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「……ミマームよ。
では、最恵国待遇を結んだウィンベル王国―――
および公都『ヤマト』での視察についてそなたの
口から語ってくれ」
ライシェ国王都・その王宮の奥で……
玉座に座る老人が、その前に跪く数名を前に
片手をかざす。
下で片膝をつく一人……
名指しされたであろう、青い瞳をした二十代後半
くらいの女性が、顔を上げる。
「……はい。
先日我が国で創設されたワイバーン騎士隊―――
その立役者であるメギ公爵殿や、共に来た
ワイバーン数名から聞いた通りの国、公都で
ありました」
「……そうか。
先に届いた報告書によると、そなたの旧知の
ドラゴン―――
アルテリーゼという者がいたというが。
人外との結婚や交流があるのは確かなようだ。
あの公爵も、女性の姿となったワイバーンと
将来の誓いを立てていたようだしな」
ライシェ国の使者として、ワイバーン騎士隊創設の
返礼のため、ウィンベル王国へ向かった彼らは……
その国の実情を調べてくる、という命令も密かに
帯びていた。
建前と本音、表と裏、虚々実々……
国を統べる地位にいる者は、決して性善説では
動かない。
徹底して現状を調べ上げ、事実を土台にした
動き以外は見せない。
あらゆる可能性を探り、それらを無視した
危険な行為は取らないのだ。
「して、ミマームよ。
グリフォンであるそなたに聞こう。
かの国は―――
真に友好国たり得る国か?」
彼女はコクリとうなずくと、再び顔を上げて
国王と視線を交わし、
「はい。
それは断言出来ましょう」
「それは旧知のドラゴンがいたからとか、
身びいきで申しておるのではあるまいな?」
ピク、と彼女の肩が揺れる。
「…………」
「…………」
しばらく沈黙が流れるが、ミマームはすっ、
と立ち上がると、
「あ~……
疲れっからいつも通りに話していい?
どうせここ、私の事知っているヤツしか
いないっしょ?」
すると国王も姿勢を崩し、
「ま、そうだな。
お前らも楽にしろ」
急に態度を崩した国王とミマームに、
周囲は肩をガクッと落とす。
「相変わらず真面目な態度が続きませんね、
グリフォン様」
「らしいと言えばらしいですけど」
「公都『ヤマト』でも―――
一番下の身分に偽装して、やりたい放題
でしたし」
共に跪いていた他の臣下らしき連中も、
やれやれ、という感じで立ち上がる。
「おーおー。
いっちょ前に言うようになったじゃないか、
あんたたち。
確かお前らが最初に覚えたいかがわしい単語は
何だったかなー?」
ミマームがニヤニヤしながら話すと、その場にいた
全員が土下座せんばかりに頭を下げ―――
「ふっふーん♪
私ゃ、貴様らのオムツを取り換えているんだぞ?
そんな私に歯向かおうなど、百年早い!」
そんな彼女に、彼らは頭を下げながら、
「生まれる前からいるのって……
反則だよ、クソ」
「それこそ、俺たちがガキの頃からの事、
全部知っているし」
「恐怖は過去からやってくる……!
こ、国王陛下!
陛下から何か言ってやって―――」
そう話を振ろうと彼らが玉座に目をやると、
すでに誰もおらず、
そこには老人が床に額をこすりつけるように、
両手と両ひざをついていた。
「「「あんたもかよ!!」」」
そのツッコミに、国王はゆっくり頭を上げて、
「だってミマーム婆ちゃんすっげー怖いもん。
子供の頃を知っているのを差し引いても―――
ライシェ国の先々代のその前からいるんだよ?
それにワシの孫も面倒見てもらわにゃならんし、
もう婆ちゃんイコール、ライシェ国と言っても
過言じゃないんだから」
「……お前、さっきから私の事、婆ちゃんって
呼んでないか?」
「あ」
ミマームの指摘に、国王は顔が真っ青になる。
「ごごごごめんなさい!!
