テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
白い音がしていた。機械の音なのか、自分の耳鳴りなのか、分からない。
涼ちゃんが意識を失ったのは、一瞬だったらしい。
立ち上がろうとして、視界が揺れて、
次に覚えているのは、名前を呼ばれる声と、
遠くで誰かが走る足音。
気づいた時には、病院だった。
若井と元貴には、すぐ連絡がいった。
二人はほとんど同時に病院へ来たけれど、
空気は同じじゃなかった。
医師の説明を聞く間、元貴は腕を組んだまま黙っていた。
深刻そうではあるけど、どこか現実的な顔。
「少し休ませれば大丈夫です」
それだけ言って、若井の方を一瞬見てから、
元貴は仕事へ向かった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
若井は何も言わなかった。
ただ、ベッドの横の椅子に座って、
涼ちゃんの手首をそっと見つめていた。
しばらくして、まぶたがわずかに動く。
「……」
浅い呼吸。
喉が鳴って、ゆっくりと目が開いた。
天井。
見慣れた白。
「……ここ」
声にならない声。
若井は、びくっとして立ち上がりそうになって、
でも動かず、近づきすぎない距離で言った。
「……おはよ」
たったそれだけ。
涼ちゃんは瞬きをして、
若井の顔を確認するみたいに、じっと見る。
「……若井」
名前を呼ぶ声が、ひどく弱い。
「うん」
「いるよ」
少し間が空く。
「……元貴は?」
その質問に、若井は一瞬だけ言葉を選んだ。
「さっきまで、いた」
「仕事で、少しだけ抜けた」
“少しだけ”に、願いを込めるみたいに。
涼ちゃんは、何も言わなかった。
ただ、目を閉じて、また開く。
「……やっぱり、俺」
「迷惑、だよね」
若井は、即座に首を振った。
「違う」
「倒れた時、俺、死ぬかと思った」
その言葉に、涼ちゃんの目がわずかに揺れる。
「……ごめん」
「謝るな」
若井は、ベッドの縁に手を置いた。
触れない。でも、逃げない。
「倒れたってことはさ」
「もう一人で耐えるの、無理だったってことだろ」
しばらく、沈黙。
点滴の落ちる音だけが続く。
涼ちゃんが、かすかに笑った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!