~帰宅~
少し脱ぎづらくなった靴を頑張って脱いで、ジブンはリビングの方へと向かった。
にしても発症が手からって…困りすぎる。
まともに手も握れないし、何なら利き手だからいろんなことをやるのが難しくなる。
「あーあ、どうしたことか…。」
「千咒?」
その声に驚いて、ジブンはそのまま叫んで尻もちをついた。
しかし、そこにいたのは幽霊でもなく、ハル兄だった。
「な、なーんだ驚かさないでよ…。」
ジブンは頑張って強張った笑みを浮かべながらそう言う。
「こっちのセリフだバカ。」
ハル兄はそう言って苛立ちを抑えるかのようにチーズケーキを少し口に運んだ。
ジブンで、ジブンの手を触る。
このことを言うか言わないか、さっきまで心に決めていたことなのに、急に恐怖が襲ってくる。
もしも、そのせいでハル兄と決別してしまったら、どうしよう。
完全に、ひとりぼっちになる。
そんなことを思うと、不安で胸が膨らんだ。
気づいてくれないか、できればそっちから話してくれないか、ジブンはそう思いながら一人ドアの前に立っていた。
「結局言えずじまい、か…。」
あの後、ずっとドアの前にいたら、ハル兄が「出てけ」と目で言っていたので大人しく出て行った。
静かなジブンの部屋。
少しずつジブンの体から生命が誕生しているのが分かった。
…どうせ死ぬんだし。
その考えが過った瞬間、何もかもがどうでもよくなった気がした。
でも、まだやりたいことやれてないし、それをやるにはハル兄が一緒にいないとできなくて…。
そうやって堂々巡りを脳内で続けていて何分か経った頃、いきなり部屋のドアが開いた。
ハル兄と目が合う。
ジブンは反射的に両手を隠した。
しかし、ハル兄はなんでもお見通しの様で、ジブンに薬の入った袋を投げ渡して言った。
「…早く治せよ。」
ジブンはハル兄の姿が見えなくなってからその袋を取る。
諦めかけていたけど、まだ、終わってない。
心の中が暖かくなった。
:春千夜視点:
~都内某所・関東卍會集会所~
…見るべきじゃないものを見た気がする。
千咒を起こそうとしたときに見えた、あいつの手から生えている根。
なんか触れない方がいい気がして、今日は起こさずここに来た。
「手から根が?」
集会や諸々の作業が終わり、俺は幹部…まあ、簡単に言えば友達的な奴らにそのことを話した。
「いやいや、見間違いだろ、そんな超常現象みたいな…。」
九井はそう言ってあまり相手にしてくれなかったが、灰谷兄弟は俺らにとあるモノを渡して言った。
「多分ガチだろうし?兄としてのナカーマだからってことで助けてやるよ」
「ちゃんと治してやれよ?」
…何でこいつらはこんなに優しいんだ。
あれか?媚売ってんのか?買わねえぞ?俺は。
だけど薬はあいつ貰わないだろうしありがたくいただいた。
マイキーは少しだけ俺の方を見て、「あいつによろしく」とだけ言って帰った。
…さすがマイキーだな、と俺は思った。
コメント
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表現の仕方神っすね✨