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みら

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内覧を終えたあと。
九人は一度、事務所へ戻った。
さすがに。
「魔王が作ったから大丈夫」
だけで契約するわけにはいかない。
事務所側にも改めて確認してもらうことになった。
契約。
管理会社。
防犯設備。
警備体制。
建物そのもの。
一つずつ確認して。
数日後。
九人はまた会議室に集められた。
マネージャーが資料を閉じる。
「結論から言います」
全員が見る。
「問題ありませんでした」
佐久間が一番に顔を上げた。
「じゃあ住める!?」
「契約上は」
「やった!」
渡辺が隣で。
「まだ誰も住むって言ってないけど」
と冷静に返す。
「翔太も住むでしょ?」
佐久間が聞く。
渡辺は少し黙った。
宮舘を見る。
宮舘も渡辺を見る。
「……まあ」
渡辺が小さく答える。
「涼太が住むなら」
深澤が笑った。
「結局住むじゃん」
岩本も。
「俺たちもいいよね?」
と深澤を見る。
「うん」
「じゃあ決まり」
康二はすでに、
「写真どこから飾ろかな」
と考えている。
ラウールも。
「俺も住む」
とあっさり頷いた。
最後に。
自然と阿部と目黒へ視線が集まる。
阿部は目黒を見る。
目黒も阿部を見る。
「どうする?」
目黒が聞く。
阿部は少しだけ考えた。
元の家を出た時。
次の家でも、たくさん思い出を作ろう。
そう言った。
それが。
思っていたよりずっと変な形で叶いそうになっている。
魔王が大家。
管理人は魔王の手下。
インターホンはレベルアップ音。
普通ではない。
でも。
部屋は二人で考えた。
安心できる設備もある。
そして。
すぐ近くにはみんながいる。
阿部は笑った。
「住みたい」
目黒の表情が柔らかくなる。
「俺も」
岩本が頷いた。
「じゃあ九人全員だね」
その瞬間。
阿部のスマートフォンが震えた。
画面を見る。
知らない番号。
もう誰か分かる。
『契約ありがとう! 旅行行ってきます。魔王より』
阿部は無言で画面を見せた。
渡辺が。
「早いんだよ」
と言う。
深澤が笑う。
「まだ契約書書いてないよね?」
康二も笑う。
「気持ちだけ先に受け取っとる」
ラウールが。
「どこ行くんだろ」
と少し楽しそうに言う。
阿部は額を押さえた。
「もう好きにして……」
でも。
笑っていた。
引っ越しの日。
朝からマンションは賑やかだった。
業者もいる。
マネージャーもいる。
そして。
当然。
九人全員いる。
阿部と目黒の部屋には。
元の家から運び出した荷物が次々と届いていた。
段ボール。
家具。
服。
本。
まだ何も置かれていなかった広い部屋が。
少しずつ。
二人の生活で埋まっていく。
「これどこ?」
佐久間が段ボールを抱えて聞く。
阿部がラベルを見る。
「食器」
「キッチン?」
「うん」
宮舘がすぐに。
「じゃあ俺持っていくよ」
と受け取る。
「館さん、自分の引っ越し終わったの?」
阿部が聞く。
「だいたい」
渡辺が後ろから言う。
「こいつ、最初にキッチンだけ完成させたから」
「大事でしょ」
宮舘は当然のように答えた。
その横を。
康二が大きな箱を抱えて通る。
「これ写真!」
「それ康二の部屋じゃない?」
「ちゃうちゃう。夢のアルバム」
「あ」
阿部がすぐに近づく。
「それ大事」
「分かっとる」
康二は慎重に運ぶ。
夢から現実へ来た。
分厚いフォトアルバム。
今では。
当たり前のように現実の荷物の中に混ざっている。
目黒は。
元の家から持ってきた箱を開けていた。
中には。
婚姻届。
アンクレット。
そして。
二人で書いた紙。
『これから二人でやりたいこと』
目黒が紙を広げる。
阿部がそれに気づいた。
「めめ」
「何?」
「まさか」
目黒は寝室へ向かう。
阿部も追いかける。
「待って」
「どこにしようかな」
「待ってって」
壁を見る。
「ここかな」
「だから!」
阿部が紙を取り上げようとする。
目黒が少し高く持ち上げた。
「何?」
「それまた飾る気?」
「うん」
「本棚にしまうって言ったじゃん!」
「前の家でも飾ってたじゃん」
「めめが勝手に飾ったんでしょ!」
目黒が笑う。
「でも外さなかった」
「それは……」
阿部が詰まる。
そこへ。
佐久間が顔を出した。
「何してるの?」
「あ」
阿部が慌てて紙を隠そうとする。
遅い。
「何それ?」
「見なくていい!」
佐久間が一瞬。
紙を見る。
そして。
「え?」
阿部の顔が青ざめる。
佐久間の目が。
