かが俺の中で変わっていっているような気がする。自宅の匂いとか洗剤とか食べ物とか、その辺は何も変わらないけど人と近付くと何故かほんの少しだけ甘い香りがするようになった。しかも特定の人だけ。メンバーで言うとうっすら匂うのが…誰だったっけ、康二かな。あと目黒もな気がする、康二に絡まれてるから匂い移ってるだけなのかもしんないけど。んでダントツで強いのが翔太。でもこれも頭がくらくらするくらい強いときもあれば、さっき上げた2人と同じくらい弱いときもある。しかもくそ強いのは月1くらい、なんの法則だよこれ。最近は日常生活に支障を来すくらいその影響が激しくなってきているし、俺の様子がおかしいことに気付いているメンバーも居るっぽい。誰かに相談した方が良いのだろうか
【…お疲れ、舘さん大丈夫そ?】
「っえ、」
目の前には我らがリーダー甘党マッチョの姿が。丁度良い機会だしあまり期待はできないが何か話してみたらわかることもあるかもしれないと最近自分の身体に起こっている変なことについて洗いざらい話してみた
「って感じでなんかおかしくて…」
【んー…わかんない、けど、1個だけちょっと思い当たるのがあって】
「え、あるの?」
【予想だけどな?】
「…ちなみに何?」
【それは____】
どうやら病院に行ってみた方がよさそうだ。照の説が正しいのであれば、俺はもう翔太に近付かない方が良いのかもしれない
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なんかよくわからないけれど採血とか色々検査されて医師から告げられた言葉は、照が言ったことと全く一緒だった
“落ち着いて聞いてください…バースが、変化しかけています”
「…え、?」
“混乱されるのも無理はないですよね”
「ちなみにβからどっちに…?」
“αです”
正直、翔太と番になれる可能性があると考えると嬉しかった。でもそれと同時に彼の運命の番が俺じゃなかった場合彼を傷付けてしまう可能性もあるから、それが怖くて何も言えなかった
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渡辺side
“もうこれ以上は無理です”
『そこをなんとか、』
“…渡辺さんの身体が、持たなくなってしまいます”
『…そう、ですか』
Ωであることを家族とメンバー以外には隠して生きてきて、これからもこの生活が一生続くと思っていた。それなのに、10代の頃から飲んでいたヒート抑制剤が最近効かなくなってきていて、番がいるはずのαや基本的にフェロモンが効かないはずのβにも影響が出るくらい深刻になってきてしまっている。今使っている薬が安全に使える一番強いやつで、これ以上の質や量のものを使い出せばどんな副作用が出るかもうわからないらしい。番を作れば良い話だなんてことはわかっている。わかっているけれど生憎俺の想い人はβ、どうしても諦めきれないから番は作っていない。馬鹿だよな。だけど好きでもないやつと番になるより愛する彼と友達のままだとしても一緒に居られる未来の方が俺は幸せだ。だからこのままでいい。最悪死んだっていい、俺が好きなのは後にも先にも彼だけだから。
それなのに、いつからだろうか。彼が俺と距離を置くようになってしまったのは
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宮舘side
もう俺のバースはβには戻らないらしい。相変わらずあの匂いはいつまでも感じ続けている。翔太からは濃くはっきり、他の人からはうっすらと。だから翔太には迂闊に近付けない、それがαになって一番辛いことだった。そんな日々を送っていたある日、とんでもないことが起こった。
【…康二】
照がちょい、と手招きして康二を呼んでいる。前もあったけれどおそらく別室で翔太がヒートを起こしてしまったのだろう、最近多いけど大丈夫なのかな
《んー?どないしたん?》
【翔太がさ、】
《ありゃ大変、抑制剤渡してくるわ》
康二が自分の鞄をごそごそ探してちっちゃいポーチみたいなのと水を持っていった。
いつもなら落ち着いたでー、なんて言いながら5分もすれば帰ってくるのに。あれからもはや20分ほど経っても帰ってこない。あまりにも遅い、遅すぎる
