テラーノベル
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思い出したことがわかるみたいに手を握られて、その大きさに感動する。
「大きくなった響の手だぁ…!」
「琴音は変わらない…」
この手を最後に握ったのは、響が高校1年生の時。
不思議なことに…会いたいと思って響の家の前に行くと、だいたい出てきてくれたっけ。
確かあの日もそうだった。
『引っ越すことになったんだぁ』
『…何処へ?』
『わかんないけど、アパートに引っ越すんだって』
それだけしか言ってないのに、響には真相がわかったみたい。
すっと手を取られて、建物の陰に引っ張られた。
そして…今より華奢だけど、あの頃の私よりずっとしっかりした胸に、私を閉じ込めたんだ。
すごくドキっとして…「…なに…?」って小さい声で聞くと、少しだけ腕の力が緩んで…
覗き込む響に見られた私の顔は、きっと真っ赤だったと思う。
『…なんちゃって…?』
響はそう言って笑いながら、私の手を握った。
それが、なんだか恥ずかしくて…。
何も言わないで走って帰ったのは、明日もまた、会えると思ってたから。
…それなのに、その夜。
お父さんが怖い顔で引っ越しすると言って、家から私たちを追い立てた。
大きな車に身の回りの物を積み込んで、私はお母さんと弟と、先に車に乗り込んだ。
…あれから、10年…。
どうやら奇跡の再会を果たしたらしい。
…にしては、あの頃の延長みたいな私たち。
緊張感もなく、響は『近所のカッコいいお兄ちゃん』のまま、今も隣に座ってる。
「…あのカフェ、一週間前に初めて行ったんだよ。そしたら見たことあるちびっこいのがいて、驚いた」
「ちびっこいって私のこと?」
「あれからお前、身長伸びなかっただろ?」
「失礼すぎっ!10センチも伸びたっ!」
「へぇ…俺、13センチ伸びた。今188」
勝ったと言わんばかりの顔。
なんでかわかんないけど、繋いでた手を離して、パシッと腕を叩く。
「…なんでだよ…?」
響も笑っちゃって、その顔があの頃と同じで…すごく嬉しくなった。
「そういえば…おばさんは?まだ帰ってないの?」
見たところ、すごく広いマンション。
当然、両親と一緒に暮らしてると思った。
「父さんたちは本家に戻った。ここは俺の住まいな」
「…えぇ?こんな広いところに1人なんて、寂しくないの?」
「…寂しい。一緒に暮らしてくれる人、探してるんだけどさ…」
急に座り直して、私を正面から見てきたから、私も正面から響を見て言った。
「私も…探してあけよっか?同居してくれる人!」
「…は?!」
響は凛々しい眉のあいだに深いシワを刻んで私を見つめ…意外なことを言った。
「琴音、今家族4人でアパート住まいだろ?…で、おじさんは新事業に苦戦してて、おばさんは朝から晩までパートの仕事を頑張ってる」
「その通り…だけど、なんで知ってるの?」
「先週カフェでお前を見かけて…悪いが少し調べさせてもらった。弟も大学受験なんだな?」
デカくなったもんだ…と言いながら、上体をぐいっと近づけて言う。
「琴音はカフェのバイトの後、居酒屋でも働いてるだろ。その上たまに、引越し屋のバイトまでしてる」
そこまで言い当てられて、さすがにちょっと苦しい…。
「その通りだけどさ…久々に会って、それ全部知られてるのちょっとヘコむ…」
「…なんで?」
「なんでって…」
子供の頃、響の家があるあたりに住んでいたということは、今思えばそれなりに裕福だったということ。
それが…突然の引っ越し。
あれはいわゆる夜逃げだった。
「俺はさ、琴音を助けられるって言いたいわけ」
「…助けるって?どういう…意味?」
「俺と、結婚を前提に同居して」
何を唐突に言い出すんだか…。
「…プロポーズみたいなこと言わないでよ…」
「いやプロポーズだろ」
「…また…『なんちゃって!』とか言うんでしょ?」
響の家がお金持ちなのはなんとなく知ってる。
でも私は今、子供の頃と違って極貧だ。
「琴音、まだ俺がどこの誰かわかってないのか?今の俺なら、琴音の背負うもの、すべて肩代わりできるって言ってるんだよ。…おじさんたちの苦労だってそうだ」
響…ふと腕時計を確認した。
「じゃ…俺は一旦行くわ。琴音は風呂にでも入ってゆっくりしてろ」
「…え?ちょっと待ってよ?どこ行くのよ…?」
思わず一緒に立ち上がって、一歩近づいて不安そうな顔をしてしまう…。
「ふんっ…かわい…」
頬をスルリと撫でてから、来る時乗ったエレベーター前に行ってしまう。
「…仕事だよ。これでも一応跡取りだからな。それから…」
くるっと振り向いて、私の頭に手を乗せて言う。
「武者小路、検索してみな。それで多分わかる」
帰りは23時頃…と言いながら、呆気に取られる私を部屋に残して、響は行ってしまった。
…ちょっと待って!
私、それまで帰れないってこと?
コメント
1件
琴音ちゃん、もうとっくに捕獲されてますよー😁 でも本人は無自覚....🤣w 肩書きや見た目で群がってくる女子と違い こういう天然で計算していない所が 、響にとっては 可愛くて仕方がないんだろうなぁ~💕🤭