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裏五条
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咲乃ルイ
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梵衍那国
美猿王は自身の首筋に向けられた刃をよく知っていた。
「久しぶりですね、王。ご機嫌は如何ですか?」
「あぁ、お前が来たから機嫌は良いぜ?邪」
邪の長い爪が美猿王の首筋に食い込み、赤い血液が白い肌を伝う。
「っ!!王に何してるの!?」
「「っ!!?」」
星熊童子の叫び声を聞いた鬼達は一斉に美猿王に視線を向け、邪が自分達の王に刃を向けている事に気付く。
すぐさま星熊童子が刀を構え、一種で邪の元まで辿り着き、刀を振り上げるが天が中華包丁で攻撃を防いだ。
キィィンッ!!!
刃物同士がぶつかり合った衝撃で小さな火柱が上がり、兄である邪に近付けさせないように星熊童子の前に立つはだかる。
「兄者の邪魔しないでよ、鬼のお姫様」
「糞兄妹が、王の邪魔をする気?王に可愛がって貰った恩を仇で返す気?」
「あたし達は妖怪、天邪鬼だよ?心が躍る方に行く、楽しい方に行くのは当たり前でしょ?へへ、鬼のお姫様の事を殺せるねぇ、やっとさぁ?」
「お前が私を殺す?本気で殺せると思ってるの?」
天の言葉を聞いた星熊童子は真顔で天に尋ね、天界から持ち出した銃を取り出しては銃口を向けた。
カチャッ。
だが、星熊童子が天に銃口を向けたと同時に、邪も天界の武器庫から持ち出していた銃を取り出し、美猿王
の額に銃口を突き付けていた。
「王!?テメェ、俺等の王に何してくれてんだ!?今、王に向けてる物を下ろせ!!!」
その光景を見た鬼達の眉間に深い皺が入り、金平鹿が牙を剥き出しにさせて邪に言葉を吐く。
「うーん、どうしようかなぁ。君達のお姫様が、僕の妹に向けている銃を下ろしてくれたら、僕も銃を下ろしても良いよ」
「はぁ!?何言ってんだよ、テメェ等が先に俺等に喧嘩売ってきたんだろ!?」
「喧嘩を売って買ったのは君達鬼だろ?僕達の事を下に見ているようだけど、そんな奴に王の背中を取らせちゃだめでしょ」
「この野郎!!!マジでころ…」
邪の自分達を馬鹿にするような言葉を聞き、言い返そうとする金平鹿は温羅の姿がない事に気付き口を閉じた。
一瞬で邪の元まで辿り着き、邪の頭上から一筋の光が走り、温羅は力強く刀を振り下ろす。
ブンッ!!!
「兄者、逃げて!!!ソイツ、やばいよ!」
「ハハッ、目は見えなくてもやばいのは分かってるよ」
天の忠告に返答しながら、美猿王に向けてた銃口を温羅に向き変え、引き金を引こうした時だった。
「お前等、やめろ」
「「…」」
美猿王がそう言うと温羅と邪は動きを止め、二人の視線が美猿王ただ一人に注がれる。
邪は自分の王である美猿王の事を殺しに来たのに、彼の言葉を命令を聞いてしまうと動きを止めてしまう。
「お、王、何で止めるの?コイツ、王の血統術を真似した嫌な奴なんだよ。あんなに苦労して手に入れた術を、この男は見よう見真似で…」
「縊鬼、血統術は遥か昔からある術だ。俺の術ではないし、コイツん術でもない。だが、お前まで出来るとは思っていなかった。俺を殺しに来るともな?邪」
「何で、貴方は鬼達のように怒らないんですか?」
「俺に怒ってほしかったのか?邪」
美猿王は邪の予想外の言葉を聞き、思わず笑みが零れてしまう。
視線を邪から爺さんに視線を向けて、「コイツも中に連れて行く」と言葉を吐いた。
「お連れ様も、神に信仰がある方のようにお見受けします。良いですよ、お連れ様もご案内致します」
「王よ、今回ばかりはアンタの言葉に反論させてもらうよ。その男と二人にさせる訳にはいかねーよ」
「あはは!お前も珍しい事を言うな?俺に口答えしたのは、初めてじゃないか?今日は珍しい事ばかり起きるなぁ」
「おいおい、茶化すなって。こっちの気持ちを、少しは考えてくんないの?」
温羅はそう言って、美猿王の事を見つめる。
普段の温羅からは想像が出来ない真面目な口調、視線を向けられた美猿王は唇の端を片側だけ上げた。
「温羅、俺が戻るまでに片付けておけよ?お前等の事を残して、死ぬつもりはない。この言葉を聞いても安心しないか?温羅」
「これが最後の命令じゃないって事で合ってる?」
「は?そんなの言わなくても分かるだろ?お前達にとって、簡単な命令を最後にすると思うのか?」
温羅の返答を聞いた美猿王が目を点にさせながら言葉を返すと、温羅を含めた鬼達が安心したように笑いだす。
星熊童子は微笑みながら、美猿王に向かって声を掛ける。
「ふふ、こっちの事は何も心配しないで?ゆっくり遊んできて良いよ」
「俺の嫁から許可を貰った事だし、中に入ろうぜ?邪。最後に楽しもうぜ」
「僕も同意ですね、王。天、僕が戻ってくるまで待ってるんだよ」
「うん!兄者が戻って来るまで、遊んで待ってる!」
天の言葉を聞いた邪は、美猿王と共に盲目の爺さんの
後に続き、開かれた扉の中に入って行く。
キィィッと音を鳴らしながら分厚い扉が閉まり、天の
額から冷汗が流れる。
「グアアアア!!!」
ブシャアアア!!!