《…っあかん、しょっぴーヒート治まらん!》
【は?え、抑制剤飲ませたんだよな?】
《そりゃ飲ませとるわ、でもなんかわからんけど抑制剤全ッッッ然効かんねんて!》
【はぁ?わかった、康二ありがとな。ちょ、俺行ってくる】
康二が何を言っているのかよく理解できないうちに、照が出ていった。翔太は大丈夫なんだろうか、心配で心配で堪らなかったのに何故かその場から動けなかった
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渡辺side
『…はーっ…はぁ、…んだよこれっ…!』
周期から全然外れているからと思って薬を家に置いてきた俺が間違ってた。康二が持ってきてくれた抑制剤を飲んでも治る気配がないどころか康二も誘発されてヒートを起こしそうになっていたから一旦部屋を出させた。内側からじくじくと熱が上がっていって、本能的にどうしてもαを求めてしまう。こういうときどうしたらいいんだろう、助けを呼ぶ術もない。部屋の隅で身体を縮込ませて耐えていると外から誰かの声が聞こえてきた
【…た、翔太!!お前大丈夫かよ、てか聞こえるか?】
『…だ、いじょ、ぶ…』
全然大丈夫じゃないけど、大丈夫じゃないって言うとほんとにダメになってしまいそうだった。誰の声だろう、照かな。康二は大丈夫だったのだろうか、外に匂い漏れてないかな。色々と気になることはあったけれどどれも聞けるほどの余裕は残っていなかった
【ちょっと、開けるぞ】
ドアが少しだけ開いて、直ぐに閉められた。αの照はおそらく充満したフェロモンに当てられるとまずいからだろう。
【ごめ、俺じゃどうしようもねえわ。誰か呼ぼうか?番とか…翔太いねえのか】
番はいない。でも、なりたい人はいる。彼は今、呼んだら来てくれるのだろうか。こんな状態の俺は見たくないだろうし、引かれるかもしれない。でも今は、今だけでいいから。たとえβだとしても、真似事だとしても。俺だけのαに、俺の番になってくれないだろうか
『涼太…』
【え?】
『…っ舘さん、呼んでくんね?』
【…わかった】
『嫌なら来なくていい、とも…言っといてほしい』
【ん、わかった、】
足音が遠ざかっていって、照が離れていったのがわかる。…彼は来てくれるだろうか。まあ、最近避けられてるし可能性はほぼ0に近いんだろうな。そう思っていたとき、また足音が近付いてきた
「…翔太」
『…え、』
聞こえてきたのは今一番聞きたい声だった
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宮舘side
康二から事情を聞きながら照の帰りを待っているとバタバタ忙しない足音が迫ってきてバン!と勢いよくドアが開いた
【…っはあ、っ…あの…っ舘さん、】
「え、照?!大丈夫?翔太も…」
【翔太が、舘さんに…舘さんに、来てほしい、って】
照にろくな返事もせず俺は楽屋を飛び出していた。
彼のいる部屋の前まで来ると、ほんのりあの香りがした
「…翔太」
『涼太、?』
彼が俺の名前を呼んでくれたのはいつぶりだろうか
「うん、俺」
『…っあの、さ、ぁ…顔見たいんだけど、』
直ぐに答えられなかった。彼と対面するというのはこの甘ったるい匂いが充満した部屋の扉を開けなければならないということ。発情したΩとそのフェロモンに当てられるα、この部屋へ入ってしまえばどうなるのかなんて自分が一番わかっているはずだった。なのに手は勝手にドアノブを握ってしまう。絶えず聞こえてくる彼の荒い呼吸と小さな喘ぎ声。俺が彼に何かしてしまう前に止めてほしかった、だけどこの廊下には俺しかいないからそれさえも叶わない。だから最後に1つだけ確認を取る
「翔太」
『…なに、っ』
「俺さ、…βじゃなくてαなんだ。…だから今入ったら」
『…いいよ』
「…え?」
『…っそのつもりで涼太呼んだんだから』
そうか、彼も俺と一緒だったんだ
ドアノブを握った手に力を込めて扉を開けると翔太の匂いに包み込まれた感覚がした
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