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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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勉強会を翌日に控えた土曜日の午後、拓馬は自転車で盛田市駅に向かっている。駅の改札で明菜を待っている彩に会う為だ。
今日、拓馬は明菜に頼んで、彩と二人っきりで話せる状況を作ろうとしていた。彩と買い物の約束をした明菜がわざと遅刻して、その間に偶然居合わせた拓馬と時間つぶしをすると言う作戦だ。
盛田市駅は盛田北高や宿川工業高校の最寄り駅で、周辺は市内一の繁華街になっている。駅には北口と南口があり、学校は北口側、賑わっているのは南口側の方だ。南口には大型の商業施設を中心にした各種娯楽施設が密集しており、賑わいは圧倒的にこちらの方が多い。一方北口には高校と市民病院以外に目立つ物もなく、古い商店街があるだけだ。
これだけ格差が付いた理由は、駅の南北で行き来がしにくい為だ。
盛田市駅は私鉄の本線の他に、二つの支線の始発駅となっている。線路が高架ではない為に、南北の往来は駅の横にある踏切がメインだが問題がある。この踏切は電車の発着数が多い関係で、いわゆる「開かずの踏切」になる時間帯が多々あるのだ。他には連絡橋が駅の上に跨っているが、欠陥設計と思えるぐらい無駄に大きく階段が長い。しかも自転車は通行禁止でスロープさえ無い有り様だった。
よって南口の人の足が北口に流れる事が無く、現状の繁栄格差につながっている。
ただ、高校生達は知っている。場所的な不利をカバーすべく、北側の商店街は安くて良い物が有る事を。だから利用するのは北口側が多く、明菜と彩もそちらの改札口で待ち合わせていた。
拓馬は駅に着くと、駐輪場に自転車を止めて北口の改札に向かった。彩達は午後一時に待ち合わせているが、明菜が寝坊で一時間遅れる手筈になっている。
拓馬が改札に着くとすでに彩が待っていた。彩はデニムのショートパンツにインナーは白いTシャツ、上に赤系のチェック柄シャツを羽織り、袖をロールアップしている。拓馬が知っている彩より若く可愛らしい服装だった。
――ちょうど約束の時間だ。
拓馬は彩に近付いて行く。
「あ、彩。どうしたの? 誰かと待ち合わせ?」
「あ、拓馬君」
拓馬は偶然を装い、彩に声を掛ける。と、その時、打ち合わせ通り、明菜から彩に電話が入る。
「あ、明菜……ええっ、そんな……酷いよ、もう……」
「どうしたの? 明菜と何かあったのか?」
明菜と話をして、怒った様子の彩に拓馬が声を掛ける。
「明菜と約束していたんだけど、寝坊して遅れるって」
彩は電話を繋いだまま、拓馬に事情を話す。
「あ、明菜なら俺に代わってくれる?」
拓馬はそう言って、彩から携帯を受け取り、明菜と会話する。
「もしもし、俺、拓馬だけど」
(どう? 約束通り、彩を連れ出したわよ。怒っているから、私が悪者にならないようにちゃんとフォローしてよ)
「ああ、そうなのか。……うん、わかったよ、任せて。……慌てて事故に遭わないように、気を付けてね」
拓馬は電話を切って、携帯を彩に返す。
「明菜は、彩を一人で待たせるのは悪いから、俺に時間つぶしの相手をしてくれって」
「ええっ、そんな。拓馬君に悪いよ。何か用事があったんでしょ?」
「いや、大した用事でもないよ。明菜が寝坊したのも、昨日夜遅くまで俺とメールしていたのが原因なんだ。責任は俺にもあるから、お詫びさせてよ」
「えっ、そうなんだ……ふーん、仲が良いんだ。それなら、時間つぶしに付き合って貰おうかな」
少し怒り気味だった彩の表情が途端に緩む。二人が深夜までメールをしていたと聞いて嬉しかったのだ。
「Mバーガーにでも行こうか。コーヒーでも奢るよ」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えます」
こうして、拓馬の作戦は上手く行き、彩と二人でお茶する事になった。