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にゅうひん☆
7,086
飲み会の終わり、彼らは全員ふわふわした良い気分で店を出た。
「タクシー来てるよ」
深澤が促す。家が近い者同士が乗り合わせられるよう、メンバーを振り分けた。
「…照と阿部ちゃんは、一緒に帰んな」
ピッタリと岩本に寄り添っている阿部を見て、深澤は苦笑して言う。
「照、送り狼か」
渡辺が冷やかす。岩本は黙って肩をすくめた。その仕草に渡辺は、ニヤリと笑ってタクシーに乗り込んだ。
「じゃーねー、あべちゃーん」
佐久間も上機嫌のまま、手を振って別れる。
他のメンバーも三々五々、タクシーに乗り込み帰っていった。
「ほら、俺らも帰るよ」
岩本は阿部に声をかけて、残ったタクシーに乗り込む。行き先を告げて、タクシーが発車すると、彼はシートに身を預け一息ついた。
そしてふと気付く。
阿部が、何かぶつぶつ言っていることに。
「阿部?」
目を閉じ、俯いている阿部に耳を寄せる。
「…69399375105820974…」
阿部は数字を唱えていた。 これはアレだ、と岩本は思い当たる。
きっと円周率だ。
阿部が円周率を暗唱している。と言うことは、正気を取り戻した、ということだ。
そして今、彼は動揺しているのだ。
「阿部、大丈夫?」
尋ねると阿部の呪文が止まった。ゆっくりと目を開けて、岩本を見る。
「ひかる…」
搾り出すような声で彼は聞いた。
「俺、みんなにとんでもないこと、言ってなかった?」
岩本は、聞かれて黙った。その沈黙は、肯定の返事でもあった。
「言ったよねぇ…」
処刑を待つ罪人のように首を垂れ、阿部は声を吐き出す。
「…俺の好きなとこ、いっぱい言ってくれた」
「うん…、言ったね」
「あと、セックスしてる時に名前で呼ばれるとか」
「………」
「終わった後、後ろからぎゅってして寝るとか」
「………っぐ」
「俺がヤキモチ妬いた時は、強引でイジワルだとか」
「うわあぁ、やめてえぇぇ!」
阿部は耐えられなくなって、耳を押さえて吠えた。
「やめてって、全部、阿部が言ったんだよ」
「俺!!何暴露してんの!!」
数時間前の自分が憎い。
「ひかるも何で止めてくれないの!?」
「俺、1番離れた席にいたし」
岩本は仕方ないだろ、というふうに言った。
「次会う時、どんな顔して会えばいいんだ…」
膝に額が付くくらい身体を丸め、阿部は低く呟く。
岩本は何とかなだめようと、考えを巡らせる。そして、
「…まあ、その、みんな、喜んでたよ」
そう言った。
「慰めるの下手か!」
赤面した阿部は勢いよく身体を起こし、岩本の肩を叩いた。
そんな時、阿部のスマホが短く震えた。
ラウールからのLINEだった。
『今日は岩本くん、強引でイジワルかもだけど、ガンバレ』
『仲良くぎゅってして寝てねー、オヤスミ♪』
岩本は横からスマホを覗き込んで吹き出す。
「ラウール、あいつ……っ!」
最年少からのからかいに、阿部は赤面しながら顔を引き攣らせた。明らかにラウールは、今の阿部を面白がって、LINEを送ってきたに違いない。
「早速、いじられてる」
笑いながら岩本は言う。阿部はスマホを力任せにカバンに押し込んだ。
「…俺は、お詫びしてもらわないとなあ」
悔しそうな阿部に、岩本がニヤリと笑った。
「お詫び?」
「俺、暴露の被害者よ?」
居酒屋では、惚気と暴露のせいで、散々いじられたのだ。ある意味、彼は被害者だった。
「う…ごめん」
阿部は小さく謝る。
岩本は阿部の肩を抱き、顔を寄せた。
「足りない」
その言葉に、彼が何を言いたいかを察した阿部は、ハッと岩本を見た。いたずらっぽい笑みを浮かべた瞳と目が合う。
「俺の好きなとこ、発表しながらしようか」
「えっ!?」
予想外の提案に、阿部の声が裏返る。
恋人の可愛い反応に、岩本は楽しそうに笑った。
コメント
4件
冷静に戻った時の阿部ちゃんかわいい、ラウは、いい性格してるね。 いちゃラブ待ってます。
ラブラブイチャイチャの予感…!!!楽しみ!!💛💚