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言われるままに善悪の後に付いていくコユキ……
本堂でガッカリと、ドデカブリンっっと落ち込みつつ待つコユキの前に善悪が持ってきた物は巨大な姿見であった。
縦三メートル、横二メートルもある巨大な鏡だ。
それをコユキの位置から五メートル程も離した位置に固定した後、鏡の後ろに立ってコユキに促した。
「ささ、改めて自分の姿を前後左右から確り(しっかり)確認してみるでござる。 そうであるな、後ろから前からどうぞってな感じで見てみるでござる」
善悪に促されるままに、ぼぉぅと魂が抜けた状態のコユキが鏡の前に立つと、善悪が徐(おもむろ)に言葉を紡ぐ。
「さあ、どうでござる? 自分の体に付いたボールを見て何か気付く事があろ?」
そう言われても鏡に映っているのは、ボールに塗(まみ)れたダイナマイトボディの美熟女だけだ、故にコユキは答える。
「……気付くも何も、『みてくれ』が良いだけで、自分の能力を過信して打ちのめされた、惨め(みじめ)で愚か(おろか)な敗者しか映っていませんよ……」
落ち込みっぱなしのコユキを見て、善悪は困ったように言った。
「そんな事無いでござるよ(主にみてくれの部分が)、ではヒントでござる、ボールの付いた場所に注目するのでござる」
「場所、ですか?」
「そそ、あ、構えもさっきのファイティングポーズでオッケイ?」
陰鬱(いんうつ)な顔で、やる気の欠片(かけら)も見せずに、如何(いか)にも仕方なくやらされているという感じではあったが、ピーカーブースタイルを取るコユキ。
その状態で再び鏡を注意深く覗き込んでみたが、ワイルドさがプラスされ多少女豹(めひょう)っぷりが上がっただけで特段気付くことは無かった。
コユキが自分の姿に見惚れ(みとれ)たままでいると、業を煮やしたのか善悪が口を開いた。
「分かり難いようなら目を細めて見てみるとよかろ?」
言われるがままに目を細めて見ると、体に付いたピンポン球が霞(かす)んで、まるで全身に白いオーラを纏(まと)ったかに見えた。
「これは…… 天使? 女神ですかね?」
「細め過ぎでござる、もうちょい手加減した細め具合でござるよ」
「ああ、なるほど」
体術『少し手加減した細目』を使用すると、流石に鈍いコユキでも善悪の言っていた意味がはっきりと理解出来た。
「わかった?」
問い掛ける善悪に対して、鏡から視線を移して答えた。
「はい、こうして見ると全身のアウトラインって言うか、エッジ部分に隙間無く付着していますね」
「そそ大正解でござる! 正確に言うと正面から見た場合、外端部から三センチまでの範囲しか被弾して無いのでござる」
コユキは善悪の説明に首肯(しゅこう)する事で同意を示した。
その姿を見て善悪は自分なりの分析を続ける。
「この事から類推(るいすい)出来るのは、本当の自分のふと、体格よりも、コユキ殿が都合六センチ自分をほそ、華奢(きゃしゃ)に思っているという事でござる」
気配りを欠かさない事も、僧侶としての嗜(たしな)みの一つなのだ。
笑顔を浮かべながら善悪は言葉を重ねる。
「おそらく普段の生活の中でも、家具やちょっとした出っ張りなんかにぶつかったりするのでは?」
言われて見ればコユキには思い当たるふしだらけだったが、如何(いか)に尊敬する先生の分析でも間違いは正して置かなければならない。
「確かに色んな所にはぶつかりますけど、自分で思っているより六センチも豊満セクシーに育っているとは褒めすぎですよ、そう言われて、はいそうですかと信じられるほど、わたし自信家ではありませんですから」
「自信? え、えー、そうでござるか…… えぇーと……」
まさか、太っている事の方が自己評価で上位だったとは思いもしなかった善悪は、少し戸惑ってから言い方を変えて伝える。
「では、こう考えればよかろう! コユキ殿がギリギリ避けれると思ってする動きは三センチ足りないと、これからはプラス三センチを意識すると言う事では如何(いかが)かな?」
「……なるほど、それは分かり易いですね、満腹セットで十分だと思って注文したけど、結果足りなかったって事かな…… だったら最初から余計目にオーダーして置くって事ですよね? なるほど…… なるほど……」
「ん! その理解でピッタンコでござるよ♪ 重畳(ちょうじょう)、重畳」
お互いの認識のすり合わせも無事終わった二人は、おやつの大判焼きを堪能した後、三度(みたび)境内へと戻り訓練を再開するのだった。