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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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店内の灯りが落ちる。
まもなく閉店の気配。
チャンスはゆっくり立ち上がる。
椅子が小さく音を立てる。
コインをポケットに入れる。
そのまま出口へ向かう。
ドアに手をかける。
ガチャ
開けようとした瞬間――
くいっ。
ネクタイが引っかかる。
ドアの金具に。
チャンスが止まる。
「……」
ゆっくり振り返る。
店内。
誰もいない。
でも。
頭の中に浮かぶ。
にこにこした顔。
「チャンス」
「ん」
「ネクタイ」
ぐい
あの癖。
あの距離。
あの笑い方。
チャンスは小さく息を吐く。
ネクタイの引っ掛かっていた部分を外す。
そのまま外に出る。
夜の空気。
少し冷たい。
店の前。
街灯の下。
チャンスはポケットからコインを出す。
指に乗せる。
静かに言う。
「……コイントス」
少し間。
「迎えに行くか」
「夜食を食べるか」
コインを弾く。
カラン
空中で回る。
光を反射する。
チャンスの目が追う。
パシッ
手で受ける。
一度深呼吸して。
ゆっくり手を開く。
コイン。
裏。
⸻
―屋敷―
静かな廊下。
重い空気。
エリオットは自室にいる。
広い部屋。
豪華な家具。
でも。
どこか落ち着かない。
ソファに座っている。
手元には何もない。
ネクタイも。
コインも。
ケーキも。
エリオットは少しだけ目を閉じる。
ピザ屋の匂い。
オーブンの熱。
チャンスの顔。
ネクタイを引く感覚。
小さく息を吐く。
その時。
プルルル…
着信音。
エリオットが目を開ける。
少しだけ不思議そうな顔。
スマホを取る。
「はい」
数秒。
それから――
「……はい?」
電話の向こうの声。
「ピザのデリバリーを頼みたい」
エリオットの目が少しだけ見開く。
沈黙。
そして。
ゆっくり。
口元が緩む。
にこっと。
あの笑い方。
「どちらへ?」
電話の主が答える。
「ビルダー家の前だ」