テラーノベル
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9話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
今日もレトルトは死体と向き合っていた。
余計な音のない部屋でただ淡々と手を動かす。
意識はすべて目の前の作業に向いていた。
集中していたせいか 後ろで扉が開いたことに気づかなかった。
「レトルトさん」
不意に声をかけられて レトルトはわずかに手を止める。
「鼻歌なんて、珍しいですね」
後輩が少し驚いたように言った。
その言葉にレトルトは一瞬だけ目を細める。
自分では全く意識していなかったが無意識に 口を動かしていたようだ。
死神が口ずさむ、あの旋律をなぞるように。
「あぁ、うん。最近覚えた歌でさ。……聞かれたの、ちょっと恥ずかしいな」
レトルトは苦笑いを浮かべながら答えた。
後輩は「そうなんですね」と軽く頷くと、
「持ってきた資料、ここに置いておきますね」とだけ言って、 そのまま静かに部屋を出ていった。
ふと横を見ると、死神がいつもの場所に立ってレトルトの方を向いていた。
『なぁレトさん』
楽しそうな声が静かな部屋に響く。
『俺とデュエット?できるようになってんじゃん」
死神は嬉しそうにレトルトを覗き込んだ。
「そりゃ、毎日毎日何度も聞かされてたら覚えるやろ」
レトルトは軽く視線を逸らし、淡々とそう言った。
完全に仕事のトーンだった。
死神はその横顔を見てくすっと笑う。
『仕事モードのレトさん、こわーい』
軽口を叩きながら、ひらひらと手を振るようにして 壁の方へと歩いていく。
ふと、立ち止まり 少しだけ振り返って、
『でもさ、レトさんと 一緒に歌えて嬉しい』
それ以上は何も言わずに、 また静かに歌い始めた。
仕事中は決まってそうだ。
余計なことは話さず、 ただあの一曲を繰り返し繰り返し歌う。
他の歌を知らないみたいに、 同じ旋律を何度も何度も。
最初は気にも留めていなかった。
ただの雑音みたいに聞き流していたはずなのに いつの間にか、覚えていた。
そして――
気づけば、一緒に口ずさむようになっていた。
レトルトは何も言わず、再び手を動かす。
隣では死神が歌っている。
2人で同じ歌を、同じ調子で口ずさみながら。
夜。
いつものようにレトルトはコントローラーを握っていた。
テレビの光が部屋を淡く照らして、
その隣では死神が相変わらず大声を上げている。
『うわ!そこ敵いるって!』
「わかってるよ!」
『レトさん!避けろって!あーー!!負けたぁ!!』
「キヨくんがうるさいせいで負けたやん!」
騒がしい。
本当に、いつも通り。
――のはずなのに。
ここ最近、死神との距離が妙に近かった。
気づけば肩が触れそうな位置にいて、
横を向けばすぐ近くに顔がある。
それなのに、死神自身はまるで気にしていない。
レトルトだけが落ち着かなかった。
死神には体温なんてないはずだ。
触れることだって、できない。
なのに――
隣にいるだけで、
ぬくもりみたいなものを感じる気がする。
肩のあたりが、妙に熱い。
押しのけようにも、そもそも触れられない。
だから距離を取ることもできなくて、
ただその近さを意識するしかない。
胸の奥が落ち着ちつかず、 ざわざわと騒ぐ。
ゲームの音より、死神の声より、
自分の心臓の音の方が気になってしまう。
レトルトは画面から目を逸らさないまま、小さく息を吐いた。
「……近いねん」
ぽつりと呟く。
死神は「え?」と不思議そうに顔を覗き込んだ。
その距離がまた近くて、 レトルトはさらに眉をしかめた。
布団に入れば、死神は当たり前の様にレトルトの隣へ潜り込んでくる。
もう追い出す気にもなれず、レトルトは黙っていた。
狭いベッドに大人が二人並べば、 本来肩がぶつかり合う距離。
けれど死にの身体は透けている。
ぶつかる事はない。
なのに――
肩に何かが重なっているような感覚だけが確かにあった。
ふわりと、そこに存在している気配。
レトルトは落ち着かないまま死神に背を向ける。
『おやすみ、レトさん』
すぐ後ろから聞こえる声。
近い。 近すぎる。
「……おやすみ」
小さく返して、目を閉じた。
それでも眠気はなかなか来ない。
背中越しに死神の寝息が聞こえる気がする。
(……死神って呼吸してるん?)
