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「じゃあ、とりあえずどっか入るか。


これ以上この雨の中立ち話はしてられねーし」



そう言って駅ビルが並ぶほうへ歩き出すと、原田も笑って後についてきた。



「すげー雨だけど、清水と飲みに行けるなら結構ラッキーだったな」



「そうか? 俺は微妙だよ」



「おい、さっきからひでーな!」



笑う原田に俺はすこしだけ笑い返す。




本当に微妙だ。



原田は気のいいやつだし、嫌いじゃない。



いいやつだってちゃんと知っているけど……でも若菜が間に挟まると、なんとも言えない気持ちになるのも本当だ。





雨脚がどんどん強くなり、俺たちのビニール傘が雨をはじいてバチバチと音をたてる。



「……なぁ、話って若菜のこと?」



前を向いたまま呟いたのは、知りたいような知りたくないような、そんな心の表われだった。



「え? なんて?」



案の定、原田は聞こえなかったようで、俺は「なんでもねーよ」とかぶりを振った。



心の声が口から零れてしまったけど、急いで知りたいわけじゃない。



原田が若菜をどう思っているのか、あと一時間もすれば知ることになるだろうから。






入ったのは駅ビルにあるチェーン店タイプの居酒屋だった。



ぬれた傘をたたみ、二人用の小さなテーブルに座ると、原田がメニューを広げた。



「お前なに飲む?俺はハイボールにするわ」



「あ、じゃあ俺も。


ってか、考えたらお前とこうしてふたりでメシ食うって、初めてかもな」



「あぁ、そうかもなー!


中学の時だって、出かけるったって、卒業式の後、みんなでカラオケにいったくらいだしな」



原田と昔話をしつつ、俺たちは頼んだハイボールで乾杯した。



思えばこいつとまともに話すのは15年ぶりくらいなのに、原田はそのブランクをまったく感じさせない。



中学のころの話をいろいろ覚えていて、明るく楽しく話してくれて。



ただのバカだと思っていたけど、こいつとふたりで話をして、「あぁ」としみじみ思った。



若菜が原田をうちの店に連れてきた時、あいつがとても楽しそうだった理由が、話しているとよくわかる。



それから昔話をいろいろして、俺たちはアルコールもたくさん頼んだ。



原田につられていつもより飲むペースがはやくなったのは、この雰囲気が楽しいからと、もうひとつ。



できればなるべく、原田が「本題」に入る前に酔ってしまいたかった。





俺が5杯目のジョッキをあけるころ、原田は6杯目のジョッキをあけて、「清水」とあらたまって俺を見る。



「あのさ、お前に話があるんだけど」



「あー、そうだったな。なに?」



いいぐらいに酔っぱらえていた俺は、こちらを見る原田を見ずに、テーブルのうえに視線を泳がせた。



「清水って、彼女いる?」



「……はっ? なに急に」



「いや、お前彼女いるのかなって……」



「いねーよ!

なんだよ、急に。びっくりさせんなよ」



若菜のことでなにか言われるんだと思っていた俺は、ジョッキをつかみかけた手を滑らせそうになった。



視線をあげ、前を見れば、人懐っこい顔が俺に向いていた。



「じゃあ多田さんは?」



「え?」



「多田さんも彼氏いないみたいだけど、

清水は「いいな」とか……そういうふうに思ってる?」







アルコールで真っ赤になった、明るい笑顔。



でも俺にはどれだけ明るく笑って隠しても、その奥にある原田の不安に気づいてしまった。



(あー、やっぱな)



思っていた角度からじゃなかったけど、でもきっと俺が予想していた方向に話がいくんだろう。



「……なにそれ。


今さら若菜を「いいな」なんて思うわけねーだろ」



俺はあきれた目で原田を見た。



「いいな」なんて思わない。



そういうことをだれかに思うのは、まだ相手をよく知らないうちだ。



「そ、そっか」



「だいたい原田も、なんであいつのこと同い年なのに「さん」づけなんだよ。

ほかの女子には呼び捨てしてただろーが」



「いや……だってさ。


多田さんはなんていうか……男子のあこがれだったし、「みんなの憧れの多田さん!」みたいな……」



「その「みんなの多田さん」に告白しようとしてたヤツはだれだよ」



自分で言って、はあっとため息がでた。




あーあ。



この流れだと仕方がないとはいえ、自分の足で地雷を踏んでしまった。






わざとらしく二度ため息をつけば、原田は「あ」といったふうに苦笑いをした。



「そうだった。そういや中学の時も、俺、清水に相談したっけな」



「そーだよ。


「多田さんに告ろうと思うんだけど、どう思う?」って」



「それで、その時お前に「いえば?」って言われたんだったな」



原田はだんだんその時のことを思い出したみたいで、照れた笑いを浮かべた。



「……話ってのは、そのこと。


中学の時は、高校バラバラになるってわかってたし、結局言えなかったよ。

でもこないだ再会して、昔の恋心に火がついたっていうか……」



「また若菜のことが好きになった、ってことか」



俺は言って、原田を見つめた。



恥ずかしそうに照れた原田を見ていると、昔の記憶がよみがえってくる。





“だ、だれにも言うなよ!


俺、多田さんが好きなんだ”




“なー、清水。


多田さんに告ったら脈あると思う? なーどう思う?”





中3の秋の終わり、たまたま帰りが一緒になった駅近くの路地で。



あの時真っ赤な顔で俺に話したこいつと、目の前の原田はやっぱり似ている。



でも……その時の俺と、今の俺じゃぜんぜん違う。



若菜との約束が迫っている今とじゃ、心にあるもやの大きさが、ぜんぜん違っていた。





俺は飲みかけていたジョッキに口をつけ、ウーロンハイを喉に流しこんだ。



なんていうか……言葉がみつからない。



予想していたとおりの流れなのに、それでも俺は心のはしっこで、原田が若菜を好きじゃないことを期待をしていたらしかった。



「それで……どーすんの?」



原田と目を合わせていられなくて、メニューを見ながら聞く。



「どーすんのって……。だから相談したんだよ。

どーしようかなって思って」



「……おい。お前なぁー」



「って冗談だよ!


こないだ多田さん彼氏いないって言ってたし、頑張ってみようかなって思ってる」



「へー……」



生返事をして、俺は焼酎のロックを頼んだ。



このぶんだともうすこし酔わないと、ここに座っているのはキツそうだ。



「でもさ、なんでそれ俺に言うんだよ。お前の話ってそれなんだろ?」



知らないところで原田が若菜に接近していたらモヤモヤするくせに、こうやって報告されてもモヤモヤするなんて、俺はたいがい自分勝手なやつらしい。



やつあたりに近い俺の発言に、人のいい原田は「いや……」と照れ笑いで言う。



「だって清水にはいっときたいじゃん」



「なんでだよ」



「もしお前とライバルになったりしたら、俺負けるもん。


お前と争ったら絶対勝ち目ないし、清水の気持ち聞いときたくて」














30歳になっても、ひとりなら。

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