そもそも、いま自分は避妊具を装着していないのだ。
それでこんなことをしたらダメだというのは、分かり切っているというのに、行為を中断させることも……ゴムを取るため天莉から離れることもしてやれそうにない。
こんなこと、いつもの自分なら絶対にあり得ないことだ。
なのに――。
(くそっ。このまま挿入てしまいたいっ)
グッと奥歯を噛みしめるようにして自制していないと、角度を変えて天莉の中へ押し入りそうになってしまう。
天莉の小さな身体を下から滅茶苦茶に突き上げて、天莉が何も考えられなくなるぐらい蜜壺をかき回してやりたいとか、そういう凶悪な本能に押し流されそうな衝動をこらえるのは、容易なことではなかった。
そんな尽をギリギリのところで思いとどまらせているものは、天莉が懸命に感じるのを我慢しているように見える辛そうな顔と、子作りするのは籍を入れた後だという想いだけ。
だが――。
煽られるだけだと分かっていても、心裏腹。
尽は天莉のイイ声が聞きたくてたまらないのだ。
天莉が唇さえ噛まなければ、すぐにでもこの愛らしい口を解放してやって、思うさま啼かせてやりたい。
「そんなことをするぐらいならっ、開き直って声を出せ、天莉……っ」
差し入れられた尽の指を噛まないように頑張っているんだろう。
天莉が口の端から嚥下しきれない唾液を零しながら苦しそうに眉根を寄せるから。
ここまでお膳立てしたんだ。
今度こそ可愛い声を聴かせてくれるだろうか?
そう期待した尽は、理性を総動員して一旦腰の動きを止めると、天莉の口から枷になっている指を引き抜いてみた。
なのに、すぐさま発せられたのは期待したような艶めいた嬌声なんかではなく――。
「……やだぁっ。だって……こういう時に声、出、すのっ……、はしたな、いからダメ、だってっ……ずっと言われ、てっ。わ、たし……尽、くんにっ、嫌われたく、なっ」
今まで一杯一杯でうまくしゃべることの出来なかった天莉が、泣きそうな声で一気にそんなことをまくし立ててくる。
尽はその訴えを聞くなり、こみ上げてきた怒りで我を忘れそうになった。
「天莉。それ、俺の意見じゃないよね?」
尽は天莉の口中へ再び指を挿し込むと、それ以上言わせないよとばかり、乱暴に天莉の口腔をかき回した。
天莉が口蓋を撫でられるのが〝好き〟なことは、何度か交わしたキスで履修済みだ。
そこをわざと責め立ててやると、天莉が我慢出来ないみたいに吐息を漏らした。
「ふ、………あっ、や、ぁ。………んんっ!」
そうして、それと同時。動きを止めていた雄芯を、強く天莉の陰核へ擦り付けるようにして律動を再開する。
「ひゃあ、ぁっんっ、じ、んくんっ。やんっ、ダメぇっ」
尽は存分に天莉の唾液をまとわせた指を、彼女の口から糸を引かせながら抜き取ると、そのまま濡れそぼった指で、泡を押しのけるようにぴんと立ち上がった天莉の愛らしい乳首を押しつぶすようにして可愛がった。
「あぁんっ、やっ、あああ」
「俺はね、天莉のそういう声がっ、聴きたくてたまらない、んだ、よっ」
「で、もっ」
「まだ言う気なのか、天莉。俺以外の男が言ったことなんてっ、……綺麗さっぱり忘れてしまえ」
今後、天莉に触れる男は、尽以外にありはしないのだから。
「ホ、ントに、……いい、のっ?」
「いいに……決まってる、だろ? 何故そんなに……確認する?」
こんな可愛い声を聴きたくないなんて愚かなこと、言えるわけがない。
何より、自分の手練手管で女性が感じてくれるとかご褒美でしかないし、『もっとして欲しい』とか『気持ちいい』なんて求められた日には、男冥利に尽きると言うもの。
それに、もし不快なことをした場合にだって、言ってもらえなければ気付けないかも知れないではないか。
(まぁ、相手の反応を見てれば大体分かるが……)
だが女性は男に気を遣って演技してくれる場合もある。
そうされるよりはいっそ、痛い時は痛い、気持ち良くない時は違うところに触れて欲しいと、素直に教えてもらえる方が有難いくらいだ。
でないと、ひとりよがりな男になってしまう。
「そんなの許したらっ、痛い……とか言っちゃう、かも知れない、の、に?」
「ああ、もちろん言っていいに決まってる。むしろ、痛いのに我慢するのとか、絶対になしだからね?」
尽がそう告げた途端、鏡の中、尽を見つめる天莉が、泣きそうな顔をするから。
尽はハッとさせられた。
(横野、天莉に痛い思いをさせておいて、声を上げた天莉に逆ギレでもしてたのか?)