ふと浮かんだ疑問は 背中の向こう側に感じる気配で 乱された。
ある夜。
静かな部屋の中で、レトルトはなかなか眠れずにいた。
背中越しに感じる死神の気配。
触れられるわけじゃない。
体温だってないはずなのに。
すぐ後ろに“誰か”がいる感覚だけが、やけに鮮明だった。
レトルトは小さく身じろぎする。
落ち着かない。
胸の奥がざわついて、呼吸が浅くなる。
そして――
自分の身体の異変に気づいた。
(……なんで)
一瞬、思考が止まる。
(なんで、勃ってんの)
信じられないものを見るみたいに、自分の身体を意識する。
もともと性欲は薄かった。
一人で処理することもほとんどないし
欲求に振り回されるタイプではなかった。
死神が来てからは毎日一緒にいて
一人になる時間なんてほとんどなくて…
だから、処理する時間がなくて….
レトルトは意味もなく言い訳を考えた。
誰かに説明する訳でもないのに、自分に言い聞かせる様に。
背中越しに感じる気配。
すぐ近くにある声。
無防備な寝息みたいな静かな音。
それらを意識した瞬間、 身体の奥が熱を持ってしまった。
レトルトはぎゅっと目を閉じる。
(最悪や……)
小さく眉を寄せながら、
どうにか落ち着こうと深く息を吐いた。
そっと後ろを振り向くと死神は 何も知らない顔で、気持ちよさそうに眠っていた。
穏やかな寝顔。
無防備な表情。
その姿を見た瞬間、
レトルトはなんだか無性に腹が立った。
(……誰のせいで、こんななってると思ってんだよ)
じとっと睨む。
けれど、そんな視線に気づくはずもなく死神は 静かな寝息を立てている。
それが余計に腹立たしかった。
レトルトは小さく息を吐く。
このまま隣にいるのは落ち着かない。
そう思って死神 を起こさないようにそっと身体を動かした。
ベッドが軋まないよう慎重に。
静かに布団から抜け出そうとする。
けれど――
『……レトさん?』
眠たそうな声が、すぐ後ろから聞こえた。
レトルトの肩がびくりと揺れる。
『レトさん……?どうした?』
死神は眠そうに目をこすりながら、ぼんやりとレトルトを見上げた。
赤い瞳が半分閉じかけていて、 まだ完全には起きていないらしい。
レトルトは一瞬だけ言葉に詰まる。
「いや、ちょ、ちょっとトイレ」
できるだけ平静を装って答えた。
バレてないか。
変に思われてないか。
頭の中ではそればかりがぐるぐるしている。
死神は「んー」と間延びした声を出しながら、小さく笑った。
『珍しいね』
眠たそうな顔のまま、にやにやと口元を緩める。
『俺も一緒についていこっか?』
その言葉にレトルトは勢いよく振り返った。
「アホか!黙って寝とけ!」
思わず強めの声が出る。
死神はきょとんとしてから、
「はいはい」と楽しそうに笑った。
レトルトはそれ以上何も言わず、急いでベッドから降りる。
そして、 バレないように少しだけ前屈みになりながら そそくさと部屋を出て行こうとした。
その姿を死神はじっと見つめ 少し眉をひそめる。
不思議そうに。
探るみたいに。
そして――
何かを察したように、ふっと目を細めた。
『レトさん、待って』
低く響く声だった。
いつもの軽い調子じゃない。
ふざけた笑いもない。
静かで、妙に真っ直ぐな声。
その瞬間。
レトルトの身体が、ぴたりと止まった。
まるで、その声に縫い止められたみたいに。
心臓が跳ねる。
振り返ることもできず ただ立ち尽くす。
背後から、ゆっくりと気配が近づいてくる。
