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「実を言うと、まだ手は残されている」
「本当か?」
瞳の奥が見えないセイのまぶたが笑っていた。
そういう風に感じるだけだが…。
どちらにしてもそういうことは早く言ってくれよ。
「君が自分の世界を復活させればいいんだ」
前言撤回。こいつの言葉は意味不明だ。
貴族青年Dは激しく首を横に振った。
「いや、無理だろ。だってモブだし…」
「主人公力を上げれば可能性はある!」
そこまで断言する根拠はどこにある!
「夢みたいな事言うなよ」
「さっきみたいにワームドを撃退していけばいいんだよ」
「ワームドってそういう仕様なのか?」
「あくまで僕の推測だけどね。ワームドは物語の主人公を吸収している。倒せばその力が君に流れ込む事はあり得る。それに主人公力を上げればイマジエイトの中枢部に帰ったキャラクターを構成する元素体に力を戻す事もできるだろう」
流れるようの説明するセイに思わず納得されそうになる。
いやいや、ここで諭されてどうする。
「モブの俺に主人公力を上げるとか荷が重すぎる」
「そうだね。力が定着するには膨大な時間を必要とするだろう」
うわ~。やっぱり断言されちゃうか。そりゃあ、そうだよな。
でも、物語がなきゃ俺のモブとしてのアイデンティティの意味もなくなっちまう。
やらないよりはましか…。
「そのワームドはどこにいるんだ?」
「おっ!やる気だね」
時間はあるしな。
何より食べられなかったビーフステーキへの未練が渦巻いている。
これはしばらく消えそうにないな。
「ワームドは世界各地に出現する。それを地道に駆除していくのが確実だね」
「ちょっと待て。持ち場の物語以外の世界には行けないはずだろ?」
イマジエイトでは物語同士が混在しないようにするためにキャラクター達は生まれた世界を出る事はできない。
そういうルールだ。
「心配はないよ。ワームドがいろんな物語を消滅させたせいで、世界を隔離する境界線が消えてしまったから」
「それこそ、大変じゃないか!世界同士がぶつかったらそれこそイマジエイト、ジエンドの危機だろ!」
「そのあたりはしばらく大丈夫だろう。各世界は絶妙なバランスで保たれている」
本当だろうな。この男とは数時間だけの付き合いだが適当な感じがしてならない。
そこはかとなく不安が心を占めていく。
「だが、このままワームドの攻撃にさらされ続けたらどうなるかわからない」
どちらにしてもワームドは早く処理しないといけないって事だよな。
「そういう事で頑張ってくれ」
「超投げやりだな…」
「そんなつもりはないよ。期待しているだけだ」
セイは怪しく笑った。
貴族青年Dの主観がほとんどを占めているが…。
「で、君の名前は?まだ聞いてなかったね」
「名前?そんなものモブの俺に設定されてるわけないだろ」
「うわあ~切ないね」
「失礼だぞ。俺はモブキャラであることに誇りを持ってるんだ。今まで何回、ヒロインの門出を見送ってきたか教えてやろうか?」
「いや、遠慮しておく」
そこは聞くところだろう!
やっぱりコイツとは合わない気がする。
やっぱり他の物語の奴だからか?
「でも、名前がないのは不便だよね。つけるところから始めようか」
「名前?そんなに必要か?」
「主人公力を高めるにはこれだっていう名前がいるだろう。呼ぶのも大変だし」
「そりゃあ、そうか」
名前のない主人公なんて聞いたことねえもんな。
「名前か…どうするかな?」
ブ~ン…ブン!
「うん?何の音だ?」
貴族青年Dは辺りをうかがった。
とはいえ、広がるのは靄がかかる真っ暗な空間である。
「ワームドの出現を知らせるアラームだ」
セイの隣でファンが遠くの目をしながら奇声を発していた。
「その小動物、そういう能力持ちなのか?」
「小動物じゃなくてファンだよ」
「ああ、すまん」
「さあ、現場に行こう」
「やっぱり、俺がやるしかないんだな」
いまいち俺に与えられた魅力?の使い方も理解していないのにな。
しょうがない。食べそこなったビーフステーキのためだと思おう。
「ところでこれ、泳いでいくパターンか?」