それもきっと……しつこいぐらいに何度も何度も。
それこそ天莉が痛みを訴えるたび、再三に渡って男がすることに意見することは女性として恥ずかしいことだとでも言ったんだろう。
自分の前戯が足りないのを棚上げして、あたかも天莉が悪いみたいに洗脳したに違いない。
でなければ、元来聡明なはずの天莉が、情事においてこんなに頑なに声を出すことを恐れるはずがないではないか。
(クソがっ!)
尽にはそういう男の心情なんて、一生分からないと思った。
相手の心を押さえつけるようなセックスなら、する意味なんてない。
ただ出したいだけなら自慰で十分だ。
そもそもこんなに綺麗で愛らしい天莉を捨てて、江根見紗英に行くこと自体、尽には理解不能なのだ。
(自分好みな従順さに育て上げた愛らしい天莉から、遊び慣れてそうな江根見に乗り換えることに、メリットなんてあったのか?)
尽には、江根見紗英のわずかばかりの若さなんて、天莉の魅力に比べたら何の価値もないように思えた。
(江根見営業部長から何か言われたとか?)
そうとしか思えない。
(何にしても人を見る目がなさ過ぎだな、横野)
そうしてそれを言うならば、そんな男に翻弄されて、未だにその男の言った言葉に縛られている天莉も相当なバカだと思ってしまった。
「天莉、バカ男に言われたことはっ……、一旦全部リセットしろっ」
そこで天莉の胸の飾りをキュッとつまむと、指の腹でゆるゆると転がすように優しく押しつぶす。
「あ、ぁんっ」
「天莉っ。……俺には……自分の言いたいこと、全部ぶちまけていいんだからね?」
「……ぜ、んぶ?」
「ああ、全部だ。いい時はもちろん、ダメな時だって遠慮なく言ってくれて構わない」
元より天莉に痛いことなんてするつもりはないのだが――。
尽は潤んだ瞳で鏡越し、自分を驚いたように見つめてくる天莉を、心底大切にしたい、守ってやりたいと思った。
***
尽に、博視から今までしてはいけないと言われ続けてきたことをあっさり許されて、天莉は男性と肌を重ねるということに対する恐怖心が、少し薄らいだ気がして――。
正直、天莉にとって性行為は、男性を受け入れても痛いだけ。気持ちいいだなんて思ったことのない、むしろ苦痛でしかないものだった。
なのに『痛い』と訴えるたび、博視が舌打ちして『そういうのは思っていても口にはしないのが優しさだ』とか『みんな普通痛くても我慢してるのに』とか不機嫌になるから……。
天莉は情事の際、自分は声を出してはいけないと思い込むようになっていった。
無論博視だって男だ。天莉に感じている声を聴かせて欲しいと言ってきたことはある。
でも……。
何をされても気持ちいいと思えなかったから。
天莉は博視とのエッチで、苦痛以外の声を漏らしたことがなかった。
それは博視に、〝天莉は不感症〟〝抱いても面白くない女〟という感情を植え付ける結果になって……。
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