触れられないはずなのに、 すぐ後ろにいると分かる。
『……もしかして』
耳元近くで、死神が小さく笑った。
その声だけで背筋が熱くなる。
『レトさんさぁ、えっちなこと考えてた?』
耳元で呼ばれる名前。
すぐ後ろから聞こえる低い声に、
レトルトの肩がびくりと揺れた。
そして――
耳に、ふっと息がかかる。
『レトさん….手どけて』
囁くみたいな声。
レトルトは顔を真っ赤にしたまま、
小さく首を横に振る。
「……や、だ」
うまく声にならない。
隠すように押さえている手に、力が入る。
けれど死神はそんな反応を見て小さく笑った。
『ダメ』
静かな声。
『俺の言うこと、聞けないの?』
いつものふざけた調子じゃない。
ゆっくりと、逃げ場を塞ぐみたいに響く声。
『……ほら。手どけて』
その言葉に レトルトの喉が小さく鳴った。
逆らえない。
どうしてなのか、自分でも分からない。
ただ、その声に従わなければいけない気がしてしまう。
反応してしまった身体を隠していた手が、
かすかに震える。
後ろから覗き込むような気配。
肩越しに死神がすぐ近くにいるのが分かる。
逃げたい。
隠したい。
なのに――
身体がうまく動かない。
『レトさん、勃ってるね』
耳元で、くすりと笑う声。
『かわいい』
意地悪そうに笑う気配に、 レトルトの呼吸が乱れる。
「……っ、み、見ないで」
絞り出した声は、情けないくらい震えていた。
死神さそんな反応が面白いのか、 さらに顔を近づける。
『何考えて、こうなったの?』
低い囁き。
『教えて?』
レトルトはぎゅっと唇を噛む。
言えるわけがない。
原因が、お前だなんて。
毎日隣にいて、 近くで笑って
当たり前みたいに同じ布団に入ってくるから。
そんなこと、絶対に言えない。
レトルトは顔を背ける。
『ねぇ、教えて?』
優しい声だった。
でも、その優しさは逃がしてくれない。
静かに、強く、
レトルトの身体の奥まで響いてくる。
心臓がうるさい。
耳まで熱い。
逃げたいのに、
死神の声に捕まったみたいに動けなかった。
レトルトは唇を噛む。
言いたくない。
でも、隠しきれない。
涙で滲んだ視界のまま、
震える声を落とした。
「……キ、キヨくんのこと……考えてた」
言った瞬間、 恥ずかしくて苦しくて、
そのまま消えてしまいたかった。
「っ……」
呼吸が浅くなる。
胸の奥が、爆発しそうだった。
『へぇ、俺のこと考えて、こんななったんだぁ』
死神は楽しそうに笑った。
にやにやと口角を上げながら、
レトルトの反応を眺めている。
『レトさんのすけべ』
からかうような声。
レトルトは羞恥で頭が真っ白になりそうだった。
「う、うるさい……」
掠れた声で返すのが精一杯。
そんなレトルトを見ながら、
死神はふっと目を細める。
そして――
『ねぇ、レトさん』
少しだけ声のトーンが落ちた。
『一人でしてるとこ、見せてよ』
突然の言葉に驚いてレトルトは 反射的に振り向いた。
その瞬間。
目の前に、死神の顔があった。
唇が触れそうなほど近い距離。
赤い瞳が、真っ直ぐレトルトを見ている。
その近さに、 レトルトの体温が一気に上がった。
心臓が跳ねる。
逃げたいのに、
視線を逸らせない。
死神はそんなレトルトを見つめたまま、
くすりと小さく笑った。
怪しく光る赤い目はレトルトを優しく捉えて
離そうとしなかった。
続く
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