ミマーム姉様あぁあああ!!」
「ウム、よろしい♪」
彼女が満足気にベージュのミドルショートの髪を
かきあげた後―――
ようやく報告が再開された。
「……しかし、その公都『ヤマト』とやらを
ずいぶんと気に入ったようだが。
人外に寛容というのはわかった。
料理も新技術も我が国は次元が違うという事も。
しかしのう」
「ん? まだ何か不安なの?」
再び玉座に座った国王を前に、ミマームは
両手を腰に着けて聞き返す。
「姉様ならともかく、ワシは人間じゃからな。
それに国を預かっておる。
みんな仲良く平和に―――
などとお花畑は語っていられないのだよ」
その言葉に、側近や臣下たちはうなずく。
「確かにその国は友好的なのだろう。
争いを好まぬ、という話も事実なのだろう。
だが、それでも―――
ワシはライシェ国の国民に対して責任がある。
国というものは、平和よりも安全を守らねば
ならんのだ」
それを聞いて、ミマームは両腕を組む。
「まあ、そうだね。
人間は立場ってモンがあるから。
私みたいに、好き勝手生きられるものでも
無いしねぇ」
「わかっておるのなら、少しは胃の負担を
軽くしてもらいたいのだが。
協力してもらっている事には、当然感謝
しているが……」
彼女の言葉に、国王はグチを返す。
「逆に聞くが、ミマームよ。
そこまであの国を気に入ったのはどうしてだ?
何をもって、『友好たり得る国』と判断した?」
そこで彼女は、んー、と間を置いて
思い出すように、
「児童預かり所ってのがあってさ。
そこで―――
ハニー・ホーネットがいるのを見たんだよ」
「ハニー・ホーネット……
確か蜂型の魔物であったな。
魔物に対しても寛容だったから、という事か?」
王が聞き返すと、ミマームは首を左右に振り、
「まぁそう先を急ぎなさんな。
そのハニー・ホーネットなんだけどさ。
片方の羽が無かったんだ。
聞くと、他の魔物に襲われて―――
救出は間に合ったものの、それだけはどうにも
ならなかったんだってさ」
「フム……
片羽しか無ければ、もう飛べないであろう」
王の感想のような言葉を彼女は肯定し、
「そりゃ当然さ。
いっつも地上や床を這うように動いていたよ。
一応、預かった理由としては―――
人間との共同生活を経験してもらう事と、
巣にいる仲間との連絡役、って事になって
いたけど。
『そういう理由』での、保護だろうね」
ため息とも取れない、大きく息を吐く音が
室内に小さく行き渡る。
「ま、そこが……
私が『友好たり得る国』と判断した理由さ」
その言葉に、今度はざわつく声が室内に
充満する。
「ケガをした魔物がいた―――
そしてそれを保護している、か。
ここにいる者たちはともかくとして、
他をそれで納得させられるか?」
『理由としては弱い』、それを率直に
国王は指摘するが、
「私が重視したのは、仲良くやれるかどうか
じゃない。
いざという時、最後まで仲間でいてくれるか。
裏切らないか。
今回の判断材料はそれさ」
ざわめきがピタッ、と止まり―――
ミマームは続けて、
「ハニー・ホーネット1匹養うくらい、
ちょっとした村でも何とかなるだろうさ。
けど、見るべきところはそこじゃない。
いざという時、ケガをした時……
あそこは受け入れた。見捨てなかった。
たとえ1匹の虫といえど、だ」
「うむ」
国王が相づちを打つと、彼女は周囲をぐるりと
見回して、
「つまり、仲間にした以上は―――
決して見捨てない。裏切らない。
魔物であれ虫であれ、最後まで守り切る。
そんな国って事だよ」
周囲の家臣たちは、ただただうなずき続け、
「ふむ……
よし、いずれ軍事的な同盟の性質の
連合国家になっていくだろうが―――
先んじて、ウィンベル王国との関係強化に
動こう。
まずは奴隷の待遇改善。
それに、人外や亜人との交流促進。
この二つを基軸に方針を固めるぞ」
「「「ははっ!!」」」
国王の言葉に、臣下たちは頭を下げる。
ただ一人を除いて。
「……ミマームよ。
そなたも一応、宰相なのだから―――
それらしい態度を取ってくれ」
「あぁ、悪い。
何でみんないきなりしゃがむのかなーと」
彼女の言葉に、全員が苦笑し、
「しかし、旧知のドラゴンがいると言って
おったが、その者は再婚していたのであろう?
『万能冒険者』―――
『境外の民』と。
そなたはどうなのだ?
人と、いや他の種族と結ばれるつもりは
無いのか?」
「いやまぁ、アルテリーゼやシャンタルも
結婚したしねぇ?
フェンリルのルクレセントも獣人族の少年と
婚約したって話だし。
ああいうの見せられると、誰かいい相手
いないかなーって思うよ?」
王の質問にミマームは返すが、
「余は別に反対はせぬぞ?
