テラーノベル
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岩本は窓辺に立ち、空を見上げていた。つい10分ほど前から降り出した雨。いわゆるゲリラ豪雨。さっきまでの快晴が嘘みたいに、空は暗く沈み、雷鳴が鳴り響き、視界が白くなる程の風雨が吹き荒れている。
“寄ってもいい?”
阿部からの30分前に届いたLINEが頭をよぎる。今どの辺りにいるのか、無事に辿り着けるのか。岩本はそればかりが気掛かりだった。
風向きが変わり、雨が暴力的な勢いで窓を打ち付ける。稲光がして、一瞬遅れて空気を震わせる爆音が響いた。
迎えに行こうか。いや、行けるだろうか。
逡巡して彼は、リビングと玄関を何度も往復する。落ち着かない。足が勝手に動いてしまう。
そんな時、インターフォンが鳴って、ガチャリと鍵が開く音がした。阿部が合鍵を使って入って来たのだ。
「…ひかるぅ〜…」
玄関から阿部が呼んだ。岩本はバスタオルを手に、玄関に向かう。そこには全身から水を滴らせた阿部がいた。
「ずぶ濡れじゃん」
「最悪だよ」
阿部はタオルを受け取ると、代わりに懐から出した文庫本を岩本に押し付ける。文庫本はしっとり濡れていた。
「買ったばっかりだったのに」
髪と顔をタオルで拭きながら、阿部は低く呟く。
「全然、雨宿り出来そうなトコがなくてさ…」
「早く脱いで、シャワー浴びな。冷えるから」
岩本が促すと、阿部はバスルームへ項垂れたまま向かった。
岩本はキッチンに向かい、湯を沸かし、床に落ちた水滴を拭いて、阿部の着替えを探した。いつも着ている部屋着はあるが、ショートパンツに半袖で寒くないかと思案する。
そこでもう一組、自分のスウェットの上下も用意した。
「長袖もあるから、好きな方着て」
浴室の外から声をかけると、シャワーの音に混じって、ありがとー、と阿部の声がした。
脱衣所を出ると湯が沸いていた。何を淹れるか考えて、生姜紅茶を淹れることにする。
紅茶がちょうど良い濃さになる頃、阿部がバスルームから出て来た。
岩本のスウェットを着て。
「ひかる、服ありがとうね」
阿部は、岩本から差し出されたカップを受け取り、微笑んだ。
「…何でお前が着ると、袖そんなに余るの?」
背丈はそう変わらないはずなのに、肩幅や胸板の違いなのか、丈感が自分が着る時と何となく違う。
「ひかるの方が、腕長いんじゃない?あとは、体の厚みとかの違い?」
確かに、全体的に布が余っていて、どこか守ってあげたくなるような印象を受ける。
いわゆる彼シャツほどの、服に着られてる感はないが、ダボついたシルエットは可愛らしかった。
雨はまだ激しく降り続いている。
阿部はカップから立ち昇る、紅茶の香りに目を細めた。
ソファに深く腰かける。両手でカップを包むように持って、口に含んだ。
「はあ…あったかい…。ホント、寒かったから生き返る」
阿部がほっとしたように呟く。雨に濡れて冷え、白くなっていた頬に、血色が戻って来た。岩本は隣に座り、阿部を見る。
細い首が覗く襟ぐりは、自分が着ている時より大きく開いていて、無防備な印象を受ける。
大きめの服に隠された細い肩が、妙に愛おしく思えた。手を伸ばし、ひんやりした頬にそっと触れる。
「あっためようか」
低く囁いた。
「ん?」
阿部がきょとんとして見てくる。
「…ベッド行く?」
目を見て言うと、阿部は赤面して目を逸らした。
「な、長袖着せといて、脱がせること考えてんの?」
ちょっと口を尖らせ言う。
「着たままでもいいよ」
岩本はそう言って少し笑った。いや、そうじゃなくて、と阿部は呟く。
「運動したらあったまるし」
「セックスを運動のカテゴリに入れるな」
岩本の言い分に、ぴしゃりと言う阿部の指を、岩本は緩く握った。
「…身体の中から温まれるんじゃない」
まだ少し冷たい指先を摩りながら、言う。
「いや…でも、まだ、昼だし」
「うん、だから時間たっぷりあるよ。朝まででも。今日はもう、どこにも行かなくていい」
しどろもどろな阿部の耳元で甘く囁くと、その耳がジワリと赤くなった。
「…俺もシャワー浴びてくる」
岩本は言って席を立つ。
「何したいか、考えて待ってて」
そしてそう言い残すと、バスルームへと去って行った。
リビングに取り残された阿部は、赤面したまま残りの紅茶を飲み干した。
(何したいか?何?え、何する?俺、ひかると何したらいい?)