叫ぶ犬神の体から勢いよく血が噴き出し、紫色の血飛沫を浴びながら黄泉大津神が犬神の背中に立っていた。
ゴンッ!!!
「ゴフッ!?」
ビチャア…。
巨大な髑髏化した無天経文に犬神は頭を積みつけられ、頭蓋骨が折れる音、血肉と共に脳みその肉片が飛び散り、無天経文の足の裏にべっとりと付着する。
犬神の体が小刻みに震え、体が痙攣している事が見て分かり、天は犬神が叩けない状態だと判断するしかなかった。
自分一人、左腕なんて使い物にならない状態で鬼達と戦わなければならない。
兄である邪の命令を妹の天は聞きたかった、彼とはもう二度と会う事も抱き締めてもらう事も出来ないのだから。
左腕全体に広がった紫色の痣は首の動脈部分にまで広がり、鋭い痛みが時折に天の全身に駆け巡る。
「お前、左腕の感覚がないだろ。その痣は、王の事を裏切った者に与えられる代償だからな。お前にも痣が浮き出ているんだから、兄貴にも同じように出てるんだろうな。今も腕が痛むんだろ?同じ状態になって死んでいった奴をさ、何人も見て来た訳よ」
「…、何が言いたいの?」
「何でさ、王の事を裏切るんだ?ガキ」
温厚な話し方をしていた温羅だったが、最後の言葉は語尾を強めた言い方をした。
天の背中に悪寒が走り、前髪で両目が隠れていたが、下を向いた瞬間に右目が前髪の隙間から見える。
「姫、このガキは俺が相手するよ。良いだろ?」
「へぇ、珍しいね。温羅が自分から相手をするなんて、妹だけ?お兄ちゃんの事も相手して良いんだよ?」
「何百年ぶりかなぁ、苛々したのはさ」
ブンッ!!!
ブシャアアア!!!
「え?」
左目の視界が赤く染まり、何か液体のようなものが頬に掛かり、天は恐る恐る視線だけを左の方に向けた。
ビチャビチャと血液が太ももを伝って地面に血だまりを作っていて、本来ある筈の左腕を下に落ちている状態で見る事はない。
さっきまで星熊童子と話をしていた温羅が、いつの間にか天に刀を振り上げ、左腕を斬り落としていた事に気付かなかった。
目の前にいるのは本当の鬼、躊躇せずに腕を斬り落とせる残虐な鬼だ。
「ほら、痛そうだったから腕を斬り落としてやったぜ?これなら、まともに俺と戦えるだろ?」
「わざわざ、やってくれたって事?あははは、アンタ
頭のネジがぶっ飛んでる。死にそうな状況になったのも初めてだし?やっぱ、こういう時にしか生きてるって実感はしないよねぇ!?」
天はそう言いながら、歓喜の表情を浮かべたまま温羅に中華包丁を振り翳す。
ブンッ!!!
キィィンッ!!!
軽々と天の攻撃を防ぎ、つかさず温羅は刀先を天の喉元に目掛けて突き刺してくるが、中華包の盾から横向きに変えて刀先を弾く。
天は体勢を低くし、温羅との距離を詰めて行き、中華包丁を勢いよく振り回した時だった。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーンッ!!!
