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天莉は、きっとそれが自分が博視に浮気されて捨てられた一因だと思っている。
なので尽と思いが通じ合った時、尽に求められたらどうしよう、また博視の時みたいになったらどうしようと言う不安を心の奥底深くに抱えていた。
尽の強引さに押されるように半ばなし崩し的。あれよあれよと身体へ触れられる結果になってしまったけれど、まさか声が抑えられなくて泣きそうになるだなんて思いもしなかった。
尽に触れられた時、抑えたいのに媚びるような声が鼻から抜けるみたいに漏れてしまったことに、天莉は正直すごく驚いたのだ。
ずっと不感症だと思い込んでいた自分が、まさか気持ちよくて声が抑えられない日が来るだなんて……。
そんな、物語の中のヒロインみたいなことが自分に起きたことが信じられなくて……未知の感覚が怖くてたまらなかった。
今まで博視しか知らなかったから気付けなかったけれど、思い起こせば博視は尽のように天莉の身体をあちこち触ってこなかったから。
自分の身体の中に、触れられただけでゾクゾクと鳥肌が立ってしまうような場所がいくつも存在していることに、天莉は物凄く戸惑ったのだ。
その上、尽はまるで天莉のその反応を楽しむみたいに実況中継して言葉でも虐めてきて。
それが恥ずかしくてたまらないのに、身体の方は恥じらいを糧にますます悦ぶからたまらない。
よく考えてみればそういうのにしたって、尽が天莉の反応をよく見ている証拠だとも思えて。
天莉の変化を余さずキャッチして優しくリードしてくれる尽に、天莉は翻弄されまくり。
そんな尽が相手ならば、もしかして自分に痛いことなんて起こらないんじゃないかとすら思ってしまった。
そもそも秘所がこんなにトロトロに濡れたこと自体、初めての経験で。
濡れないままに貫かれるから痛いのだということを、博視との行為の中であれこれ調べて知ってからは潤わない自分の体質を恨んだ。
だから正直尽にこすられるたび、下から水音がしてくることに気付かされた時、天莉は物凄く驚いたのだ。
それと同時。どう見ても自分の谷間に擦れる〝尽のモノ〟は博視のより大きいと分かって、それを受け入れることになるのかも知れないと思ったら恐怖心がそろりと鎌首をもたげた。
でも――。
尽が、痛い時は痛いと言ってもいいと言ってくれたこと。
自分の身体が、まるで尽と繋がれることを心待ちにしているみたいに蕩けてしまっていること。
そういうのを肌で感じて、天莉は尽のことを受け入れてみてもいいかも?と思ってしまった。
自分から男性と繋がってもいいと思えたのは、まだ処女だった頃、初カレの博視に求められ、何も知らないままに期待して打ちのめされて以来、二度目の衝動で。
尽とそういうことをするのは初めてだったから、博視の時みたいに『そんなこと思わなければよかった』と打ちひしがれる結果になる可能性だって、もちろん否定は出来ない。
それでも。
天莉は尽とそう言うことをする自分を想像して、キュンと子宮の奥が疼くのを感じたから。
もう一度だけ男性を受け入れる自分を想像してみてもいいかな?と思えたのだ。
だが、結局尽は天莉の両太ももの隙間で自身を扱くのみに留めると、一度も天莉の膣内へ挿入ろうとしてこないまま――。
秘部をこする律動がどんどん激しくなっていった。
ややして、
「天莉っ、背中に……いいっ?」
ギュッと背後から天莉のことを抱きしめてきた尽に、耳元で切なげにそう問いかけられて。
天莉自身、気持ちいいところを尽の熱棒で執拗に可愛がられて……。博視との時には味わったことのない快感に飲まれて訳もわからないままにうなずいていた。
股の間を一際強くこすり上げるようにして尽の欲望が腿の隙間から引き抜かれた瞬間、背中に熱い飛沫を浴びせられて初めて。
天莉は、尽が告げた〝背中に、いい?〟の意味を悟った。
(尽くん、達けたんだ)
思いながら、自身も男性と肌を重ね合わせて初めて――。
頭が真っ白になるほどの快感に溺れるようにクラッとして意識を手放した。
***
目を覚ました時、天莉は自分のものではないシックなシーツの掛かったベッドへ横たえられていて、尽に、すぐそばから心配そうな顔をして見下ろされていた。
どうやら今いるのは尽の寝室らしい。
部屋中に仄かに漂う、尽が普段から身に纏っているコロンの甘く深い甘美な香りに、嫌でもそう気付かされた天莉だ。
「尽、くん……、私……」
何気なくつぶやいて、ゆっくりと身体を起こした天莉は、ふと自分の様子に目をやって、裸の上に真っ白なバスローブを一枚羽織っただけの状態だと気が付いた。
(な、んで……バス……ローブ?)
ふとそんなことを思ったと同時、先程まで尽と二人、風呂場でやらかしたアレコレの恥ずかしい記憶がぶわりと蘇ってきて。
真っ赤になって尽を見詰めたら、
「すまない、天莉。キミの身体が俺より熱を持っていた時点で、気付くべきだった」
尽からガバリと頭を下げられて、驚かされてしまう。
「あ、あの……尽くん……?」
恐る恐る声を掛けた天莉に、尽は天莉が風呂場で熱気にやられて達すると同時に倒れてしまったのだと説明してくれた。
(え? それって……のぼせちゃったってこと?)
湯船に浸かったりはしていなかったけれど、高めに設定されたシャワーのお湯が絶えず出続けていたし、風呂ふたの外された浴槽には、湯気のくゆるお湯がなみなみとたたえられていた。
天莉は、浴室全体が寒さを感じさせない程度には温かかったことを思い出した。
当たり前だけど湿度も高めだっただろう。
加えて、尽には言えないけれど天莉は初めて絶頂を知ったのだ。
その瞬間に、張りつめていた糸がプッツリ切れてしまったとしても不思議ではない。
「……わ、私の方こそっ、ごめんなさいっ!」
――きっと、物凄く心配を掛けたはずだ。
(私、何回尽くんの前で意識を失えば気が済むの?)
そう思った天莉は、やたらと申し訳ない気持ちになる。
そんな天莉の耳元、尽が「謝らなくていい」と甘やかに囁いて、ふんわり優しく抱き締めてくれて。
その上で付け加えられた、「キミを前にしたら……俺は今回みたいに暴走する気しかしないんだ。だからね、天莉。自戒の念も込めて、入籍を済ませるまで、俺はキミにそう言うことをするのを控えようと思う」と言う言葉に、物凄く驚かされた。
それと同時。
「あ、あの、でも尽くん……」
天莉は『私、貴方に抱かれてもいいと思えるようになれたのにっ』という言葉を発してしまいそうになって、寸前のところで何とか飲み込んだ。
それは、裏を返せば『抱いて欲しい』と同義だと気が付いて恥ずかしかったからだ。
代わりに「入籍はいつくらいになるかな?」と問い掛けた天莉だったのだけれど。
「うちの親への挨拶も要るし……指輪や猫の手配も必要だ。そう言うのを考えると、そうだな。――少なくとも会社主催の親睦会よりは後になりそう、かな……?」
尽がそう返してくれたのを聞きながら、「尽くん、猫は別枠だと思うな?」と苦笑まじりに返しつつも、天莉は何故だか分からないけれどソワソワと落ち着かない気持ちがして。
その胸騒ぎが、悪い意味で当たってしまうことを、当事者の天莉はおろか、尽もまだ知らない――。