コユキの内心を読んだかのように『淫蕩のルクスリア』は痛い所を突いてくるのであった。
「今までの階の皆さんを手本にして、我と貴女の淫蕩比べをする事としましょうよ、お互いの男性、いいえ同性でも構わないわね、経験を比べて見るのはどうかしら? そうしましょう?」
「…………できない」
「あら、どうして? 皆してることでしょ、恥ずかしがる事はないのよ?」
コユキはいつも通り無表情なままだったが、肩の辺りを注意深く観察すると、僅か(わずか)に震えている事が分かった。
そう、コユキは未通女(おぼこ)所謂(いわゆる)処女であるだけでなく、百合的な意味でも未経験者、つまりビギナー又はノービスだったのだ。
屈辱にその身を震わせながらも、頑張ってルクスリア(全裸)に告白するコユキ。
「だって、アタシ、経験…… 無いもん……」
「えっ? 何? もう一回言って?」
聞こえていた筈なのだが、そういう意味でもイヤラしいルクスリア。
「…………アタシは、ヤスウリ、しない、その、シュギ、だから……」
「ああー、そうなのね! でも、自分でそう決めてるんだったら良いんじゃない? うん、口惜しくない口惜しくない、泣かないのよ、泣かないのよぉ~」
「くっ!」
コユキは涙を一滴(ひとしずく)流したが、それは間違いなく悔し涙であった、故に、コユキは全身に負けん気を満たし、見る見る内にいつもの元気を取り戻して見せたのである。
「別に口惜しくは無いわよ! それより勝負の方法よ! アンタは豊富な性体験をあたしに見せれば良いけど、生憎(あいにく)アタシにはアンタに見せれる経験が無いわ、残念だけどね! そこで、アタシが理想だと思った恋愛、って言うか大人の恋のイメージを見せるわよ! それで、どっちが淫蕩、『スケベ』か勝負をつけましょう!」
いつもの傲慢(ごうまん)さを取り戻したコユキの提案をしっかりと吟味(ぎんみ)していたのだろう、考え込んでいた『淫蕩のルクスリア』はニマァといやらしい笑みを深めて答えた。
「うふ、それで良いなら我も受け入れてあげてよくってよ、大人の世界を教えてあげるわね、うふふふ」
――――初心(うぶ)で純情な聖女様の理想の行為? ふふふ、どんな妄想を抱いているのやら? 高原のプチホテル? 都心のスイートルーム? 白馬の王子様かしら? その子供染みた理想、叩き壊して差し上げるわ!
娯楽と快楽の殿堂、室内に足を踏み込んで以来、ルクスリアだけが見えて、周囲は景色も無くただ夜の闇の如き『ミッドナイトブラック』がどこまでも続いている様な、殺風景な空間の中で二人は向かい合って立つ。
全裸のピンク美女の前に立つコユキも又、ピンクビキニを身につけた特大の肉槐である、見つめあう両者の瞳が同時にキラリっ! と輝くと揃って動きを止めたのであった。
ピクリとも動かずに向きあっているだけの、端目(はため)には大変地味な対決であったが、内面では凄まじい戦い『遂に決着! ピンクの真剣勝負、残暑の昼下がり、お色気一番決定戦!』的な事が競われている事は、先程のやり取りを見ていた者であれば容易に想像がつくだろう。
………………
数分後。
ゆっくりと目を開いた二人はその一瞬前、揃ってその身をブルルっと震わせてから、その視線を交錯させたのであった。
最初に口を開いたのは我等が聖女、コユキであった。
「ふぃ~! アンタ凄かったわネェ? 良く言う『ヤリマン』いいえ、あれね、あの『サセコ』ってヤツかしら? 凄まじかったわよ! 高校一年だもんねぇ、恐れ入ったわぁ!」
「ん? ああ…… そうね、うん」
なんだかルクスリアの歯切れが悪い。
コユキは映画を見た後の女の子みたいに、感想を誰かに言いたくて仕方ないみたいな感じだった。
「ほら、いろんな男、それこそ数十人に翻弄(ほんろう)された後、最初の、初体験の相手に再び巡り合って、愛し合い、割とすんなり結婚するじゃない! ドラマティックだったわよぉー」
「ん、うん、そうね……」
やはり、何故だろうか? 反応がイマイチ、どころか心ここに有らず、何か気になる事でもあるのであろうか?
コユキは一切気にせず話し続けた。
「んでも、結婚後、最初に勤めたレンタルショップのバックヤードで店長と、とか、長男出産後のスーパーの冷蔵庫で売り場主任ととか、割と良く見るAVっぽくって面白かったわよ! 特に、旦那がバイトしてる最中にそのコンビニの駐車場で…… とか、リアルで良かったわー! 本物の迫力とスリルが面白かったわよぉー!」
だ、そうだ。