空から大音量の銅鑼が鳴り響き、晴天の色をした青空が灰色に染まり、身長三百センチある瘦せ細った真っ黒な肌をした人間らしき存在が、何千人程の人数が現れる。
「え、何あれ」
「人間じゃねーよな?何なんだ、あれ?」
「「オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ」」
牛頭馬頭と金平鹿の二人は謎の生物達を見ていると、自分達の人間達が目や耳、鼻と口から血を流して地面に倒れ込んだ。
ドサドサッ。
銅鑼の鳴り響く音と謎の生物が何度も繰り返し唱えている呪文、神の名前らしき名を呼んでいる。
「「オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ」」
夜叉は地面に倒れた人間の首の動脈に触れ、生死を確認すると動脈の鼓動が指先から伝わらないず死んでいる事が分かった。
「死んでる?夜叉」
「即死だ、あの謎の生物が繰り返し唱えている呪文の影響だろうが…。俺達鬼や妖には効果がないのかもしれない」
「夜叉ー?渡した銃をいつでも使えるようにしておいて?あの化け物、強いと思う」
星熊童子の言葉を聞いた夜叉は、言われた通りに渡された銃を取り出した瞬間、謎の生物達が星熊童子達に向かって走り出す。
カチャッ、バンッ、バンッ!!!
すぐさま銃口を謎の生物達に向けて引き金を引き、弾丸を放ち星熊童子は後ろに一旦下がる。
ブシャッ!!!
ボンッ!!!
弾丸が謎の生物達の頭を撃ち抜き、墨汁のように黒い液体と共にドロドロとした何かが宙に散らばった。
だが数が多い為、弾丸が当たった者だけが倒れ、当たっていない者達は向かって来る。
ブンッ!!!
ドゴォーンッ!!!
謎の生物が拳を振り上げ、金平鹿は慌てて攻撃を避けると、拳がそのまま地面に落ち、その衝撃で地面に大きな穴が空いた。
「うおっ!?あっぶな!?」
「あははは!ビビッてやんのー!俺が殺す!」
「あ、馬鹿!」
金平鹿の言う事を聞かずに牛頭馬頭は鉄又を振り上げ、謎の生物の肩に刺さるが筋肉が膨張し、牛頭馬頭の鉄又が抜けなくなる。
謎の生物が鉄又が刺さっている方の腕を上げると、鉄又を持った状態の牛頭馬頭の体が宙に浮き、そのまま地面に強く叩きつけられた。
ドンッ!!!
「ガハッ!?」
叩きつけられた牛頭馬頭の背中に強い衝撃が走り、胃からこみあげてきた血の塊を吐き出す。
吐血する牛頭馬頭を見た鱗青が走り出し、地面に倒れ込んでいる牛頭馬頭に謎の生物が拳を振り翳し、鱗青は牛頭馬頭の体に覆い被さる。
ガバッ!!!
「おい、何すんだよ!?さっさと…っ」
ズシャッ!!!
牛頭馬頭が言葉を言い終わる前に、鱗青の腹から謎の生物の大きな拳が付き出し、腸がだらしなく傷口から血液と共に漏れ出した。
「ゴホッ!!!」
鱗青が吐いた血が牛頭馬頭の顔に思いっきりかかり、何が起きたのか理解が追い付かず、ただ謎の生物を見つめつ事しか出来ない。
何故、鱗青は自分の事を身を挺して守ったのか、牛頭馬頭は純粋に分からなかった。
牛頭馬頭の事を見ながら鱗青は、口をパクパクと動かずが喉を切られているので言葉が発せない。
「罪滅ぼしのつもりで、僕の事を守ったつもり?姉ちゃんの事を見殺しにしたくせにっ、こんな事で許されると思ってるの!?」
「…、…ぁ、ぁ」
「ふざけんなよ、アンタは簡単に死んだらダメなんだよ。もっともっと苦しんで、後悔しながら、僕に虐められて生きていくんだよ!?」
「…」
「おい、何か反応してみ…」
罵声を浴びせながら牛頭馬頭は鱗青の顔を覗き込むと、彼の瞳から光がない事に気付き、足元から灰になって行っているのが分かった。
体も精神的にも弱っていた鱗青には、謎の生物から受けた傷を回復する力が残っておらず、戦う力も残っていない。
妖怪は死んだら姿形は残らない、灰になって散りゆくだけ、幾千年から変わらない妖怪の死に方だ。
「は、は?な、何これ?何で、灰に…」
「何でって、その男が死んだからだろ?何言ってんだ?お前」
戸惑う牛頭馬頭に、金平鹿は当たり前のように答える。
「は、は?し、死んだ?う、嘘だ。だ、だって、鱗青は妖怪だから、傷だって簡単に治るじゃん!!!こんな傷だってさ、す、すぐに治るんでしょ?」
「ソイツ弱り切ってたし、傷を治す体力もなさそうだし、無理だな。今だって傷が治ってないだろ?」
「な、何で?意味が分からないんだけどっ」
「意味が分からないって、お前がコイツの事を虐めてたからだろ?体力がないのは」
金平鹿の言葉を聞いて、牛頭馬頭は言葉を失ってしまった。
まさか、自分のして来た事が原因で鱗青は傷を治せず、死んでしまうなんて思ってもいなかったからだ。
「そ、そんな、僕の所為だって言うの?ネ、鱗青が死ぬのは…。ぼ、僕、こんなつもりで鱗青の事を叩いてた訳じゃないのにっ…」
「おいおい、俺に聞くなよ。お前じゃねーんだし、自分が一番分かってんじゃねーのか?ガキの面倒を見てる暇ねーんだと、こっちはっ!!!」
牛頭馬頭との会話を終わらせ、金平鹿は銃を取り出し、牛頭馬頭の目の前にいる謎の生物に銃口を向け引き金を引く。
バンッ、バンッ!!
