テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「亮介、お誕生日おめでとう! すてきな一年にしてね」
「ありがとう!! めっちゃうまそう!」
「ビールいっぱい買ってきたよ。銘柄もいつもよりランクあげてみました」
缶ビールをカチンと合わせて乾杯をする。暑いからビールが、びっくりするくらい美味しい!!
「いただきます! やった!! 全部好きなものだ」
亮介はときどきかわいい。
「枝豆めっちゃうまい!! なにこれ?」
「茹でただけだけどね……、隣の駅のオーガニックスーパーで買ってきたからちょっとちがうでしょ」
亮介はときどき天然だ。
「未央、きょう《《も》》寝かせないからね」
夜の亮介はいつも元気いっぱい……だ。ひとしきり食べて、酔いもいい感じにまわってきた。
「亮介、ケーキもあるよ? 食べれそう?」
「うん、食べる!!」
ケーキにロウソクを立てて、火をつける。電気を消すと、温かいオレンジの光がふたりの顔を優しく照らす。
久しぶりにハッピーバースデーの歌を歌う。未央はなんだかすごく、くすぐったいような気がした。
亮介がふーっとロウソクを吹き消す。パチパチパチパチと、拍手をすると電気をつけた。
「未央、ありがとう。すっごいしあわせ」
「喜んでくれてよかった。私も、すっごい幸せ」
軽くチュッとキスをする。ハートが部屋中に広がっていくみたい。
「そうだ、誕生日プレゼントなんだけど」
「え? 僕、ご飯だけで十分って言ったよ?」
「いや、付き合ってはじめての誕生日だしさ。はい、お誕生日おめでとう」
未央は、きれいにラッピングされた箱を亮介に渡した。
「ありがとう、開けていい?」
箱の中身はボールペンであった。ボディは紺色で、ペン先やクリップは上品なシルバー。ボディの上部に「R.Gunji」と名入れがしてあった。
「わー、おしゃれ! これ高かったでしょ?」
「museで胸ポケットにボールペン入れてるでしょ? これなら使ってもらえるかと思って……」
「ありがとう! めっちゃ使う! うれしい」
思いのほか亮介は喜んでくれた。悩んだあげく、ネットの力もかりて決めたんだけど……。未央は胸を撫で下ろした。
「亮介。よかったらもう一つプレゼントもらってくれる?」
「ふたつも? なんか悪いよ」「ふたつめは、お金かかってないから。いやだったら、いやって言ってね」
亮介は不思議そうな顔をして、うなづいた。
「ちょっと準備してくる。待ってて」
未央は脱衣所に行くとあれに着替え始める。初めてじゃないし、動画を見ながらやればなんとかできるはず。未央は少々手間どりながらも、なんとか着替えて、しずしずと脱衣所のドアを開けた。
「えっ? 未央?」
未央は、雰囲気が大事だと意気込んで、三つ指ついて頭を下げた。
「本日は、お誕生日まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
恐る恐る顔をあげると、亮介は尻もちをついたように床に後ろ手をついて口をぽかんとあけていた。
「ごめん、やっぱりイマイチだった?」
「いっ、いや……浴衣にあってるよ」
未央は、明るめの藍色に、アサガオの柄の浴衣をきた。去年花火大会に行く用に買ったもので、つくり帯もついていて、初心者でも簡単に着付けできるタイプのもの。今年は一度も着ていなかったから、いい機会だった。
「姫さまキャラでお祝いしようと思ったんだけど……」
「あっ、あぁ……そういうことね」
亮介は驚きながら、残っていたチューハイをいっきに飲み干した。
しゃなりしゃなりと、ちゃぶ台に近づき、亮介にお酌をする。
「殿、夜はまだ長うございます。たくさんお酒、めしあがってくださいませ」
わざとらしく、目くばせ。亮介とキャラ変であそぶようになり、ずいぶん演技力もついた……ような気がする。
夕方のあまった時間で、駅前の本屋に走り、歴史ものの恋愛小説を買ってきて会話の言い回しを頭に叩きこんだ。亮介が喜んでくれればいいんだけど……。未央が顔を上げると、亮介は顔を真っ赤にして口をぱくぱくしていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!