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お掃除が済んだことを伝えると、今度は「美味しいお茶の淹れ方を教えて差し上げますから」と、華さんから食卓に呼ばれた。
「先にされてみますか?」
そう促されて、これはきっと試されているに違いないので気合いを入れなければと、おもむろにお茶の缶をぱっかんと開け急須に茶葉を入れ、ポットからお湯を注ごうとしたら、「違います!」と、いきなりのダメ出しを食らってしまった。
「お湯は、まずお湯呑みの方へ入れるんです」
「え、そうなんですか?」お茶を飲むのに、先に急須ではなくお湯呑みへお湯を入れるだなんて、全く知らなかった。
「ええ、そうしてお湯呑みを温めてから、そのお湯呑みの中身を急須に注ぐのです。いったん湯冷ましをすることで、お茶の旨みがより良く引き出されるんですよ」
言われた通りに、お湯呑みをゆっくりと急須に傾けてお湯を注ぎ入れると、
「この後には、どうすればいいかわかりますか?」
と、問いかけられて、お茶をお湯呑みに回し入れればいいんだよねと、それぐらいは知っていてと、急須からお茶を注ごうとしたら、またしても「違います!」と、止められてしまった。
「ちゃんと急須の中をよく見て、お茶の葉がよく開いてから、お湯呑みには注ぐんです」
「……なるほど」と、急須の蓋を開け、中を覗き込む。
「華さんの淹れてくださった美味しいお茶の極意がわかりました!」
「ええ、でも極意の修得までには、まだまだ精進が必要ですから」
「はい、精進致します!」
テーブルに両手をつき軽く頭を垂れると、
「とても素直な方なんですね、鈴ちゃまは。陽介様が、あなたを好きになられたわけが、よくわかりました」
華さんからふっと微笑んで言われると、『好きになられたわけ』だなんてと、恥ずかしくてたまらなくって、身体がこそばゆくなってしまいそうだった……。