例の一文で止まった。
『二人でキスシーンがたくさんある映画に出たい』
「……へえ」
佐久間の口元が上がる。
「佐久間」
「なるほどねえ」
「忘れて」
「あべちゃん」
「何」
「叶うといいね!」
「そこは叶わなくていい!」
目黒が横で。
「俺は叶えたい」
と言う。
「めめは黙って!」
寝室に。
笑い声が響いた。
結局。
紙は。
婚姻届とアンクレットの近くに。
きれいに飾られた。
阿部は何度も文句を言ったけれど。
最後まで外さなかった。
キッチンでは。
あの食器たちが。
新しい棚へ並べられていく。
佐久間がくれたステンレスのコップ。
康二とラウールが選んだプラスチックのお皿。
岩本、深澤、宮舘、渡辺が揃えてくれた。
割れにくい食器一式。
宮舘が。
一つずつ棚へ入れる。
阿部が横で見ていた。
「やっぱ持ってきてよかった」
「思い出あるもんね」
「うん」
阿部は。
新しい棚を見る。
前の家で使っていたものが。
新しい家に並ぶ。
家は変わった。
でも。
全部を最初からやり直すわけではない。
今までのものを持って。
続きを始める。
それでいい。
夕方になる頃には。
それぞれの部屋も。
だいぶ形になっていた。
本来なら。
各自。
自分の家でゆっくりするはずだった。
なのに。
阿部がリビングへ戻ると。
佐久間がソファにいる。
康二もいる。
ラウールは床に座っている。
深澤は大きなソファの座り心地を確認している。
岩本もその隣。
渡辺もいる。
そして。
キッチンでは宮舘が冷蔵庫を開けていた。
阿部は。
しばらく部屋を見回した。
「……何で全員いるの?」
佐久間が当然のように答える。
「夜ご飯食べるから」
「誰の家?」
「めめとあべちゃん」
「分かってるじゃん」
目黒がキッチンから顔を出した。
「やっぱりこうなると思った」
「めめまで」
宮舘が聞く。
「阿部、今日食べたいものある?」
「館さんの家にも立派なキッチンあるよね?」
「あるよ」
「じゃあ何でうちで料理してるの?」
宮舘は少し考えて。
「今日はここで食べるから?」
渡辺が。
「そういうこと」
と勝手に納得する。
阿部は笑ってしまった。
「もういいや」
ラウールがリビングを見回す。
「でも本当に広いね」
康二も。
「九人おっても余裕あるやん」
深澤がソファに寝転ぶ。
「最高」
岩本が。
「自分の家みたいにくつろぐじゃん」
と笑う。
「同じマンションだし」
「関係ないでしょ」
そんな会話を聞きながら。
阿部は少し離れたところから。
八人を見る。
夢の中。
何度も。
九人で同じ部屋にいた。
魔王ソファに座って。
何もしない日もあった。
現実に戻ったら。
また九人で集まりたいと思った。
そして。
新しい家を選ぶ時。
九人が入れるリビングが欲しい。
そう言った。
ちゃんと。
その通りになっている。
阿部が小さく笑った。
「何?」
目黒が隣へ来る。
「いや」
阿部はみんなを見る。
「九人入れるリビングにしてよかったなって」
目黒も部屋を見る。
「ね」
「まだ引っ越し初日なのに」
「初日だから来たんじゃない?」
「これから毎回来るかな」
目黒は少し考えた。
「来ると思う」
「だよね」
二人で笑った。
しばらくして。
テーブルいっぱいに料理が並んだ。
引っ越し初日だから。
凝ったものではない。
宮舘が簡単に作ったスープ。
買ってきたお寿司。
惣菜。
飲み物。
それだけ。
でも。
九人揃っていた。
「じゃあ」
岩本が周りを見る。
「引っ越し祝いってことで」
佐久間が。
「かんぱーい!」
と先にグラスを上げる。
渡辺が。
「まだ照喋ってる」
と突っ込む。
また笑う。
九人で。
「いただきます」
声が重なった。
阿部は。
一口食べる。
美味しい。
隣に目黒がいて。
向かいには佐久間。
周りにはみんな。
新しい家なのに。
少しも知らない場所という感じがしなかった。
「館さん」
「何?」
「スープ美味しい」
「よかった」
渡辺が。
一瞬阿部の皿を見る。
阿部が先に気づく。
「ちゃんと食べてるよ」
「まだ何も言ってない」
「顔」
「また?」
「分かりやすい」
渡辺が少し笑う。
「ならいい」
そのやり取りを見て。
深澤が。
「ここでも翔太ルール継続?」
と聞く。
「一回まで」
阿部が答える。
「なんだそれ」
佐久間が笑う。
夢の中から。
旅館。
そして。
新しい家。
くだらないルールまで。
全部続いている。
食事が半分ほど進んだ頃。
突然。
室内に。
軽快な電子音が響いた。
テレレレレッテッテー。
全員の動きが止まる。
「あ」
佐久間が最初に反応した。
「レベル上がった!」
「上がってない」
阿部が即答する。
でも。
