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第5話:父とリングと僕
「えー……なにそれ、ダサくない?」
土曜の午後。
レンは、居間で父の指に光るリングを見て思わず言ってしまった。
父・マモルのリングは、太くて重い錆びついた色。
真ん中に一文字、無骨な刻印――「守」。
表面には細かい傷がびっしり。角は欠けて、古さがにじみ出ている。
「レン、これはな、お前が生まれた時に刻んだんだ」
父はそう言って笑ったが、レンにはその「重さ」がなんとなくうっとうしかった。
レンは小学6年生。
赤と緑のツートンジャージにボサボサの髪、首にはお気に入りのスマートリングホルダーをぶらさげている。
彼のリングは、火属性と風属性のハイブリッド。
細身で赤と水色のラインが交差するデザイン。人気アニメ「ソウルファイターZ」とのコラボ限定モデルだ。
指を鳴らすと小さな火花が出て、手を回せば風の渦が起きる。
「カッケーだろ?」と友達の間では大好評。
「そんな古くさいリングじゃ、もう何もできないでしょ?」
そう言ったとき、父は少しだけ、寂しそうに目を伏せた。
次の日、町で防災訓練があった。
地元の公園で、模擬避難や火災対応の演習が行われるなか、レンも母と一緒に参加していた。
そこで、非常用リング作動テストが行われることになった。
だが、いざ試験用の水リングが暴発し、仮設テントが倒れかけた瞬間――
「危ない!」
風と火のエフェクトが交錯し、空間にシールドが張られた。
シンプルな金属光が、レンの視界をよぎる。
そのリングは、父の指にあった。
黒鉄のリングから、半透明の六角シールドが展開され、倒れかけたテントをぴたりと支えていたのだ。
「え……それ……」
レンが見たことのない、父のリングの“本気”。
「これな、正式名称は防護魔法型リング01式・現場向け。もう旧式だけど、強いぞ」
父は指でリングの表面をなぞりながら言った。
「昔は現場で使っててな。火災、事故、暴動……
“人を守るための魔法”が、ここに込められてるんだ」
その晩、レンは自分のリングをじっと見た。
派手で、かっこよくて、でもどこか“軽い”気がした。
スマートに魔法が出せるリングもいい。
でも、誰かを守るための“重み”のある魔法も、ちょっとだけ、いいと思った。
次の日、レンは父のリングのデザインをまねして、自分のリングに新しい刻印を追加した。
「守」ではなく、**「動」**という字。
火と風で、誰かのために“動く”魔法を使いたいと思ったからだ。
魔法の強さは、きっと属性でもエフェクトでもなく――
その魔法を、誰のために使うかで決まるのかもしれない。