テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
私は、
予定のない部屋に
一人でいる。
洗い物は溜まっている。
床にほこりが落ちている。
冷蔵庫には
微妙な食材しかない。
画面いっぱいに、やたら明るい文字が躍っていた。
\ 溺愛プラン、いかがですか? /
「軽っ」
私はソファに寝転び、スマホを顔の上に掲げたまま呟いた。
“溺愛”って、もう少し重たい言葉じゃなかったっけ。
情念とか、執着とか、最悪の場合は事件とか。
でもこのサイト、事件感ゼロだ。
【おすすめオプション】
・朝の「おはよう」自動送信
・体調管理(食事・睡眠・メンタル)
・肯定的相づち(否定ゼロ)
・適度な嫉妬(不快にならない範囲)
・記念日完全対応
・不機嫌検知システム(最新AI)
「……人間じゃなくない?」
私はスクロールしながら、思わず笑った。
最後の方、完全に家電の説明だ。
【不機嫌検知システムとは?】
あなたの声色・表情・文面から
不機嫌レベルを自動判定。
最適な対応を行います。
・共感
・解決提案
・距離を取る
※怒鳴り返し、逆ギレは行いません。
「逆ギレしないのかあ……」
そこ、売りになるんだ。
私は一瞬、元彼の顔を思い出しかけて、
すぐに画面をスワイプした。
【プラン選択】
□ ライト(週1デート)
□ スタンダード(疑似同棲)
■ プレミアム(夫相当)
「夫、相当」
私は声に出して読んだ。
「“夫”じゃなくて、“夫相当”……」
妙に納得してしまう自分が腹立たしい。
正式な肩書きは重いけど、
機能だけ欲しい気持ちには、覚えがありすぎた。
【溺愛レベル】
○ 弱(さっぱり)
◎ 中(安心)
◎◎ 強(おすすめ)
おすすめ、されちゃった。
「知らんがな」
そう言いながら、
私は一番右の◎◎に指を伸ばしていた。
【確認】
・束縛しません
・怒りません
・不安を先回りして処理します
・あなたを否定しません
「……処理」
その単語だけ、
なぜか引っかかったけど、
今は見なかったことにする。
私は深呼吸して、
決済ボタンを押した。
\ ご契約ありがとうございます! /
\ 理想の溺愛、準備中です! /
「理想の溺愛、ねえ」
スマホを下ろし、天井を見上げる。
明日から、
ちゃんと愛されるらしい。
――オプション付きで。
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