この国に誰か良い者はおらぬのか?」
「んじゃまあ、適当に―――
若くて頭も良くて美形さんで、
性格も良くて相手がグリフォンでも
怖じ気つかないような」
「それは適当とは言わない」
ダメ出しをするように王は答える。
「だってー。
それを言うのなら、あんただって私を振った
1人じゃないの、ぶーぶー」
「……生まれる前から全て知られておるのだぞ。
カンベンしてくれ。
姉や母親と、結婚しろと言われるような
もので……」
額に人差し指を当てる王に、他の人間も
ウンウンとうなずく。
「もー、みんな可愛くなくなっちゃって……
『ボク、大きくなったらミマーム様と
結婚する!』
そう言ってたあなたたちはどこへ」
それを聞いた室内の人間は、顔を赤くしたり
頭を抱えたりして悶える。
「からかうのはほどほどにせい、ミマーム。
ともあれ、使者の役目ご苦労であった」
国王がそう言うと、彼女はあ、と何かに
気付いたような表情になり、
「そういえば、アルテリーゼには私の事
バレていたから―――
私の名前出していいからさ、何で探るような
真似をしたのか、その理由と一緒にあっちに
手紙送っておいた方がいいよ」
「そうだな……
本当の理由を秘したのはこちら側であるし、
気付いた向こうも気分の良いものではあるまい。
まあそこは国同士―――
事情は理解してくれるであろう」
こうしてライシェ国の面々は、次に向けて
動き始めた。
「それで……
どうしてここにいるのか、またあの行為は
何の意味があったのか聞いてくれますか?」
羽狐とやらを大人しくさせた
翌日―――
ゼンガーさんとミーオさん、獣人族の兄妹を
通訳として、『彼ら』から事情を聞く事になった。
アルテリーゼとメルが捕まえた合計五匹。
とにかく落ち着かせるために、まずは水と食事を
取らせ……
改めて話し合いの場を設けたのである。
まずはゼンガーさんが、狐の体に翼を生やした
その生き物と意思疎通し、
「故郷の土や木々が持っていかれるのを見た時、
それに紛れ込んだそうです」
「もともとは羽狐様たちが住んでいた木だった
そうで……」
ミーオさんも兄の後に続いて通訳する。
となると、彼らの住まいごと持ってきてしまった
事になるのか。
それは申し訳ない事をした。
「それでさー」
「どうしてあんなに飛び回っていたのだ?」
「ピューイ?」
そしてメル・アルテリーゼ・ラッチ―――
家族が質問する。
恐らくそれを伝えているのであろう、兄妹は
鼻を近付けて何かしら話し込んでいるが、
「え~と……」
「何と言いましょうか、その……」
二人とも歯切れが悪い。
話し辛い事なのだろうか。
それとも、こちらを怒らせるような―――
「あの、迷惑をおかけしたのはこちら側でも
ありますので。
実害、というほどのものもありませんし、
ただどうしてあんな事をしていたのか
知りたいだけで」
そう伝えると、羽狐たちは互いに顔を見合わせて
いたが、
やがて意を決したように獣人族の兄妹へと
回答し、それを聞いた二人は微妙な表情となる。
「どうしたんですか?
彼らは何と?」
私が促すと、その猫耳を申し訳なさそうに折って、
「正体がわからないようにするのと、威嚇だった
そうです」
「あわよくば、あれで驚くか怖がるかして―――
あの森から出て行ってくれればと」
羽狐たちを見ると……
シュン、と耳とシッポを垂れ下げている。
一応反省はしているのだろう。
「ふーむ……
というと、そんなに居心地が良かったという
事でしょうか」
私の言葉を伝えてもらうと、彼らは首を上下に
コクコクと振る。
「そういえばゼンガーさん。
あなたたちは、この生き物の事を知っていた
ようでしたけど」
私の問いに二人はうなずき、
「ええと、実際に目にするのは初めてですが、
伝説の魔物です」
「フェンリル様ほどではないですが、その
御使いと伝えられている存在でして。
それで私たちとしましても、あまり粗末に
扱うわけには」
お稲荷さんみたいな感じだろうか。
そう言われてみると、確かに神々しい姿だ。
「おおよそのところはわかりました。
ここは、亜人や人外たちが友好的に暮らしている
場所ですので―――
迷惑をかけないと約束して頂ければ、このまま
住んでも構いません。
一応、他の獣人族へも顔見せというか、
伝えておいた方がいいですかね」
私の言葉に、ゼンガーさんとミーオさんは
うなずき……
取り敢えず獣人族や他種族の代表を呼んで、
今回の件が解決した事を共有する事になった。
「羽狐か。
俺も話だけは聞いた事があるが―――」
「こうして見ると、ただの翼の生えただけの
キツネッスねえ」
「まあ、大人しくしているのなら、いいんじゃ
ないですか?」
ジャンさんとレイド君とミリアさんが、
父親と息子・娘のように三人一組で
話し掛けてくる。
ここは冒険者ギルド支部の訓練場であり、
イベントや模擬戦では会場にもなるスペース。
そこで羽狐のお披露目も含め、新作料理を
紹介していた。
「しかし面白ぇなコレ。
酸っぱい米がこんなにうめぇなんて」
一番筋肉質の体格をしているアラフィフの
ギルド長が、それをつまんで口に運ぶ。
「いろんな食材がのっているッスけど、
どれも合うッス!」
「おにぎりよりも小ぶりなので、これなら
いろんな味をいっぱい楽しめますね」
褐色肌の夫と眼鏡のタヌキ顔の妻も、
その料理を口に入れていく。
今回紹介したのは『お寿司』。
もちろん生モノは寄生虫その他が怖いので、
火を通した物が中心となっているが、おおむね
受け入れられていた。
ネタとしては肉巻きを中心に、卵、茹でエビ、
小さなハンバーグやフライ、天ぷらなどを
のっけたもの。
そして羽狐たちが貪るように食べているのは……
「シンー!
