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官庁は、激しく混乱している。


鞭打ち刑の執行と、街中の妓生の顔見せと言える、妓生点呼を行うと発令されたからだ。


学徒の元へ、智安《ちあん》から、一筆届いた。春香が、折れて、店ごと手にいれる事ができそうだと。


この機に、妓生点呼を行って、街の女達をまとめるのは、誰か示したい。力を貸してほしいとのことだった。


そんな内容の文に、学徒は、舌なめずりしながら、春香をモノにする策を練った。


そういえば、街中の綺麗所が一同に集まる妓生点呼──、妓生が、官庁の登録と合っているか確認する行事も、久方ぶりだったと、学徒は思いつつ、悪知恵が浮かんだ。


あの、夢龍とかいう男と、春香を、かち合わせてやろう。


共に、芸を披露するごとで組んでいた男が、鞭打たれている姿を、春香が見たら、さて、いつもの、我を、どこまで通しきれるのか。


これも、見ものだと、学徒は思う。


「これ!」


学徒は、都から連れて来ている冊客──、秘書官を呼んだ。


唯一、学徒が、信頼しているというべきか、同じ穴の狢《むじな》というべきか、この冊客も、学徒と共に、悪事を働いて来た男だった。


悪巧みに付き合っているのは、かれこれ長い。逐一言わずとも、冊客には、学徒の考えが手に取るようにわかった。いや、それを、この男が、示しているのだから、わかるのは当然のことかもしれない。


冊客は、いかにも学徒が思いつきそうな、下世話な趣向よと、胸の内でほくそ笑みつつ、そうですなぁと考える振りをする。


「妓生を並べて、罪人を鞭打つのも、一興では?張り付けられて、ひいひい叫ぶ罪人を、取り巻く美女が、おののく。これは、なかなか、悪趣味ないえ、見せしめには、効果があるかと。街の女も、学徒様のお力に、ひれ伏すことでしょう」


要は、お目当ての、春香が、顔色変えて学徒へ懇願するだろうと、この男、冊客も、そこを狙っているらしかった。


「さっそく、各部署へ命をくだしましょう。そして……」


慣習通り、鞭打ち刑が執行されると、御触れを出し、民も集めれば、なお、学徒の威厳は高まるだろうと、冊客は言った。


「ははは!それは、面白い。春香め、どこまで、意地を張れるだろうか」


あくまでも、目当ては、春香か、と、冊客は、呆れつつも、妓生点呼のその後は、宴が開かれるだろうから、自分も、おこぼれを頂戴できると、どこか、頬が緩んでいた。


「それに、こちらには、パンジャという、暗行御史《アメンオサ》がいる。正義は、こちらのものよ」


くくくと、背筋が凍りつくよう笑い声を上げて、学徒は、そうであろうと、冊客へ同意を求めた。


「ええ、もちろん。そして、二人を押さえておかねば……パンジャは、ここで、のみの、お役目ですから」


「と、いうと?」


冊客は、声を潜めて、学徒へ、進言した。


「このまま、放置しておけば、夢龍も、パンジャも、我こそは、などと、調子に乗って、暗行御史《アメンオサ》だと言い張るでしょう?しかしですよ、学徒様?王の密使である暗行御史《アメンオサ》、この職務の厳しさは、並大抵のものではありません。何せ、身分も何もかも捨て、潜入捜査しなければならないのです。そして、悪事を突き止めるまでは、決して、身元がぼれてはならない……、ゆえに、命を成し遂げる前に、命を落とすものも数知れず。しかし、密使です。誰も、その存在は知らない……」


「なるほど、公に、なってはならない人間、ということか。それが、我が土地で、二人も出てきたならば、そして、我こそは、などと、お前の言うように、立ち回られたら、なんと、面倒な話よ」


「ですから」


冊客の囁きは、続いた。


「いなければ良いのです。鞭打ちは、絶好の機会では?罪人と、皆に知らしめらられる」


その後は、いつものように……。


学徒と冊客は、顔を見合わせ、互いに、嫌らしいほど口角を上げた。


そして──。


御触れは、街中へ知らされた。


もちろん、黄良達の耳にも入る。


「姐さん、上手くいきましたね。ちょっと、誤算はありましたが……」


「ああ、あの坊っちゃんの鞭打ちの刑が公開されるとは、思いもしなかったが、学徒の所にいる、というのは、分かった訳だ」


眉を潜めつつ、智安は言う。


「なにも、刑罰と、綺麗所のお披露目を同時にしなくともなぁ。どっちを見りゃーいいのか、わからねぇ、って、話じゃないかい?」


とぼけた時優《じゆう》の言い分に、智安は、大笑いする。


「まっ、こっちとしても、一度に面倒が、片付くんだから、よしとしなきゃーねぇ」


そう、怖い顔をするんじゃないよ、と、智安は黄良含め、一同を言いくるめた。

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