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6話 防災訓練のお知らせ
掲示板の前で、
人が一瞬だけ足を止めていた。
薄手のパーカーに、
洗いざらしのズボン。
肩の縫い目が少し落ちていて、
楽な服装だと分かる。
髪は後ろで一つに束ねられ、
毛先が跳ねている。
整えようとして、
途中でやめた形。
防災訓練のお知らせ
日時 来週月曜
場所 各自の生活圏
内容 想定確認
紙は新しく、
角がきっちり揃っている。
下の方に、
小さな文字がある。
落ち着いて行動してください
無理な参加は必要ありません
日常を優先してください
最後の一行で、
少しだけ読み返す。
訓練なのに、
参加しなくてもいい。
周囲を見ると、
誰も掲示を気にしていない。
端末を確認しても、
追加の通知はない。
その日、
サイレンは鳴らなかった。
避難誘導も、
集合場所もない。
ただ、
想定だけが共有される。
昼も、
夕方も、
街は静か。
帰り道、
掲示はそのまま。
訓練は、
実施されたことになっている。
何も起きていないのに。
安心と同時に、
理由の分からない配慮を感じる。
誰かが、
危険を起こさないように、
先に片付けている。
そんな気配だけが残り、
日常は、
何事もなく続いていた。