テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
そして迎えた、運命の夜────。
王宮で開催される舞踏会。
それは、私が公爵夫人として社交界に初めてお披露目される場だった。
豪華絢爛なシャンデリアが眩いばかりに輝く大広間に足を踏み入れた瞬間
何百という貴族たちの視線が、毒を含んだ針のように私たちに注がれた。
「氷の公爵」が突如として連れてきた、没落家門の娘。
好奇、侮蔑
そして激しい嫉妬が混じった視線の嵐に、足の震えが止まらなくなりそうになる。
それを察したのか、シャーロット様が私の腰を引き寄せ、逃げ場を塞ぐように密着させた。
「胸を張れ。お前が怯えると、俺の品格まで疑われる。お前は俺が選んだ女だ。誰に対しても、支配される側としての矜持を持て」
耳元で低く囁かれる、熱く、甘く、けれど拒絶を許さない吐息。
私は震える指先を彼の逞しい腕に添え
精一杯の虚勢を張って、氷の彫刻のような彼の隣で人形のように微笑み続けた。
悲劇が起きたのは、シャーロット様が他国の要人と挨拶を交わすため
ほんのわずかな時間、私の傍を離れた隙だった。
「やあ、可憐な小鳥さん。氷の公爵に監禁されていると聞いたが、随分と窮屈そうな首輪を付けているね」
不意に背後からかけられた、粘りつくような嫌な声。
振り返ると、そこには華やかな金髪をなびかせた
いかにも遊び慣れた風色の若き子爵が立っていた。
彼は私の戸惑いを無視して、強引に私の手を取り、その指先に卑しい唇を寄せようとする。
「あ、あの……手を放してください……っ! 私はシャーロットの妻で……っ」
「そんなに怯えないで。あんな血も涙も通わない冷たい男より、僕の方が君を優しく愛でてあげられる。ほら、遠慮せず僕と一緒に───」
そのときだった。
会場の空気が、一瞬で絶対零度まで凍りついたかのような、凄まじい威圧感。
背後から近づいてくるその規則正しい足音だけで
私は全身の毛穴が逆立つような恐怖と、同時にどうしようもない安堵を覚えた。
「──そいつは俺の女だ。今すぐその汚い手を離せ」
振り返ると、そこには王族の前で見せていた完璧な淑士の仮面を脱ぎ捨て
飢えた獣のような怒りを瞳に宿したシャーロット様が立っていた。
彼は私の子爵に握られた手をもぎ取るようにして奪い返すと、見せつけるように私の腰を抱き寄せ
子爵の喉元を物理的に射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつける。
「しゃ、シャーロット……!」
もしかして……助けてくれたの?
驚きで見上げる私を余所に
彼は氷のような静かな怒りを、叫び声よりも何倍も恐ろしい圧力で放った。
「二度はない。……次、この女の肌に一分でも触れようとしたら、貴様の家門ごと、この国から地図ごと消してやる」
青ざめて脱兎のごとく逃げ出す子爵には目もくれず
シャーロットは私の腕を掴み、力任せに引きずって王宮の出口へと向かった。