テラーノベル
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萩原なちち
「自分とは正反対のだいきさんの事、りゅうせいくんに話を聞くたびに、見かけるたびに、誰かの噂をきくたびに、お友達になってからもどんどん好きになって行く。……これからも僕のそばにいて、僕のヒーローでいてくれませんか?」
しゅうとの真っ直ぐな瞳が、俺の心の防壁を易々と打ち破る。
「……それ、俺がただ性格悪いだけだと思うんだけど。……本当に、俺でいいの?」
「だいきさんがいいんです。……それ、僕のために買ってくれたんですか?」
「うん。ちょっと人混みに揉まれてシワ寄っちゃったんだけど……はい」
すると、背後からお節介な外野たちの声が飛んできた。
「だいきー、カード読んでー!」
「直接言わないと伝わりませんよー」
「だいきくぅん、時間ないよぉ」
「うっせぇ! 言うから黙ってろ! ……えー、しゅうとくん」
「はい!」
「……俺はこの歳になって、生まれて初めて誰かを本気で手に入れたいと思いました。隣にいるのが相応しいのは俺じゃないかもしれない……そう何度も考えました。だけど、今この瞬間を逃したら二度とチャンスはない。だから、伝えます。あなたのことが、す——」
「あ、もう仕事始まるんで、続きは今度でいいですか?」
「うおぉい!! あと一言だろ!!」
突然すんっとした顔でしゅうとからの非情なカット。まぁ俺も人前だから面白おかしく終わらそうとは思ってたからな。それに絶対しゅうともキマった!!って思ったろ。
「……マジで長い、ダルい」
「先行ってるよ、チョコ渡したらすぐ戻ってこいよ」
「俺、いつきくんといっちゃんにもチョコ持ってきてるよ」
「うわ、最高じゃん、りゅうせいありがとー」
「だいきくんの分はないよ。いじわるなんだもん」
楽しそうに去っていく3人の背中を見送る。……ったく、これだから男ってのは面白くて大好きだよ。
「……ん、さっきのは冗談で本当はこれ。ちゃんと気持ち込めて書いたから。後で見て?」
「はい! ありがとうございます!」
ニコニコと、世界一可愛い笑顔で紙袋を受け取る俺の天使。
……その時だった。
「…………え?」
「ん? どうしたんですか?」
何気なく視界に入った、しゅうとの名札。
【宮川 秀人】
宮川。宮川……え、宮川って、うちの社長と同じ苗字じゃねーか!!!
待て待て待て、しゅうとって、もしかして社長の息子……!?
社長室にしょっちゅう呼ばれるのも、奥さんに女装させられたのも、ミレイちゃんと親しげなのも……全部「親族」だからか!
じゃあ、いつきくんが言ってた「後継ぎを断った」っていうのも——。
……ただの平社員の俺が、社長の息子を『手に入れたい』とか言ったのか!? 背負うもんでかすぎんだろ!!
「だいきくん、今日ずっと浮かない顔してますよね? 何かありましたぁ?」
「もしかして、まだしゅうとにチョコもらえてないとか?そりゃ悲しいっすよねぇ」
いっちゃんの茶化しに、俺は力なく首を振った。
「……いや、ちゃんと入ってたよ。引き出しの中に。学生時代に戻ったみたいで、心臓止まるかと思った」
そう、めちゃくちゃドキドキしたし、嬉しかった。カードも入っていたけれど、緊張しすぎてまだ中身は見れていない。
「うわ、やるじゃんしゅうと。恋愛拗らせてるだいきくんにはピッタリのやり方だ」
今日は朝からいつきくんを除く3人で隣町の会社へ営業。会社に戻る頃には、しゅうとはもう退社しているだろうか。朝、名札を見て変なリアクションをしちゃったし、どんな顔して会えばいいかわからない。
「……あのさ。しゅうとの苗字、『宮川』なの知ってた?」
俺の問いに、車内の空気が一瞬止まった。
「……とうとう気づいちゃった感じですか? だいきくん」
「俺、初っ端から『名札確認しに行け』って言ってましたよね?」
「え、そんなこと言ってたっけ……」
「ほんっと、アホですよね、だいきくんって」
「うるせぇわ」
しゅうとからのLINEで下の名前を知って、それで全部わかった気になっていた。俺、あいつのこと、何にも知らないじゃないか。それでよく「手に入れたい」なんて豪語できたな……。
「しゅうちゃんが『自然にバレるまで内緒にして』って言ってたから黙ってましたけど、車の中で社長の奥さんの話をした時、俺、余計な事言っちゃわないか心臓バクバクでしたよ」
「マジかよ、全然気づかなかった……」
「しゅうとなりに気にしてるんっすよ。それが足枷になってる気がして」
「そんなことないよ。正直ビビったけど……」
社長の息子に手を出したなんてバレたら、この世から抹殺されるかもしれない。蹴ったとはいえ、大事な跡取りだ。親なら普通、真っ当に結婚してほしいと願うはずだろ。
「まぁ、ミレイちゃんがいますからね。俺、ミレイちゃんからチョコもらったし、アピールしてみようかな。そのまま婿養子で次期社長……最高の流れじゃん!」
いっちゃんの軽口に、りゅうせいが思い出したように口を開く。
「あの、お花柄の包装紙のやつでしょ?他の義理チョコとは格が違うやつ。俺の机にも、いっちゃんと同じくらいの大きさのチョコが置いてあったよ」
「……は? だいきくんのは?」
「あ、小さいけど、お花のやつあった! 包装紙綺麗だなぁって思ってたんだよね。」
「だいきくんのが小さかったのはしゅうちゃんに配慮したからなのかな?」
「多分2人で置きにきてるし、多分そうだよな。で、いつきくんのは?」
りゅうせいの声のトーンが、一段下がった。
バックミラー越しに見える彼の顔が、わずかに歪んでいる。……待て、下唇噛んでないか!?
「俺らのより明らかに大きい、本命丸出しのお花柄のチョコが置いてあった!!」
「うわ、めっちゃ『社長の器』がある人選んでんじゃん! ミレイちゃん、男の趣味いい!」
「マジかよ……。ミレイちゃん、知らないの?りゅうせいといつきくんのこと」
「しゅうとが言ってなかったら、知らないっすね……」
車内に、営業の疲れとは違う、別の重苦しい、プレッシャーが漂い始める。
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