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ベッドに横になったまま、涼ちゃんは動かなかった。
若井は椅子に座っている。距離は近いのに、触れない。
「……ねえ」
小さな声。
若井が返事をする前に、言葉は続いた。
「最近さ……元貴に」
一度、息が止まる。
喉の奥で言葉が引っかかったみたいに。
「……見捨てられてる、感じがして」
若井は何も言わない。
遮ったら、きっと壊れる。
「前はさ……俺が何も言わなくても……」
「気づいてくれてた、気がして……」
天井を見たまま、涼ちゃんは瞬きを繰り返す。
涙は落ちない。ただ、声だけが揺れる。
「今は……俺がいても……」
「いなくても、同じ、みたいで……」
言葉が途切れるたびに、呼吸が浅くなる。
若井は拳を握った。
「俺が……ちゃんとしてないから、だよね」
「迷惑、かけてるし……」
「涼ちゃん」
若井が名前を呼ぶと、涼ちゃんは小さく首を振った。
「違うって、言わなくていい……」
「分かってるから……」
分かっていない。
でも、そう言い切るしかない顔だった。
「元貴、最近……俺の方、見てない」
「話しかけても……」
「……すぐ、終わる」
最後の一言は、ほとんど息だった。
若井は、もう我慢できなかった。
ゆっくり立ち上がって、ベッドの横に座る。
「涼ちゃん」
今度は、低く、はっきり。
「それ、見捨てられてるんじゃない」
涼ちゃんの喉が小さく鳴る。
「……じゃあ、なに」
若井は少し間を置いた。
簡単な言葉じゃ、足りない。
「元貴も……余裕ないだけだ」
「でもさ、それを涼ちゃんが一人で背負う理由はない」
涼ちゃんは、天井から視線を外さない。
でも、指先がシーツを掴んだ。
「……俺が、弱いから」
「違う」
今度は即答だった。
「弱いんじゃない」
「弱くなってることに、誰にも頼れてないだけだ」
しばらく、沈黙。
時計の音だけが響く。
やっと、涼ちゃんが小さく言った。
「……若井は」
「……いなく、ならない?」
若井は一瞬、息を詰めてから、
そっと答えた。
「ならない」
「離れるなら、引きずってでも一緒に行く」
その言葉に、涼ちゃんの目尻がようやく潤んだ。
「……ずるい」
「知ってる」
若井は、初めて涼ちゃんの手に触れた。
冷たかったけど、確かに生きていた。