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なんでここに俺が居ないんだと、スマホを睨むように見つめる。
画面に映るのは、俺以外の8人。
その真ん中でニコニコと笑っている、本日の主役――佐久間くん。
メンバーの誕生日には太陽みたいに明るい笑顔で『好きだっ!!!』と叫ぶ彼が、笑顔はそのままにどことなく照れくさそうに時折視線を彷徨わせていて。
日本時間で5日になってすぐくらいに、おめでとうのLINEは送ったけれど、俺だって直接言いたかった。
実際にFC向けの誕生日動画を撮っているのは何日も前だけれど、そういう事じゃない。
直接、目の前で佐久間くんに『おめでとう』を言いたかった。『ありがと!』とはにかむその姿が見たかった。
でも俺は今カナダに居て、どう頑張っても顔を見てお祝いは出来ない。
――と、思うじゃん?
「うおっ、これ美味しい!ね、ね、蓮!コーヒーにメープルシロップってアリだな!」
カナダでのドラマ撮影中、借り上げてもらっているアパートの一室。
ソファに腰掛ける俺の足元、同じソファを背もたれにしてラグの上に座る今日の主役……こと佐久間くんが、ニコニコキラッキラの笑顔でこちらを振り仰ぐ。
あまりの眩しさに、思わず目を眇めてしまった。
「なぁにぃ、変な顔して!」
「……いや、だって」
「だって?」
「……佐久間くんがここに居るの、なんかすごく……変な感じがして」
違う。
本当は眩しくて可愛くて、綺麗だと思った。
それを口にするのはなんとなく照れくさくて、誤魔化してしまう。
けれど佐久間くんはそれを言葉通りに受け取って、くつくつと楽しげに喉を鳴らした。
「にゃはは、俺も変な感じする!だってさ、昨日テレビで歌って次の日に飛行機乗って、そんで今、蓮のとこに居るんだもん」
「ね。ほんと、びっくりしたよ……まさか『今から飛行機乗ってそっち行くから!』なんて言われると思ってなかったし」
***
――遡ること半日ほど前。
佐久間くんの誕生日動画を繰り返し観つつ、なんで俺は日本に居ないんだって悶々としていた時だった。
手にしていたスマホが突然ブルブルと震え、液晶に表示された名前に目を丸くする。
「……もしもし、佐久間くん?」
『あっ、蓮ー!おっちーーー!』
相変わらず底抜けに明るい声に、今まで抱えていたモヤモヤがあっという間に霧散した。
「お疲れ様。っていうか……誕生日おめでとう」
『にゃはっ!ありがと〜!って、昨夜LINEくれたじゃん!今年は蓮が一番乗りだったよ!』
「まあ、ね。そっちに居られないんだから、せめてメッセージくらいは一番乗りしないと」
俺の言葉に、佐久間くんが笑い声を上げる。
テレビ電話な訳じゃないから見えないけれど、嬉しそうに微笑んで居るのが分かった。
きっと、すごく可愛い。
ものすごくその顔が見たい。
と、思いつつゴホンと咳払いをひとつ。
「それで、どうしたの?そっちは……夕方くらいだよね?仕事は?」
『それがねえ、今日からオフ!』
「今日……から?」
『ん!これから旅行行くんだ〜!今ね、空港に居んのよ』
「……これから?旅行?」
そういえば、佐久間くんの声に紛れてザワザワと大勢の声が聞こえている。
……いや、それよりも、だ。
こちらに居る間も、メンバーの同行は常に気にかけている。
みんなそれぞれ忙しくしているようで、佐久間くんだって例に漏れないはずだ。
旅行に行く暇なんてないだろうし、なんとかオフをもぎ取れたとして相当無茶をしたんじゃないだろうか。
……また体調崩したりしないだろうな。
少しばかり心配になっていると、佐久間くんがまた楽しげに笑い声を上げた。
『心配しなくたって大丈夫!俺、めちゃくちゃ元気だし!』
「ほんとかなぁ」
『ホントホント!ま、旅行のためにちょーっとだけ仕事頑張ったけどさ』
「…………」
ほら、やっぱり無茶してた。
「……佐久間くん、」
『ああっ!だから、むちゃくちゃなスケジューリングとかしたわけじゃねぇし!出来る範囲で、だぞ?』
「ほんとかなぁ」
『ホントだってば!……って、ループしてる、ループ!』
にゃはは、と可愛い笑い声に、俺もつられるように笑う。
ひとしきり2人で笑ってから、俺はスンと声を低くした。