みんな喜んで食べてるよー」
「あの羽狐どももじゃ。
特にあの『イナリズシ』に夢中じゃぞ」
「ピュ~」
そう―――
今回お寿司を作ったのは、あの羽狐を見て
『お稲荷さんみたいだな』と思ったのが
きっかけだ。
お稲荷さんから稲荷ずしを連想し、
材料は揃っているよなあ……と、
思い立ち、
せっかくだからと、いろいろとお寿司もどきを
作ってみる事にしたのである。
「シンさん」
「あ、ボーロさん」
そこへ、ずんぐりむっくりした体形の、
熊タイプの獣人、ボーロさんがやって来た。
「羽狐様たちを傷付けず捕まえ、しかも
公都に住まわせてくれるとはさすがですだ。
あの『イナリズシ』もとても喜んでくれて
いるですだよ。
こんな美味しいものは食べた事がない、と」
「はは……喜んでくれているようなら何よりです。
それと獣人族の方々に押し付けてしまう形に
なってしまいますが、羽狐たちの面倒を見て
頂けたら―――」
「とと、とんでもありませんですだよ!
羽狐様たちのお世話なら、むしろみんな
喜んでするだべ!
何せ、フェンリル様の御使いと言われている
存在ですだべな」
うーん。
ゼンガーさん兄妹も言っていたけど、それは
獣人族の共通認識の言い伝えなのだろうか。
まあそのあたりは彼らも含め、おいおい聞いて
おくか……
そんな事を考えながら、羽狐たちの『歓迎会』は
遅くまで続いた。
「えーと……
相談したい事があると聞きましたが。
でも、私に何が出来るかは―――」
数日後……
私は自宅の屋敷で、複数の方々を招いていた。
相談者は羽狐さんたち。
通訳に獣人族の少年・イリス君。
そして人の姿になった魔狼―――
ジーク君も参加していた。
「まあ理解出来ない組み合わせではないけど」
「大人の獣人族はどうしたのかや?」
「ピュッ?」
家族の疑問が、イリス君を通じて羽狐さんたちに
伝えられる。
彼はその狐耳をピクピクと動かしながら、
意思疎通を行い、
「大人の獣人族だと、自分たちを見ると崇めたり
拝んだりするので―――
それで今回は子供の僕を選んだのだそうです。
それに僕は、羽狐様に近い姿でもありますから」
つまりスムーズに話し合いたいから、という事か。
それにイリス君は彼の言う通り、狐タイプの獣人。
羽狐に適した人材だったのだろう。
「それはそれとして……」
「ジークはどうして来たのじゃ?」
妻たちの問いに、彼は困ったように
ダークブラウンの短髪の頭を傾げる。
「それも羽狐様の希望です。
この公都では、魔狼が人の姿になったと
聞いています。
それもフェンリル様の加護で―――」
実際にはワイバーンも人の姿になったので、
加護によるものかどうかは不明だが……
ともあれ、フェンリル様の御使いとか言って
いたし、その影響、言い方は悪いがサンプルを
目の当たりにして―――
何か思うところがあったのだろうか。
「フェンリル……
ルクレセントさんに会いたい、という事
でしょうか。
それなら話を通しても」
するとイリス君は羽狐と何かしらやり取りを
した後、首を左右に振り、
「それが、この姿のままではフェンリル様に
会えないと……
シンさんに、その相談に乗ってもらいたい、
との事です」
??
御使いなのにフェンリルに会えない?
変身か何かしないとダメなのだろうか?
