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「誰が悪い、で片づけられる事ではないと思います。朱里さんは大好きな父親を亡くして心に壁を作り、新しい家族と打ち解けられないままだった。頑なになっている彼女に亮平さんが言葉少なに近づこうとしても、あらぬ誤解を受けたでしょう。そんな二人を見て、美奈歩さんは大好きなお兄さんをとられそうな気持ちになり、嫉妬してしまった。嫌いなわけではないけれど、つまらないからツンとしてしまう。それを見て朱里さんも、話しかけないほうがいいのかもしれないと思い、二人の間にすれ違いが生まれてしまった」


私は彼の言葉を聞きながら、尊さんがいてくれて良かったなと感じていた。


結婚する前に美奈歩との関係を改善したいと思っていても、私一人だったらお互い言葉足らずでうまく話せなかったと思う。


亮平が私に惹かれていたくだりも、自分で言ったら「自意識過剰」と思われてしまう。


だから、第三者の尊さんがいて本当に良かった。


「誰かを嫌う理由は、その人のせいで自分の大切なものが損なわれる場合……と思っています。自分の話ばかりする人や、自慢話ばかり、嘘ばかり、誰かを悪く言ってばかり……、そういう人と一緒にいるだけで自分がすり減りますし、時間が勿体なく感じます。または自分を陥れた相手だとか、借りたお金を返さない人、約束を反故にする人などもありますが、二人の場合何にも当てはまりません。二人とも直接の要因はなく、〝何となく〟で避けていたんです」


確かに、尊さんの言う通りだ。


私は美奈歩から実害をほぼ受けていない。


ちょっと冷たい態度をとられたといっても、学校や会社の中みたいに、その態度が他の人に伝染して自分の立場が悪くなるわけではない。


美奈歩の態度さえ気にしなければ、別に普通に過ごしていられた。


恵や昭人に愚痴る時も『ツンツンされてしんどい』ぐらいしか言う事がなかった。


……亮平の場合は近い場所に立たれたりとかで、変な危機感はあったから別物だけど。


だから私も〝何となく〟美奈歩を避けて、それに〝嫌い、苦手〟という理由をつけていたのかもしれない。


彼は私たち姉妹の顔を順番に見て微笑む。


「『人付き合いは鏡』と言いますし、ミラーリング効果という言葉もあります。好意を持つ相手と似た行動をとる事を言いますが、『嫌われている』と思ってツンツンすると、相手も『嫌われている』と思ってそっけなくなるでしょう。どちらかいっぽうが思い切って一歩踏み出し、『自分は仲良くなりたいと思っているが、あなたはどうなのか』と尋ねたら、事態は変わっていたかもしれません。……でもなかなか、難しくはありますよね。私も継兄に対して思い切って聞いてみようとは思えませんでした」


尊さんは自分の話も踏まえ、私たちの仲を取り持ってくれる。


「話してみれば、こうやってお互いが何を考えていたか知る事ができます。まずは話し合いのテーブルにつきましょう。To be is to do.『存在するとは、行動する事である』とカントも言っています。思っているだけでは何にもなりません。家族になりたい、相手にとっての〝何か〟になりたいと思うなら、思いきって自分の考えを話してみる事を勧めます」


尊さんの言葉が、じんわりと胸の奥に染み入っていく。


(私、思い込みで判断したあと、ろくに話さずに『もういいや』って距離をとってしまっていたな。学生時代もそうだったし、家族も……)


反省した時、美奈歩がポツンと言った。


「……今まで感じ悪くてごめん」


「う、ううん!? 私も……、まともに話そうとしないでごめん」


謝り合ったあと、私たちは照れくさくなってジワジワと赤面する。


そんな私たちを見て尊さんは笑顔になり、ポンと私の肩を叩いてきた。


「付き合うから、今度美奈歩さんを誘ってお茶でもしてみたらどうだ? 家から出て、場所を変えたら色々話題が出てくるかもしれない。仕事の悩みとか、恋愛関係とか。ホテルのアフタヌーンティーとかは? 女子って好きだろ」


もう……。アフターケアまで万全の速水クオリティ!


「……美奈歩、いい所知ってる?」


おずおずと尋ねると、彼女は少し迷ってから言った。


「一応ヌン活はしてるけど、一月、二月だと割と苺をテーマにする所が多いから、苺が好きなら狙い目かも。…………好きでしょ? 苺味のチョコとかよく食べてたし」


んん! ……まさか、美奈歩が私が好んでいたお菓子を覚えていたとは……。


じわぁ……、と嬉しくなった私は、立ちあがるとガバッと両腕を広げ、トトト……と美奈歩に近づいて優しくハグをした。


「な、なに!」


「……しゅき。嬉しくなったらハグる」


「なにその理論」


美奈歩は呆れたように突っ込んだあと苦笑し、ポンポンと私の背中を叩いてきた。


「今度、連絡する」


「うん、分かった」


「速水さん、ありがとうございます」


美奈歩が彼にお礼を言い、尊さんも微笑み返す。


「いいえ、どういたしまして」


「あと、さっきはごめんなさい。ただの八つ当たりです」


ん? 何のこと?

部長と私の秘め事

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