旅の出発まであと二日。昨日は三人とおまけ(変身型スライム)の相手をしていたため、仲間集めどころではなかった。
本当にあと二日で、なんとかなるのかは分からないが、それでも俺たちはやらなければならない。
それが世界を救うための第一歩なのだから……。とまあ、その話は置いといて本題に入るとしよう。
今日も俺たちはみんなで朝食を共にしていた。
今までは一人で寂しく食べていたが、今では四人に囲まれながら、楽しく食べている。
このまま、こんな感じに過ごせたら、どんなに幸せだろうと毎回思うのだが、そうもいかない。
「ナオト、今日は最後の一人を迎えに行くわよ!」
こんな感じで、いいムードが一瞬にして崩壊するからだ。
ミノリが空気を読めるようになるのには最低でも、五年はかかるだろうな……。
俺はそんな現実に心を痛めながら、返事をした。
「それは水晶で位置を特定してからにしてくれ。それとツキネ! いつまでも管理人さんの姿でいるのはやめてくれないか? なんか管理人さんに監視されてるような気分になるから……」
俺はツキネに要求したが……。
「無茶言わないでくださいよー。私だって好きでこの姿になっているわけじゃないんですから」
案の定、断られた。やれやれ俺の身にもなってほしいものだ。
今までこのセリフを何回言ったか、もはや知る由も無い。
「じゃあせめて、変身できるやつの条件を言ってくれ」
俺はそう言ったが、それを聞いたツキネの顔は真っ赤になった。
「……あの……兄さん」
「な、なんだよ、そんなに顔を真っ赤にして。何か言いたくない理由でもあるのか?」
「え、ええ……まあ……」
「……そっか。なら、言わなくていいぞ」
「え?」
「お前が話せるようになった時でいいから、変身できるやつの条件を教えてくれ」
そう言うとツキネはキョトンとした顔でこちらを見た。
まるでその発言が予想していたものとは違っていたかのように。
「に、兄さん。本当にいいんですか?」
「ああ、もちろんだ。俺が無理に訊いたところで解決できるようなものじゃなさそうだからな。それともなんだ? 俺が無理やり、お前に理由を訊くとでも、思っていたのか?」
「い、いや、別にそういうわけじゃないんですけど……その、あまりにも私が予想したものとは違ったので少しビックリしただけです……」
「そうか」
「はい、それだけです……」
「そうか……。なら、いいのだが……」
なんとなく会話が終わってしまった。俺はこの四人の中で唯一、ツキネ(変身型スライム)がどういう子なのか分からない。
テンションが上がっている時もあれば、おとなしい時もある。まるでオオカミ男のようだ。
しかし、その直後、背後に殺気を感じたので、恐る恐る振り返ってみた。
すると、そこには顔を引きつらせながらも、なんとか怒りを抑えて笑っているミノリ(吸血鬼)がいた。
俺は咄嗟にこの状況をどうにかしようと頭をフル回転させた。
それこそ一秒が一時間に感じるほどに……。今の俺にできること、それは……。
「ミノリ、俺が悪かった。お前が最後の一人を見つけようと中心になって頑張っているのに、俺はツキネのことしか考えてなかった!」
「そうね、とても楽しそうだったわね」
ミノリの顔は笑顔のままなのだが、怒っているのが俺でも分かるくらい今のミノリからは『怒り』の感情が溢れ出ていた。
だが、俺はここで逃げ出すわけにはいかない。ここで逃げたら、ミノリを含め、ここにいる全員に殺られる気がするからだ。
「ミノリ、俺にできることなら、なんでもする! だから! こんな俺を許してくれ! 頼む!!」
自分の思いを今の俺にできる範囲で伝えると、深々と頭を下げた。
これで許してもらえなくてもいい。全員に殺られてもいい。だけど、せめて自分の思いだけは伝えたい。
そう考えた末の行動だった。その時、俺は死ぬ覚悟を決めていたが……。
「別に気にしてないからいいわよ。それに仲間集めの件は、もうなんとかなったから大丈夫よ。そうよね? 二人とも」
「そ、そうです! 私たちがなんとか最後の一人がいる場所を水晶で探し出しました! だ、だから、ナオトさんが探す必要ないです!」
「ナオ兄がツキネお姉ちゃんと話している間に見つけたから、ナオ兄は何も心配しなくて大丈夫だよ」
三人から発せられた言葉は俺が予想もしていなかったものだった。
てっきり三人とも俺を殺るかもしれないと思っていたからだ。俺は鳩が豆鉄砲をくらった時のように、フリーズした。
「ちょっと、ナオト。大丈夫?」
「ナ、ナオトさん、大丈夫ですか?」
「ナオ兄、生きてるー?」
三人はその間も俺のことを心配してくれていたため、三人の言っていることが本当のことだということに確信が持てた。
俺はそれを理解するとフリーズ状態から解放された。
俺はこんなにもみんなに思われていたのだということに気づけた。その時の俺は少し嬉しかった。
しかし、あえてそのことは言わずに……。
「みんな、ありがとな。心配してくれて」
「と、当然じゃない! あんたはあたしの……その……未来の結婚相手……なんだから……」
「そ、そうです! 私たちはナオトさんのことを……家族の一員だと思っているんですから、心配するのは当然です!」
「ナオ兄は、私たちと一緒に暮らしている家族だからできるだけ悩みは言ってほしいな」
「私も兄さんの力になりたいですから、困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね?」
「お、お前ら……!」
俺は感動のあまり、今にも泣き出しそうだったが、ぐっと堪えて。
「ありがとう、でも俺はもう大丈夫だ。だから、仲間集めに戻るぞ」
今、やるべきことを優先した。
しかし、そんな俺の涙よりも優先すべきことはあっさり解決することになる。
「ナオト、それなら問題ないわ」
「え?」
「す、水晶で確認した結果」
「こっちに向かってきていることが分かったよー」
「えーっと、それはどういう……」
そう言いかけた時、ピンポーンという音が部屋中に響き渡った。
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