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私
にはわからなかった。
自分がどうしてここにいて、何をしているのか。
何か大切なことを忘れている気がするが……思い出せない。
だがしかし、それは些細なことだ。
今はただ目の前にあることを片付けよう。
私がすべきことはそれしかないのだ。
だから私は今日も仕事に励む。
それが私の仕事なのだから――。
【 】
■
「おーい! こっち手伝ってくれ!」
「はい、わかりました」
私は呼ばれた方向へと駆け出す。
そこには、巨大な木箱があった。
どうやらこれを倉庫まで運ぶらしい。
私は言われるままに持ち上げようとするが、なかなか重い。
一人で持てるだろうか? そう思った時だった。
「ん?」
ふと横を見ると、一人の女性が一緒に運ぼうとしていた。
どうやら向こうも同じことを考えていたようだ。
彼女は私の顔を見るなりこう言った。
「あなたも運び屋さん?」
そう問いかけてきた少女の眼差しには、 どこか懐かしさが含まれていたような気がして、 僕は少しだけ戸惑ったけれど、 とりあえず曖昧に笑って誤魔化した。
僕の名前は、『アベル』。
今はまだ駆け出しの冒険者だけど、いつかきっと、 立派な冒険者に……なれたらいいなって思ってる。
今日も朝から、いつも通りギルドの依頼をこなしてたんだけど、 ちょっと気になる話を聞いたから、こうして街中まで戻って来たところなんだよね。
なんでも最近、この街では物騒な事件が多発してるらしい。それもそのはず、ここは日本でも有数の犯罪多発地域なのだから。警察も手を焼いているらしくてね、ついに刑事さんたちが動き出したみたいだよ。
しかしなんとも奇妙な話じゃないか! なぜ犯人はこんなにも大胆に犯行を繰り返すのか? それはもちろん愉快犯だからさ! ああ恐ろしい。もしも捕まったりした日にはどんな酷い目に遭うことだろうか。きっと奴らは有言実行するに違いない。そして無実を証明することもできないのだ。
つまり彼らは……
自分が一番かわいいのだ。
自分のためだけに生きている。
自分だけが大事なのだ。
誰かのために生きられるほど、強くない。
誰かを助けてあげられるほど、優しくもない。
だから、誰も助けなかった。
他人なんて知らない。
自分はもっと大事だったから。
自分を守れるくらいには強かった。
それが強さなのか弱さなのか、 誰にもわからないけれど……。
そんなこんなで……
今日もどこかで、誰かが泣いている。
涙の代わりに血を流す者たち。
そこには、希望はない。
しかし彼らは……笑っている。
死期を悟った者だけが見せることのできる、穏やかな表情を浮かべているのだ。
そうして、その日はやってきた。
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
助産師さんの声が響く中、私はそっと目を開けた。
目の前には、今にも泣きそうな顔の母がいる。
ああ、なんて顔をしているんだろう。
「ほら見てお母さん。可愛いでしょう?」
私は腕の中で眠る我が子の顔を見せた。
母は安心したのか少しだけ頬を緩ませると、また泣き出しそうになる。
だから言ったじゃない。そう言ってしまえば簡単だけど、 そんなことばかりじゃつまらないわね。
それでも、私たちは何かを信じたいから……。
愛することだってできるはずよ? 愛されることも、きっとね。
だから今日も、こうして生きているの。
それはまるで夢のように美しくて、 とても残酷なことなのだけれど……。
ねぇ、あなたには見えるかしら? 私が見ている景色と同じものが。
その目に映るもの全てが幻だとしたら、 あなたは何を見るのかしら。
それがどんなものであれ、 あなたの見るものは真実ではない。
あなたにとっての現実なんて、 誰かにとってはただの夢に過ぎないのだから。
それならば、あなたは何を信じるの? 信じた先に何があるというの? 信じられることこそが奇跡だというのなら、 私は今すぐそれを終わらせてしまいたい。
そうすれば誰も泣かないでしょう? でも、そうしたところで何も変わらない。
ただ少しだけ救われる気がするだけだ。
結局は自分のためだけに涙を流すことになる。
本当に泣きたい人が泣いていないときにまで。
私はこんなにも醜くて汚らしい存在なのに、 どうしてみんな優しくしてくれるんですか? そんなことを訊いたって無駄なのはわかっているけど、つい口走っちゃうんですよね。
だってそうでしょう? 私がいくら否定しても、 私のことなんて誰も見ていないから。
私の気持ちなんて誰にもわからない。
誰か理解してくれている人がいるとしても、それはきっと私の妄想の中の人物だから。
その証拠に、私は誰からも愛されていないもの。
私がどれだけ努力して自分を磨いても、結局は私自身じゃなくて、容姿とかスタイルとか内面じゃないところで評価されるだけ。
それが現実なんだよね。
本当に辛いよ。
私がどれほど頑張っても、他人には伝わらない。
どんなに想っていても、言葉にしない限り、相手に伝わることはないんだよ。
言葉にしたって伝わるとは限らないんだけどさ。
それって残酷だと思わない