「で?旅行ってどこに行くの?空港って事はもしかして海外?一体何日休むの?海外旅行なら1日2日じゃないよね?やっぱり相当無茶したよね?」
『ふはっ、矢継ぎ早ってこういうのを言うんだ〜』
「……佐久間くん。俺は真面目に聞いて……――」
『カナダ!』
………………
「…………へぁ?」
間抜けな声が出てしまった。
電話の向こうで佐久間くんがケタケタ笑う。
『んははっ、変な声〜』
「……いや、だって、カナダって……」
『カナダ行くの。バンクーバー!』
「ばん、 」
『……俺、諦めてないって言ったでしょ』
言ってた。
確かにそう言ってた。
でもまさか、本当に来られるなんて思ってなかった。
佐久間くんの忙しさは、今の俺以上と言っても過言じゃないはずだから。
『蓮、明日と明後日オフなんでしょ?マネから聞いた』
「そう、だけど……」
『だから、蓮に会いに行くよ。そっちの時間で5日の朝10時くらいに着くから』
「……誕生日なのに」
『誕生日だから、だよ!会いたい奴に会いに行くの!』
「っ……」
佐久間くんの言葉に、胸がぎゅうっとなった。
俺だって、会いたい。
直接顔を見て、おめでとうを言いたい。
そんな事ばかり考えていたんだから。
「……迎えに行く」
『マジ?やった〜!』
「佐久間くんが見知らぬ土地でひとり迷子になると困るし」
『いやいやいや、俺いい歳した大人!34歳なりたてホヤホヤよ!?ってか俺、お前の先輩だからね!?お兄ちゃんだからね!?』
「フハッ……久しぶりに聞いた、この件」
『ホントだよも〜!っと……そろそろ搭乗しなきゃ。……じゃ、蓮!後でね!』
「……うん、後で。気をつけて来てね」
『それ、パイロットさんに言うやつだわ〜』
そんなやり取りをして、通話が切れた。
そういえば、宿はどうするんだろう?ここに泊まってくれたりするんだろうか。
そう思ったところで、まるで見透かしたようなLINE。
悪いけど、ホテルは取ってない!
蓮、泊めてくれるだろ?
「……泊めますとも」
そうと決まれば俺がやる事。
「夜中だけど……掃除しよ」
忙しさにかまけて散らかりまくった部屋を片付ける事だった。
***
――そんな訳で、佐久間くんを乗せた飛行機の到着時間の少し前に空港まで迎えに行って。
再会を喜ぶのもそこそこに(だって、公衆の面前で抱きついたりキス待ち顔したりするから)佐久間くんと荷物を車に押し込み、アパートへ帰ってきて…… 今に至る。
佐久間くんはメープルシロップ入りのコーヒーが入ったマグを両手で持ち、ふーふーと息を吹きかけている。
そのピンク色の頭頂部をじっと見つめながら、じわじわ湧き上がる喜びを噛み締めた。
佐久間くんが、ここに居る。
想い人が、ここに。
忙しい合間を縫って俺に会いに来てくれた佐久間くんだけれど、俺たちは別に特別な関係じゃない。
佐久間くんからしてみれば、俺は後輩で風呂友で、Snow Manのメンバーでしかない。
俺としてはもう一歩踏み込みたい……と思うものの、年下で、男で、後輩で、メンバーの内のひとりな俺からそんな気持ちを告げられて、佐久間くんを困らせるのは嫌だ。
きっとギクシャクするだろうし、今の関係も壊れてしまうのは怖い。
せっかく会いに来てくれたのに、意気地がないんだ、俺は。
はぁ、と小さくため息をつくと、それに気づいた佐久間くんがもう一度こちらを振り仰いだ。
「……やっぱり、迷惑だった?」
「え?」
「何も言わずに、いきなり来ちゃった事。蓮にも都合あるだろうし、前もって言った方がいいかなぁって思ったりもしたけど……なんか、驚かせたくってさ」
「迷惑なんかじゃないよ。むちゃくちゃ驚きはしたけど」
「そ?……よかったぁ……!」
本当に心配だったのか、佐久間くんがへにゃっと笑って俺の膝に頭を預ける。
恐る恐るその髪を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
「あの、さ。……俺、今日……日本だともう昨日なんだけど、誕生日だったじゃん」
「うん」
「誕生日だし、自分に何かご褒美あげよーって思ってて。ピアスとか時計とか、自分の好きな物買おうかなぁって色々考えたりしたんだけどさ」
「うん」
「……今の俺へのご褒美っていったら何かなぁっていっぱい考えて…………それが、蓮に会う事だった」
「っ、」
髪を撫でていた手の動きを、ぴたりと止める。