ズシャッ!!!
放たれた銃弾は謎の生物の頭に当たり、銃弾を受けた衝撃で頭が弾け飛び、黒色の血肉と目玉らしき黒い球が地方発砲に飛び散る。
鱗青に体は跡形もなくなり、少しの風と共に灰は空彼方に消えていき、残ったのは触れた時の体温と顔に付着した血液だけ。
「違う違う違う!!!こ、こんな事を望んだ訳じゃない、違う!!!し、死んだの?本当に鱗青は死んだの?僕の所為?僕の所為で?死んだ、死んだ?」
何度も同じ言葉を繰り替えし、頭を押さえる牛頭馬頭の前に星熊童子が牛鬼を引き連れて前に立つ。
「悲しむ必要はないんだよ?牛頭馬頭」
「お、姫様?」
「この世界はもうすぐ終わるの。王が新しい世界の王になって、生き還らせてくれるわ。だから死んだって悲しくないの、私達の王は王になる準備が出来てるもの」
星熊童子は牛頭馬頭の頬を両手で触れ、顔をの覗き込みながら言葉を続ける。
サラサラち薄紫色の髪が牛頭馬頭の顔に掛かり、星熊童子の真っ黒な瞳が牛頭馬頭の瞳を静かに捉え、周りの雑音も聞こえなくなり、彼女の言葉だけが耳に響いた。
「私達は経文を全て集めて、王を天竺に連れて行くの。誰にも縛られず、誰からも奪わせない私達だけの楽園を創るの。だから何も悲しくないの、怖い事なんて一つもないの」
「本当に鱗青の事、生き還らせてくれる?王様は僕の望みを叶えてくれる?お姉ちゃんの事も生き還らせてくれる?」
牛頭馬頭の言葉を聞いた星熊童子は、言葉を発しずに静かに微笑んだ。
***
外の様子を知らない美猿王と邪の二人は、盲目の爺さんが持つ蠟燭の光だけを頼りに足を進めていた。
砂で出来た廊下の壁の狭い道、邪は美猿王の頭に銃口を向けながら歩き、美猿王は何も聞かず何とも思ってなさそうな態度を示している。
「アンタ、目が見えないのによく迷わずに歩けるな」
「ここへは毎日のように来ていますし、一本道ですので迷う事もありませんよ。お連れ様も、私と同じように目が見えていないのでしょう?若いのに、苦労されて」
「ソイツの目は俺が奪った」
美猿王の言葉に盲目の爺さんは、何も答えずに歩み続けて行く。
暫く歩いていると、目の前から光が射しこんでいる扉がない部屋に辿り着き、部屋の中に入ると砂の壁一面に浮世絵のようなものが貼られていた。
炎と太陽を司る弥勒菩薩、数々の曼荼羅が描かれた絵に、お経のようなものが書かれた絵巻も壁に中身を広げた状態で貼られている。
*弥勒菩薩とは、お釈迦様が丹生美恵津入滅後、五十六億七千年後の未来に仏となって現れ、人々を救済するとされている未来仏*
部屋の真ん中にも木で作られた弥勒菩薩の仏像が置かれ、周りには新鮮な果物と酒達が供えられていて、盲目の爺さんは仏像に向かって深々と頭を下げた。
お線香の香りが美猿王と邪の鼻を通り、美猿王は曼荼羅を眺めながら盲目の爺さんに声をかける。
「この仏像がアンタら等が信仰している神なのか」
「はい、私共は弥勒菩薩の教えに従っています。弥勒菩薩はこの世界の事を、欲にまみれた汚い世界、欲界と人々におっしゃたとされています。人間が持つありとあらゆる欲望を断ち切り、悟りを開く事でこの世界を綺麗にする事が出来ると。そして死後、弥勒菩薩
が住んでいる兜率天に行けると」
美猿王の問い掛けに答えながら、盲目の爺さんは頭をあげ、壁に貼られた曼荼羅を見つめた。
*兜率天とは、仏教の世界における世界観における天界の一つであり、兜率天には内院と外院があり、五感の全てを満足させてくれるようなものが揃っていると言う意味で、知足、喜足、妙足などに訳されます。
