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白山小梅
白山小梅
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「ワー……このテキーラボーイ、誰が持って帰るんですかー」
いつの間に寝ていたのか、聴覚に違和感を覚えて、意識が俺の元に戻ってくる。
喉元に漂うアルコール。今夜は客に随分飲まされた気がする。いや、飲んだ気がする、の間違えだ。
「チカだろ?」
「ヤですよ。まっさん頼みます」
「やだよ。こっちゃんから動物拾ってきちゃダメって禁止令出されたんだよな」
同僚の会話の中身から、店内から客が出払っていることが伺えた。どうやら俺はいま、子猫や子犬と同等の扱いを受けているらしい。
「多分持ち帰っても大丈夫ですよ。こうなったアオちゃんは置物同然だから、隣でヤろうが起きないですよ。まっさん、そのテの嗜好あるっしょ」
「まじ?起きないかな……?ああ、でもこっちゃんが、嫌がりそうだしなあ!」
本気でヤるつもりかよ。と、身の危険を覚えて、ガバッと起き上がらせた。
「なに、チカ、俺が寝てる隣でヤったことあるわけ」
「ウワ、起きてた。まあ、何回か」
1回じゃないんかーい。
モップ片手の同僚は、悪びれる様子もなくさらっと言っている。こちとら、寝起きに酷い情報を貰って最悪である。
スマホを開いてみても、柴崎からの新しいメッセージは送られていない。
どうやら俺は本格的に嫌われたらしい。
あの時と同じだ。
高校の頃、柴崎は俺と関わるのが嫌そうだった。
俺はバスケ部だったから、何度か試合に誘った。授業はサボるけど、部活は皆勤賞だったし、割りと真面目にやってたから、たまにはかっこいい所見せないとって張り切った。
柴崎が見に来てくれたはいい。でも、調子に乗って客席の柴崎に手を振ったら、柴崎は何も応えてくれなかった。屋上では話してくれるのに、一歩外に出れば他人事。それが俺たちの関係だった。
毎日がつまらなさそうで、大人びていて、一歩間違えたら屋上から飛び降りてしまいそうな儚さがあった。
何でも話した。卵焼きは甘い派で、3日カレーでも許せる派で、好きなバンドが同じで、ライブも行く派で。
入学式の頃休んでいた理由も聞いた。家族構成も聞いた。
知らない柴崎を知る度に、惹かれていった。
でもまあ、屋上で話してくれるだけで良い。少しずつ距離を詰めていっていたと思ったのに、俺がある事をやらかしたせいでまた距離が生まれた。
何も出来ないまま卒業して、忘れられないまま時間だけが過ぎていって。
“ アオ〜、今度の合コン参加してよ。たのむ!学食おごるから! “
500円で釣られたけれど、行く気になれなくて。
わざと遅れて行った先に、柴崎が居て死ぬほど嬉しかったこと、柴崎は全然知らない。
「女の子に嫌われたくらいで落ち込むなんて、アオらしくないね」
スマホの画面をいじいじと触っていると、可愛い顔をしたそいつがにやりと不敵な笑みを見せる。蜘蛛とか見せたら泣き出しそうな顔して、口から出るのは皮肉ばかり。
「は?なんでわかんの」
「さっきほぼ全部ぶちまけてたからだいたい知ってるよん」
「は?そんなこと言ってねーし」
「言ったんだな、これが。インスタに勝手に上げられてたなら、弁護士紹介したげようか?」
どうやらこの様子だと、本当に話しているらしい。
「アオてゃんも結局若いねえ〜」と、たった三つしか変わらないまっさんも頷いているので、何だか癪だ。
「んなことしなくても、普通に消してもらいましたー」
「つまんな。俺もう帰るわ」
「チカ、いま誰んちいるの」
「内緒。てかアオ、これ以上店に居座ったらオーナーに怒られるし、そろそろかえろっか」
「もうちょい付き合えよチカちゃん〜〜」
「あー……ほんと良い性格してるわお前。ヤれなくて欲求不満なら、サークルのオンナの家さっさと行けよ」
「ヤダよ。柴崎に嫌われたの、多分、エミって子と遊んだからだし、これ以上柴崎に嫌われるようなことしたくない」
「……柴崎ってアオの彼女だったわけ」
「いや…………友達」
「はは。随分大事にされてるみたいですネ〜。そのお友達のこと。大事にしたいくせに、セ落ちさせて逃げられないようにして。その上逃げられて、可哀想」
千景は嫌味ったらしく言い放った。
大事にくらい、いくらでもする。
出来なかったこと、後悔したこと、全部する。
なのに結局、俺はあの頃と同じ過ちを繰り返そうとしている。
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