魔狼のように人の姿になるとか……
「ええと、ともかくお話を伺いましょう」
こうして私たちは、羽狐たちから事情を聞く
事にした。
「はあはあ、なるほど……
昔は一族の中から、フェンリル様と同じような
銀色の毛並みの者が1人はいたと。
それがフェンリル様の従者として選ばれ、
他は御使いとして仕えていたんですね」
彼らの話を要約すると―――
今の彼らの毛並みは白、もしくは白に近い
桜色だが……
一族の中で一人だけ、銀色の毛並みを持つ者が
現れ、それはフェンリル様の従者として差し出し、
その時にお目通りを許されていたとの事。
「んで、その毛並みを銀色にする術や修行方法が
あったんだけど、今は失われて久しい、と」
「それで、いろいろな問題を解決してきた
我が夫を勧められたか。
しかしルクレセントのやつから―――
従者とか御使いとか、そういう話は聞いて
おらなんだが」
「ピュウ~」
家族も補足するように語る。
特にアルテリーゼはルクレさんと長い付き合いが
あるし、その知識は豊富だろう。
「ん~……
意外とそういうの、気にしないかも
知れないですよ?」
私の言葉に、羽狐たちはあたふたしだし、
「そ、そういうわけにはいかないと―――
何とか、銀の毛並みを取り戻してから、
フェンリル様にお会いしたいと言っています」
イリス君の焦る表情から、彼らも必死なのだと
いう事がわかる。
「その方法は失われたとの事ですが、
何か手がかりはないのですか?」
横からジーク君が助け船を出すと、
「それが……
修行方法は、純粋な『無』を目指す、
というものらしく、
精神統一で、魔力を徐々に減らしていき、
遂には無くす、というものだったそうです。
そのための修行方法もあったらしいのですが、
それが完全に失われているとの事で」
……え?
魔力を無くす、それも完全に??
それ、自分の無効化があれば簡単な話だけど。
ふとメルとアルテリーゼの方へ視線を向けると、
「んっ?」
「うむ?」
同じ事を考えたのか、二人して妙な声を出す。
するとそれを咎められたと勘違いしたのか、
「あ、あのっ。
妙な話をして申し訳ないと、羽狐様たちが」
「あ、いえ。気にしておりませんから……
ただ諦めるのは早いかも知れません」
「えっ?」
聞き返すイリス君に、私は魔狼の少年を
片手の手の平を上へ向けて指し、
「例えばジーク君ですが、今はすっかり
人化していますけど……
ここに来てすぐ、というわけではありません
でした。
魔狼の方々はしばらくここで暮らすうちに―――
ルクレさんの影響、そして食事が合ったのでは、
と言ってましたし。
羽狐さんたちはまだここに来て日が浅いの
ですから、焦らずに過ごしては」
「そうですね。
僕も人の姿になったのは、こちらに来てから
結構経った後ですので。
ルクレセント様が今いる場所はわかって
いますし……
しばらく落ち着かれてはいかがでしょう」
ジーク君もフォローに回り、それがイリス君を
通して羽狐たちに伝えられ―――
「こちらとしても、すぐに解決出来るとは
思っていないので……
それでお願いする、との事です」
ここで一段落したと思い、ホッと胸を撫でおろす。
「そういえば、食事もここに合わせた方がいいと
思うのですが―――
ご希望のものとかありますか?」
その問いに、羽狐たちは『イナリズシ』と
イリス君を通して答え……
相談は終わり、彼らは帰っていった。
「さて、どうしたものか」
羽狐たち、イリス君、ジーク君が帰った後、
独り言のようにつぶやくと、
「ん? 別にシンの能力なら問題無いんじゃ。
バレないようにやれば」
「そりゃもちろんそうだけど―――
本来の問題は、彼らの修行方法が断絶して
しまっている事で……
私がいる時はいいかも知れないけど、
根本的な解決にはなっていないような」
メルの疑問に答えているとアルテリーゼが、
「それなのだがな。
『銀色の毛並みでなくてはならない』―――
ルクレのヤツ、そんなこだわりを持っていたとは
思えぬのよ。
だいたい、あヤツの婚約者であるティーダは、
髪も耳もシッポも黒であったろう?」
言われてみれば……
となると、彼らがそう思い込んでいるだけなの
だろうか?
「だけど、長年の伝統のようだしなあ」
「アルちゃんから頼んで、ルーちゃんに
『自分はそんな事気にしてないよー』って
言ってもらえば?
次に会う時にでも」
「そうだのう。
当人から言われれば、彼らも納得するであろう」
「ピュッ!」
こうして、彼らの魔力無効化は折を見て行う事と、
『毛並みにこだわりは無い』という事を、
ルクレセントさんには前もって承諾してもらうと
いう事で、話はまとまった。