甘い囁きに思考をやられた阿部は、席を立ちオロオロした。
(寝室行く?いや、でも、なんか期待してる感出る?)
寝室の入り口まで行って、戻って、またソファに座ってを繰り返す。
(…いや、まあ、期待は…してるけど、)
ふと動きが止まる。
あれやこれやが、脳内によぎる。が、すぐに我に返った。
(………じゃなくて!)
頭の中に沸いた、甘く過激な妄想を慌てて打ち消す。とりあえず、大きく深呼吸した。
そんなことをやってる間に、岩本がバスルームから戻ってきた。
濡れた髪をタオルで拭きながら出て来た彼は、上半身はまだ何も着ておらず、引き締まった胸板とシックスパックの腹筋が露わになっていて、阿部は思わず息を呑んだ。
彼は、阿部がまだリビングで突っ立っているのを見て、 苦笑した。
「まだ決まらないなら、ここでする?俺は構わないけど」
2人の視線が絡み合う。一瞬の沈黙。阿部が決断しあぐねているのに気づいた岩本は、ふっと笑った。
大股で歩み寄り、少し強引に阿部の細い腰を抱き寄せる。
鼻を突き合わせて、そっと顎に手をかけた。
そうしてそのまま口付ける。軽い啄むようなキスから、だんだんと長い深いキスへ移行した。
舌を複雑に絡め、熱を吸い上げ、歯列の裏をなぞっては上顎を優しく愛撫する。
圧倒的な支配感と甘美な刺激に、胸に添えられた阿部の手から、だんだんと力が抜けていくのが分かった。
長いキスの応酬のあと唇を解放すると、阿部は熱い吐息をこぼし、潤んだ瞳で岩本を頼りなく見上げた。
「…ベッド、行く…」
そして小さく呟く。
「ん。行こ」
岩本は、恥ずかしそうに目を伏せる阿部の額に額をつけて、淡く微笑んで返した。それから軽々と彼を抱き上げる。
「何したいか決まったの?」
尋ねると阿部は、岩本の首にぎゅっとしがみついた。スウェットの布越しに、阿部の体温がじわじわと上がっていくのが分かった。
「…ひかるの好きにしてよ…」
阿部が耳元で囁く。
甘い許しを得て、岩本の目に熱がこもった。
「大丈夫。風邪、ひかせないから」
岩本がそう囁くと、阿部は照れたように笑って、その胸元へ頬を寄せた。
「うん」
窓の外では雷鳴が響いていたが、その音さえ遠く感じるほど、二人の距離は近かった。
互いの鼓動を感じながら、仄暗い寝室へ入る。
岩本は阿部をベッドに降ろすと、その隣に身を横たえた。
熱に浮かされたような視線が絡み合う。
岩本がそっと髪を撫でると、 誘われるように阿部は岩本の顔に手を伸ばした。岩本はその手を握り、ベッドに組み伏せると、互いの境界が曖昧になるような激しい口付けを求めた。
雨音が二人を包み込み、そこに言葉はもう必要なかった。世界から切り離されたような、互いの鼓動と吐息しか聞こえない世界に、彼らはいた。
荒れ狂う雨とは対照的に、部屋の中には穏やかで温かな時間だけが静かに流れていくのだった。
にゅうひん☆
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コメント
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一話から一気読みさせていただきました。最高です、筆の力が凄すぎます…!陰ながら応援させてください、応援しています🙇♀️

更新ありがとうございます!楽しみに待っていましたー!そして‥安定の💛💚の可愛さにやられております!いつまでも読んでいたいですー!
きゃーーー!!イチャイチャ最高😇💛💚