佐久間くんはその手を掴んで、軽く引っ張った。
まるで誘われるように、彼の隣へ腰を下ろす。
「……今からちょっと、気持ち悪いって思われるような事、言う」
「佐久間くん……?」
すう、はあ、と深呼吸をひとつ。
視線を揺らすその目元は、見る見るうちに赤く染っていって――
「大好きな人に、会いに来たかったんだ」
震えて、少し掠れた声。
照れくささからかなんなのか、大きな目には涙の膜が張っている。
綺麗だ
と、そう思った。
「俺……蓮の事、好きだよ」
「さく……」
「恋愛的な、意味で」
もう一度深呼吸をした佐久間くんが、真っ直ぐに俺を見つめる。
一方の俺はと言えば、ちょっとしたパニック状態だった。
だってまさか、そんな
「年上の、先輩の、それもメンバーのひとりからこんな事言われて困らせるかもって、すごく怖かったけど……でも、どうしても言いたかった」
俺と同じような事を、思ってくれていたなんて
「ごめんね、蓮。……変な事言っちゃって。気持ち悪いでしょ?困る、よね?でも、その……せっかくの誕生日だから、なんかこう、一歩踏み出したくって――」
「……気持ち悪くなんてない」
「え」
「……俺も、同じ気持ちだったから」
「れん、」
「佐久間くん……っ」
腕を伸ばし、佐久間くんを抱きしめる。
強く、強く。
おずおずと背中に回された腕が、同じくらいの力で抱きしめ返してくれた。
「っ、俺……蓮の事、好きでいて、いいの? 」
「いいに決まってる。むしろ、好きでいてくれなきゃ困る」
「蓮、れん……れん……っ」
ぎゅうぎゅうに抱きしめあって、そっと体を離す。
佐久間くんの大きくて真ん丸な目から、涙がボロボロこぼれ落ちていた。
濡れた頬を撫でて、瞼にキスをひとつ。
「俺も、好きだよ。佐久間くんの事が、すごく好きだ」
「……っ、ぅ、ん」
言葉を詰まらせる佐久間くんの唇を、優しく食む。
舌先で唇を舐めてから離せば、彼の頬は益々真っ赤に染まっていて。
「しょっぱい」
「うっ……ん、ぐ……」
恥ずかしくて堪らないんだろう、佐久間くんが口元をムニュムニュさせながらしきりに視線を泳がせた。
「何その顔。どういう感情?」
「う、ぐぅ……か、片想いだと思ってたのに、両想いだって事が判明して、急転直下でちゅーまでしちゃって……どうしたらいいのか分かりません……っていう、感情……」
「フハッ……何それ、可愛い」
クスクス笑って、もう一度唇を重ねる。
いきなり舌を入れたりするのは、流石に性急過ぎるかも……と思って自重した。
というか、そこまでやると先へ進む事も止められそうにないから。
「ん、もー……なんか……もー……っ!」
「あはは。なになに?」
「これってさ、その……両想い、でいいんだよな?」
「もちろん。紛れもなく両想いだよ」
「蓮、俺の……彼氏、なの?」
「そうだね。そういう事になるかな」
「ううっ……」
佐久間くんはまた口元を歪ませつつ、俺の胸に顔を押し付ける。
「やばい。……今までで一番嬉しい、誕生日プレゼントかも」
くぐもった声が聞こえてきて、俺は思わず吹き出してしまった。
胸のところで揺れるフワフワのピンク髪を撫で、頭頂部にキスを落とす。
「むしろ俺の方が、プレゼント貰った気分」
ありがとう、会いに来てくれて
ありがとう、好きでいてくれて
ありがとう、俺の気持ちを受け入れてくれて
「……大好きだよ、佐久間くん」
「ん……俺も、大好き」
ようやく顔を上げた佐久間くんが、そっと目を閉じる。
引き寄せられるように顔を寄せ、恋人になったばかりの彼の唇にもう一度キスを落とした。

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瀬良闇珠
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コメント
1件
わあ……もう、最初から最後まで胸がいっぱいになりました。カナダにいる蓮のところへ、誕生日だからって飛んでいく佐久間くんの行動力と、それを迎える蓮の「泊めますとも」の一言に、じんわり来ました。両想いって確定したあとの、お互いにおずおずと確認し合う感じがすごくリアルで、特に「今までで一番嬉しい誕生日プレゼント」って台詞、もう最高です。素敵な第1話をありがとうございました🤍