WOのイベントが始まり、一時間後。
先輩は操作に慣れ、少しはマシに動けるようになっていた。はじまりの街の外にある草原フィールドでひたすら狩りをしてレベルアップ。
不器用ながらも微笑ましかった。
「――さて、そろそろ終わりにしますか」
「そうだね、もうこんな時間」
気づけば二時間近くプレイしていた。
先輩とゲームとか最高の一時を過ごせた。
「帰るのなら送りますよ」
「ううん、大丈夫。ジークフリートが車で迎えに来てくれるから。さっき連絡入れておいたんだ」
「そうでしたか。では、玄関まで」
「ありがと。……あ、来たみたい」
「では見送ります」
部屋を出て先輩を玄関まで送った。
少し名残惜しいが、明日とか近いうちにまた会える。寂しくなんて……寂しい。
「またね、愁くん」
「はい、先輩」
お互い笑顔で別れ――俺は部屋へ戻ろうとした。のだが、親父がニヤニヤした表情で登場した。見られていたか。
「愁、柚ちゃんとラブラブだな」
「ノーコメントだ」
「誤魔化すところが怪しいな。まあいい……そら、給料だ」
親父は、茶封筒をヒラヒラさせた。
「この店は、日払いだったのか。知らなかったな」
「いや、これは謝礼だ。今日はオープン以来に儲かったからな。母さんも大喜びだったぞ」
「へえ? そんなに?」
「だから、これは大事に使え」
俺は親父から封筒を受け取り、中身を確認した。……なんか妙に分厚いな。いったい、いくら入っているんだ。
一日にしては多すぎる気が。
お金を手元にして俺は驚いた。
「な、なんだこりゃ……。まてまて、いくらあるんだ」
「自分で数えてみろ」
諭吉が一枚、二枚……計六枚あった。
つまり六万円。
こんな稼いだ覚えはないのだが。
「日給六万って……いいのか、こんなに」
「そんなわけなかろう。これは謝礼……この前も手伝ってもらったし、まあ、ボーナスみたいなものだ。お前に三万、柚ちゃんに三万ということさ」
そういうことか。
これは親父の気持ち。ありがたく受け取っておこう。
「ありがとう、親父」
「いいさ。今後もがんばってくれ」
「あいよ」
* * *
自由の時間を得た俺は、WOをプレイして時間を過ごした。けれど、明日はオフ会の約束もある。
気づけば零時を回っていた。
先輩からのメッセージも特にない。……そろそろ寝るか。
重たい瞼を閉じれば俺は直ぐに夢の世界へ堕ちた。
――アラームで目覚め、俺は八時に起床。
さて、今日は『バレンシア』さんと会う約束だ。彼女は女子高生らしいし、ひょっとすると同じ学校の女子かもしれない。
それはそれで運命を感じる。
俺のイメージでは大人のお姉さんって感じだったんだけど、年下と見た。多分、後輩なのではないかと推測を立てた。
仕度を済ませ、俺は時間まで自由に過ごした。
……それにしても、先輩から連絡がないな。ちょっと心配だ。
なんだかんだで十時前。
俺の家から佐倉駅はそれほど遠くない。歩いて向かう。
玄関まで向かうと親父が声を掛けてきた。
「愁、どこかへ出かけるのか」
「ちょっと約束でね」
「ほう、柚ちゃんとデートでもするのか」
「今日は別の人。ただのオフ会だよ」
「まさか……WOの?」
親父は、俺がWOをプレイしていることを知っていた。親父もプレイしているからだ。
「そうだよ。大丈夫、ちょっと会って遊ぶだけ」
「そうか。ならいいがな……柚ちゃんを悲しませるようなことだけは止めておけよ」
「……わ、分かってるさ。じゃ、行ってくる」
もちろん、先輩のことは大切だ。
けど俺はもっと青春がしたい。
ゲームでオフ会は、なかなか出来ない貴重な経験。今時はSNSだとかマッチングアプリだとか色々あるけれど――俺はゲームの出会いが一番面白くて運命的だと思う。
最初から共通の趣味があるから。
ゲームだからその話で繋げられるし、相性もいいはず。少なくとも感性は似ているといっても過言ではないかも。
そんなことを思いつつ、俺は佐倉駅に到着。
駅前はそれなりに活気があって、誰がバレンシアさんか分からない。――って、特徴とか聞いておけば良かったな。
俺はぼうっと周辺を眺める。
女子ということは分かっている。
情報はそれしかがない。
……どうしよう。
せめて連絡先くらい交換しておくべきだったと立ち尽くしていると、声を掛けられた。まさか、バレンシアさん!?
「……え、うそ。もしかして……オータム?」
「そ、そうですけど」
振り向くと――そこには、なぜか金髪ギャルの『蜜柑先輩』がいた。彼女は驚いて腰を抜かしそうになっていた。
「み、蜜柑先輩!?」
俺もぶったまげて奇声を上げそうになった。
……いや、まてよ。
バレンシア……?
バレンシアオレンジ?
そういうことかああああああ――ッ!!!
ようやく繋がった。
ギルドメンバーのバレンシアさんは、蜜柑先輩だったのだ。まさか、先輩の友達である蜜柑だったとは……マジか!!
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