僕の横で頬を赤くしたままちいさく丸くなって眠っている恋人。髪をちょっと弄って遊んでみても、ぴくりとも動かない。もしかしてアルコール中毒で死んじゃった……?なんて思ったけれど、聞こえてくる気持ちよさそうな寝息は、その可能性を否定してくれた。
僕を無視して、皆にかわいい寝顔を晒さないでよ、ひば。
酔った時のひばはすっごく面倒くさい。って僕が思っているのを自覚している癖に、僕が飲んでいるのを見ていると気になるのか、調子のって酒に口をつけ出すからさらに面倒くさい。
普段は僕に対して驚く程塩対応をとるくせに、酔った途端に甘えたになるのだ。抱き着いてきて、かなと、かなとって。舌っ足らずに僕の名前を呼んで、キスを強請る。お酒に酔ってふにゃふにゃになった顔のひばは死ぬほどかわいいけれど、絶対に他人に見せたくない。ふにゃふにゃのひばも見せたくないし、今のところあの甘えたひばは誰かに発動されることはなかったけど、仮に僕限定だとしても付き合ってることが知られるのは困るから、本当にやめてほしい。
ひばの目がすわり始めたのを確認して、適当に言い訳して隣に座らせた。身体がふらふらしてて、身体を僕に摺り寄せる。ああ、やばい、出た。どうしよう、このまま強制送還しようかと考えていたところで、ひばが甘えてくるより先に眠りについた。
そろそろ飲み会も終了間近、という雰囲気が漂い始めているが、ひばは一向に起きようとしない。さてどうするか。
「雲雀ぃ、起きな?みんな帰るんだって」
「ん……んー……」
少し強めに身体を揺らしてみると、漸くへんなうめき声を出す。眉間に皺が寄った。
だめか、もう
「…雲雀のこと、僕が連れて帰るから二人ともスタッフさんに頼んだ」
適当に同期と解散して、タクシーに乗り込んで、行先を告げる。もちろん、僕達の家。運転手に、『1か所でいいんですか?』って変な気を遣われたんですけど。いいからそういうの。はやくうちに帰せよ。
「ん……ここどこ……」
「ん、もうちょいでうちにつくからね」
タクシーがマンションのエントランスに到着するすこし手前で、ようやくひばが目を覚ました。
とろん、とした瞳。瞼は半分しか開いておらず。ちゃんと視覚から入る情報を理解できているのかは判別しがたいけれど、ゆるゆると首を動かしながら周りを見つめている。めちゃくちゃかわいいんですけど。通常なら絶対に見られないひばを僕は今いちばん近くで見つめている。
そうこうしているうちに早いことにもう着いた。料金を払って、まだ半分眠っているひばの身体を支えながら、タクシーをあとにする
「かなと…かなと、」
ふだんなら絶対に聞かれないような猫なで声。これが家の中でならかわいいだけだけど、ここはまだマンションのエレベーターの中で。いつ誰と遭遇するかわからない状況でそんなふうにされると、心臓に悪い。
「ほらひば、がんばって歩いて?」
「ん……やらぁ…」
「舌回ってないから……やだじゃないの、ほら、しゃんとせい」
「かなとが……ちゅー…してくれたら…」
ちょっと。今の何。ひばからキスをねだるとか奇跡に近いんですけど。セックス中の完全に理性がくずれているときにしかおねだりしてくれないのに、こんなところで。完全に酔っているから理性も何もないのか。
特別ね、と、防犯カメラの影になるようにしてひばを抱き寄せ、少し熱い唇にキスをした。ぴく、と小さく跳ねる身体がかわいい
「かなと、もっとぉ…」
そんな声でねだるなよ。下半身に来ちゃうじゃんか。これから向かうのは家だし、明日も予定はないから、しようとおもえばできるけど、いくら恋人と言えど、酔っ払いを抱く趣味はない。それでもかわいらしくねだる恋人は希少価値が高くて、ついつい許してしまう自分が憎い。無駄に高層階に住んでいるに加えてのろのろとあがるエレベーターが自分たちの住むフロアにつくまでもう少し時間がある。キスをしたり、火照る顔を触ったり、腰を撫でたり。そのたびに反応して、きゅ、と目をつむるひばはめちゃくちゃかわいかった。絶対防犯カメラなんかにうつしてやるもんか。
のんびりなエレベーターがようやく到着した、ひばの手を引きながら降りて、部屋に向かう。鍵を開けて、先にひばを放り込んで、自分も入って、再び鍵をしめる。
「なぁ…乱暴すんなよぉ……」
「してないから。はやくお風呂はいろ、そんで、寝よ」
電気もつけず、脱衣所に直行した。いつもは湯船に湯がたまるのを待つのだけれど、夜も遅いし、シャワーでいいか。風呂に入るといっているのに一向に服を脱ごうとしないひばのシャツのボタンをひとつずつ開けていく。いつもと立場が完全に逆だ
されるがままになりながら、どこか不満げな表情を見せるひばを無視して、全部脱がせ、自分も服を脱いだ。
「あ……えっち、する……しよ?」
「しません。ひば、ふにゃふにゃじゃん。できるとおもってんの?僕に支えられなきゃちゃんと立つのもできないくせに」
やる気満々だったかこの酔っ払い…そういうことはもっと素面な時に言ってほしい。ひばって、本当は僕とするセックスがだいすきなのに、素直になれない性格が邪魔をするのか、理性がこわれるぎりぎりまで嫌がる。だからなんだか無理やりしているようで、嫌だ。理性が無くなった時がまじかわいいから、毎回我慢するけど
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!