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「で、確認だが…今回はラリーを続けて、相手コートにボールを7回落とせば勝ち。もしも打ち返せずそのままキャッチしてしまった場合は相手チームに点が入る…ってことで間違いないな?」
「はい、尊さんと俺しかいませんからね、それで行きましょう!」
位置につくと
海風が少し強くなったのか
波がザァザァと大きく打ち寄せる音が聞こえる。
「じゃあ始めるぞ」
尊さんがボールを高く上げ
スマッシュのような勢いで俺に向かって打ってきた。
(うわっ早っ!)
咄嗟に腕で弾くが、なんとか勃さんの方に打ち返すことに成功した。
あと一歩遅ければ明後日の方向に飛んでいっていたことだろう。
しかしボールは高く上がってしまい、尊さんにとっては打ちやすいコース。
俺も負けじと体制を立て直し
尊さんがボールを打つタイミングに合わせて駆け出す。
それから数十分後──…
最初こそ動きにくさに苦戦したものの
高校時代にバレーをやっていたときの感覚が戻ってきたのか、慣れれるものだ。
ボールの重みや砂の感触が体に馴染んでくると
思った以上に楽しめるようになった。
「まだまだ行けそうだな?恋」
「もちろんですよ!」
息を切らしながらも笑顔で答える。
「なら次は本気で行くぞ」
その宣言通り、尊さんのサーブは
今までの比ではないくらい速くて鋭い。
(え!?さっきより強い……!?)
全力で打ち返したつもりなのに
ボールは俺の遥か頭上を通り過ぎてしまった。
「あっ……!?」
ボールが砂浜に落ちた瞬間、
尊さんがドヤ顔で腕を組む。
「尊さん早すぎますって!!」
尊さんの強烈なサーブに唖然としていた、そのとき──
「おーい!」
突然、少し遠くから聞き覚えのある声が飛んできた。
「ん……?」
声の方に目をやると、見知った人影が手を振ってこちらへ歩いてくる。
「あれ??……って……っえ?!高田……??!」
「よっ雪白!マジで久しぶりじゃん」
現れたのは大学時代からの親友、高田浩だった。
彼は短めの髪を軽く整えたラフな格好で、相変わらず屈託のない笑顔を見せている。
「高田!なんでこんなところにいるんだよ!?」
「なんでって…この海水浴場、うちのばあちゃんが経営してるからな」
「えっ、そうなの?!」
「そ。俺、大学卒業してからは働いてたんだけど、去年結婚してこっちに住むことになったからたまに手伝いがてら遊びに来てるってワケ」
「そっか……全然知らなかった」
「まあな。それで雪白見かけたからさ───」
そのやり取りを見ていた尊さんが軽く咳払いをして言った。
「恋、友達か?」
「あ、すみません!えっと……この人は大学時代の親友で…」
「ども!高田浩って言います!そちらは…?」
「…烏羽、烏羽尊だ。初めましてだな」
軽く挨拶を交わしたあと
「ところで雪白は何してたんだ?ビーチバレーか?」
「うん、今は尊さんと勝負中」
「人数足りなくね?」
「2人しかいないからさ、あはは…尊さん強いから結構押されてる感じ」
高田は興味津々といった表情で俺たちのコートを見て
「なら俺、雪白の方入ってやろっか?」
「え……いいの?」
「いーよいーよ!どうせ暇だし」
「尊さん、入れてもいいですか…?」
「ああ、別に構わないぞ」
「やった!」
思わぬ助っ人にテンションが上がる。
高田は運動神経抜群で、高校時代はバスケ部のエースだったと聞いたこともあって
バレー経験はないが素質はあるはずだ。
「よし!高田が居れば百人力だよ!」
「ふっ、任せとけって」
高田がくしゃりと笑いながら、楽しげな様子でコートに入る。
俺は高田と軽くハイタッチしながら、改めて気持ちを入れ直した。
「尊さん!今度は負けませんよ!」
「こっちのセリフだ」
再びコートに張り詰めた空気が流れる中
俺と高田は互いに目を合わせて頷く。
(よし……!ここからは2対1。絶対に負けられない)
高田の登場で俄然面白くなりそうな展開に
心の中で静かに、闘志が燃え上がるのを感じていた───
「ほら、ちゃんと取れよ?」
「ちょっ、無理ですよ!そんな高く投げたら……わっ!」
尊さんのサーブを受け損なって後ろに倒れそうになると
「っと……危ない」
瞬時に、高田に抱き留められた。
「サンキュ……!助かった」
「雪白危なっかしいな…気をつけろよ?」
「う、うん!」
途端に尊さんが寄ってきて
「悪い。恋、どこも怪我してないか…?」
「尊さんのせいじゃないですよ、大丈夫です!高田が受け止めてくれましたから」
「そうか…」
安堵したように見える尊さんと
なんか俺余計なお世話だった……?と微妙な空気になっている高田を見て
俺は疑問符を浮かべつつ試合を続けた。
◆◇◆◇
「……これで終わらせる」
尊さんのサーブが砂煙を巻き上げて一直線に俺たちのコートへと突き刺さる。
「届けぇっ!!」
パンッ!
ボールは高田の指先をかすめただけで
そのまま砂に埋もれた。
「…………あぁーっ!!」
「ふっ…ゲームセットだな」
尊さんが涼しい顔でネット越しに宣告する。
「そんな~……高田がいてもダメだったかぁ」
俺は膝から崩れ落ちて砂を掴んだ。
高田も「マジで烏羽さんプロ選手みてぇな動きするじゃん…何者?」
と肩を落とす。