ある意味、人間にとって理想的な世界とも言えます*
「昔、天界で読んだ書物の中で、兜率天の事を書かれたものがあったな。欲望を満たしてくれる物が全て揃っていて、まさに人間達にとっての理想郷だ。爺さん、こうは思わなかったのか?その世界に行ったとしても、人間は新しい欲望が生まれるってよ」
「お客人の考えを伺っても?何故、そう思われるのですか?」
「この目で見てきたからな、欲望の汚さを。欲しい物を手に入れたとしても、人間はまた欲しいものが増えて行く。手に入れる為なら裏切りもするし、最悪殺しもする。アンタ等が信仰している神の言葉の中で、俺も共感する部分はあったぜ?欲界、この世界にお似合いの言葉だ」
「貴方は多くのもの、その目で見てこられたのですね。だから、弥勒菩薩は貴方の事を導いたのでしょう」
美猿王の言葉を聞いた盲目の爺さんは、両手で拝みながら呟く。
「俺の事を今だに殺さないが、何を考えているんだ?邪よ」
突然、美猿王に声をかけられた邪の体がピクッと反応してしまう。
「自分でも驚いていますよ、貴方に引き金を引けない事が。どうしてなんでしょう、妹を置いてここに来たのに、どうしてなんですか」
「お前、悟空の方に心が惹かれたんだろ?だから、天と一緒になって殺しに来た。邪、お前は自分が思ってるよりも俺の事が好きなんだよ」
「僕が本当に、貴方の事を好きだと思っているんですか?僕達の事を常に疑っていたのは知っていました。この際だから言います、僕は貴方に鬼達のように信頼してほしかった」
邪はずっと喉の奥で引っかかていた言葉を吐いた瞬間、胸が締め付けられる感覚がした。
美猿王が鬼達と再会する前は、天邪鬼の兄妹が美猿王を支え、手となり足となって動き、王からの寵愛を受けていた。
それなのに鬼達が美猿王に元に戻るや否や、自分達の居場所は意図も簡単に奪われてしまい、星熊童子は天
邪鬼の兄妹達を自分達の輪に入れる事を拒んだ。
美猿王は星熊童子の意見を受けて入れている姿勢を見せ、天邪鬼の二人は鬼達に不信感を抱いてる中、悟空にかけられた言葉に強く胸を撃たれた。
手のひらに爪が食い込む程に力強く拳を握り、傷口から漏れ出た血液が小さな矢の形に形成され、美猿王の首元に目掛けて飛ばされる。
シュシュッ!!!
キィィンッ!!!
放たれた血の矢達が美猿王の首元に刺さる前に弾かれ、美猿王の首に金色のチェーンのネックレスが輝いている事に気が付く。
太陽と蓮の花が彫られた円型のチャームが眩い光を放ち、盲目の爺さん姿はなく、着ていた服だけが地面に残されいる。
「お爺さんの気配がなくなった?王、貴方が殺した訳ではありませんよね?」
「あの爺さんは人間じゃなかったんだよ、邪」
「どう言う事ですか…?」
「フッ、この国の神器だった。そう言えば理解できるか?邪」
ビュンッ、ブシャッ!!!
美猿王がそう言うと、背後から勢いよく飛んできた青龍刀が邪の背中に突き刺さった。
コメント
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おお…、めっちゃ重い展開でしたねこれ。牛頭馬頭が鱗青の死を受け入れられずにパニックになってるところ、読んでて胸がギュッとなりました。自分のしたことが原因で死なせちゃうって、そりゃ頭おかしくなるわ…。そして星熊童子が「生き還らせてくれる」って微笑むの、優しそうで実はめっちゃ不気味。王への信仰が歪みすぎてる感じがゾッとしました。邪の「信頼してほしかった」って告白、切なすぎる…。