「──鈴様は、廊下と陽介様のお部屋のお掃除をお願いします」
華さんから指示を出されて、「わかりました」と、応じた。「でもあの、様だなんて……」ついさっきまでは名字にさん付けで呼ばれていたのが、急に名前に様が付けられたことに困惑をする。
「この家に同居するからには、もうあなたも他人様ではないので、お名前でお呼びするのが妥当だと思ったのですが、鈴様では不服でしょうか?」
「いえ、不服ということではなくて! 私には、様だなんて、その、もったいないと言うか……」
日頃から和服をピシッと着こなす華さんと差し向かうと、ついつい緊張して口ごもりがちになってしまう。
「では、何とお呼びすれば……鈴ちゃまとか?」
唐突に口に出された呼び方に、委縮していた気持ちがいっぺんに消し飛んで、
「……鈴ちゃま、って……」
くすぐったい思いに駆られる。
「鈴ちゃまでよろしいですよね?」
どうやら私が否定しなかったために、華さんの中ではその呼び方に決まってしまったらしく、「鈴ちゃま……」と、もう一回呟いて、ふふっと小さく笑いをこぼしていると、
「……いずれは、奥様と呼ばせていただきますから」
不意に華さんから耳打ちをされて、心臓がビクンと跳ね上がったのは言うまでもなかった──。
コメント
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鈴ちゃまって子供じゃないんだから、華さん鈴さんで良いと思うけれど😊