その声は。
少しだけ遅かった。
音が鳴った瞬間。
阿部の身体は。
ほんの少しだけ固まっていた。
インターホン。
頭の奥に。
昔の音が蘇りそうになる。
でも。
違う。
音が違う。
場所も違う。
ここは。
あの家ではない。
阿部は。
ゆっくり息を吐いた。
目黒が隣で小さく聞く。
「あべちゃん」
「うん」
「大丈夫?」
阿部はモニターを見る。
「……見てみる」
自分で立ち上がった。
誰も止めない。
ただ。
みんながそこにいる。
モニターを確認する。
映っていたのは。
エントランスの管理人だった。
阿部は少し肩の力を抜いた。
通話ボタンを押す。
「はい」
『お食事中に失礼いたします』
いつもの。
ものすごく真面目な声。
『宅配便を一件お預かりしております。お持ちしてもよろしいでしょうか』
阿部は。
少しだけ拍子抜けした。
「お願いします」
『かしこまりました』
通話が終わる。
静かになる。
佐久間が。
「何だった?」
「宅配」
「誰の?」
「まだ分かんない」
阿部は席へ戻る。
目黒がもう一度聞く。
「平気だった?」
阿部は。
少し考えた。
胸は。
もう速くない。
手も震えていない。
「うん」
そして。
少し笑う。
「むしろちょっと面白かった」
「レベルアップ?」
「音はね」
佐久間が。
「採用してよかったでしょ!」
と言う。
「魔王が勝手に採用したんだけど」
康二が笑う。
「誰か来るたびレベル上がるんやで」
「上がらないって」
ラウールが。
「でも、前の音とは全然違うね」
と静かに言う。
阿部は頷いた。
「うん」
それが。
一番大きかった。
昔。
あの音が鳴った。
扉を開けた。
すべてが変わった。
でも。
今の音は。
ただ。
荷物が届いたことを知らせる音。
それだけ。
阿部は。
もう一度小さく笑った。
「これならいいかも」
目黒も笑う。
「じゃあ変えない?」
「うん」
「レベルアップで決まり?」
「名前はそれじゃないけどね」
みんなが笑った。
少しして。
管理人が宅配便を届けに来た。
阿部が受け取る。
送り主を見る。
止まる。
「……魔王」
全員が。
「ああ」
と声を出した。
佐久間がすぐに。
「開けよ!」
「嫌な予感しかしない」
渡辺が言う。
箱を開ける。
中には。
高級そうな菓子折り。
そして。
一枚のメモ。
阿部が読む。
『入居おめでとう!』
その下。
『最初の家賃でどこ行こうかな。魔王より』
渡辺が。
「だからまだ払ってないって」
と呟く。
康二が大笑いする。
深澤も。
「先走りすぎ」
ラウールが箱を見る。
「でもお菓子美味しそう」
宮舘が。
「食後に出そうか」
と言う。
阿部はメモを見ながら。
呆れたように笑った。
「ほんと自由だなあ」
目黒が隣から箱を見る。
「でも」
「何?」
「この家作ってくれたのはありがたいね」
阿部は。
少しだけ黙る。
それから。
部屋を見る。
九人で囲むテーブル。
新しい食器。
新しい壁。
新しいインターホン。
でも。
そこにいるのは。
いつもの八人。
隣には目黒。
「……うん」
阿部は笑った。
「それは本当にそう」
この家の最初の思い出は。
九人での夕飯。
レベルアップ音。
魔王から届いた。
気の早い入居祝い。
きっと。
これからも。
こうやって。
くだらないことも。
嬉しいことも。
少し怖いことも。
全部。
増えていく。
阿部は。
隣の目黒を見る。
「めめ」
「ん?」
「いっぱい作れそうだね」
目黒は。
何のことかすぐに分かった。
「思い出?」
「うん」
目黒が笑う。
「作ろう」
阿部も笑った。
今度の家も。
きっと。
二人の家になる。
そして。
九人が何度も集まる。
帰る場所になる。
コメント
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おはようございます☁️ 一気に読みました。 本当に魔王と天使最高すぎます。 夢だけでなく現実にまで入って来てる😁 1話1話ニヤケと笑いが🤭 楽しく読ませて貰いました。 続き待ってます♪
読み終えました。第68話、すごくいい回でしたね。 新しい家に九人全員が集まって、当たり前のように夜ご飯を食べている光景が、もう本当に「帰る場所」そのものだなって思いました。阿部くんが「九人入れるリビングにしてよかった」って言うところ、胸にきました。夢の中で何度も見た景色が、ちゃんと現実になって続いていく——その積み重ねが尊いです。 魔王の自由奔放さにも笑いました。でも最後に目黒くんが「この家を作ってくれたのはありがたい」って言うところで、全部許せちゃう。今回は特に「思い出を作る」というテーマが温かく響きました。