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49 - 第49話 友人との価値観の違い

2025年03月13日

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◻︎懐かしい友達



市役所に用事があって、市街地まで出かけた。住民課の前で書類を書いていたら、ぽんと背中に誰かが触れた。


「こんにちは、美和ちゃん」


顔を上げたそこには、懐かしい友達がいた。同じ会社で同期だった篠原恵だった。


「あー、めっちゃ久しぶり!こんなとこで会うなんて」


子どもが小さい頃はそれなりに行き来があったけど、だんだんと生活パターンが変わって疎遠になっていた。


「元気そうだね?」

「お互いにね、あ、窓口に呼ばれた、ちょっと待ってて」


何かの書類を受け取りに窓口へ向かう恵。ヒールの細いパンプスと膝丈のタイトスカート、襟元と指先にはキラリとダイヤモンドが光った。


_____あれは、本物だな、恵のことだから


「お待たせ!ねぇ、これから時間ない?」

「これ、提出したらあとは暇だよ」

「じゃあ、うちへおいでよ、待ってるから」

「道順、おぼえてるかなぁ?」


久しぶりの再会は、わけもなくワクワクした。


恵が住んでいる住宅街はなかなか大きくて、道を一本間違えてしまった。

けれどまわっているうちになんとか到着した。

お洒落な家の外観は、昔と同じですぐにわかった。


「いらっしゃい!どうぞ中、入って」


テラスに置かれたチェアとテーブルには、小さな鉢植えが置いてあった。


_____きっと、ここでティータイムとかするんだろうな


玄関を入ると、可愛い服を着たトイプードルが走ってきた。


「こらこら、ミルク、お客さまだから大人しくして。あ、上がってきて」

「お邪魔しまーす、ってか、めっちゃ変わってない?」


玄関も明るくなってたけど、リビングはまた真っ白で大きな開口部からさっきのテラスが見えた。


「そう!いいでしょ?つい最近リフォームしたばかりなの。適当に座ってて。お茶淹れるね」


ふーん、と言いながら真っ白な壁や天井、キラキラのシャンデリア、アイランド型のキッチンを眺めた。

最初に建てた時は、落ち着いた木目調の内装だったことを記憶している。


「すっごい!テレビ、100?」

「うん、老眼だからね、大きくないと。それにリモコンもよく探すから、こうしたの」


アレクサだとかグーグルだとか呼びかけて、音楽や照明やチャンネルまで操作していた。


「ふへーっ、なんだか展示場に来たみたい」

「そこまではないけどね。ここ数年、人が集まることが多くなったから、壁の黄ばみとか、仕切りがあって狭いこととか気になってたんだよ。で、思い切ってやっちゃった」


ミルクと呼ばれたトイプードルが、私の膝に乗ってきた。


「可愛いっ!これは歓迎されてるのかな?」

「みたいだね、もうさ、子どもも大きくなったから今ではミルクを我が子みたいに可愛がってるよ」

「ふーん、そういえば息子たちは?」


恵には男の子2人がいたことを思い出した。


「これこれ!見て!」


恵が見せてくれたのは、可愛い赤ちゃんのお宮参りの写真だった。


「孫?」

「そう、もうすぐ4才よ」


確かうちの娘と同じ歳だったはず。つくづく時間が流れているんだなぁと思った。



「ねぇ、うちのパパも帰ってくるから晩ご飯食べて行ってよ」

「そうだね、久しぶりに会いたいし。あ、じゃあさ、遅くなるかもしれないけどうちの旦那も呼んでいい?」

「もちろん!」


私は夫にLINEを入れた。恵の家に来てるから、こっちきて晩ご飯を一緒に食べようと。

ほどなくして返事があった。


《わかった、あと少し仕事をしたら行く》


夫が来たのはそれから2時間後だった。

私よりも方向音痴になっていたようだ。


「懐かしいね!明日は休みでしょ?泊まってってよ、ビール出すから」


よっしゃあ!ということで、ビールがグラスに注がれる。

15年ぶりくらいの再会に、乾杯した。


「そういえばさぁ、篠原家の車、すごいね、あれベンツだよね?恵はレクサスとか、あり得ないんですけど」

「通勤にはフィットだよ、遠くまで出張が多いからね」


恵のご主人の慎太郎が答える。

髪に白いものが混じってはいるが、若い頃とそんなに変わらないように見える。


「リフォームもしてさぁ、すごいね!」

「それくらい、田中家もやれるでしょ?築年数もうちと同じくらいだし、やったら?」

「うーん、やりたいとは思うけどねぇ…」


私は自分のリビングを思い出す。

壁紙が黒ずんでいるし、少し浮いてきたところもある。カウンターキッチンもアイランド型にしたいとは思ってる。

でも、それは“いつか”の話だ、今どうしても必要だということはない。


「最近ちょっと体を壊したり、孫が生まれたりしてね、家にいることが多かったの。でもね、思ったようにリフォームしてから、家にいるのが楽しくなっちゃった」

「たしかに、ここまで望む通りのリフォームができてたら、楽しいよね?おうち時間も」


センサーで水を出したり止めたりする蛇口、色まで変わる照明、何より壁一面の真っ白な収納棚…憧れではある。


_____けどなぁ…


恵の指は、綺麗にネイルもしてあって、中指と人差し指にもぐるっとダイヤが囲む指輪があった。


「それも、本物でしょ?」

「もちろん!でもカラットは小さいから、お安いよ」


いいでしょ?と見せてくれる。

キラキラキラキラ、うん、眩しい。


「俺たちってさあ、あと、もう三分の一くらいじゃない?生きてるのって」


唐突に慎太郎が話し出す。


「そんなもんかなぁ?元気でいられるのは」

「だったらさぁ、やりたいこととか欲しいものとか、今手に入れないでどうするのさ」

「わかる、わかるけどねぇ…」


私が一番に考えたのは、資金のことだ。


「老後資金も考えちゃうし…」

「そんなの、俺たちは夫婦で70までは働くつもりだぜ?」

「えっ?!」

「だから、好きにやってるの。美和ちゃんもさぁ、好きにやったら?まだ働けばいいじゃん?」

「うーん…」


私は夫と顔を見合わせた。

我が家は、必要以上に働かないと話し合っている。

贅沢はしなくていいけど、元気なうちに好きなことをやりたいから仕事は早めに辞めると。

好きなこととは、それぞれの趣味のことだ。夫は魚釣りと、それから若い頃乗っていたバイクも乗りたいと言ってるし。











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