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#ファンタジー
うにい
114
126
谷崎爽奈
282
#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
7,335
居候共と朝飯を食い終わった後にガルドの買った坑道を見学。
マッシュルーム培養スペースとして貸し出す事は決定済なので、手続きの手順を教わりながら掃除を手伝う。
「銀が出ると思ったんだがなぁ。」
『出ないんすか?』
「いや、ある事はあるけど、かなりの深度だからな。
真面目にやっても採算割れかな。」
言いながら宝石を投げてくれる。
「今日の駄賃だ。
そのルビーを鑑定してみろ。」
『ランクA、9カラット、オレンジレッド。
地球なら低く見積もっても400万円弱で捌けます。』
「こっちのレートで教えてくれ。」
『労働者1年分の稼ぎです。
慎ましく暮らせば妻子も養えます。』
「マジかー。
俺もチキューに生まれたかったわ。」
『今、鉱業やら林業の従事者が少ないんで、重宝されますよ。』
「なんで?」
『事務仕事をみんながやりたがるんで。
俺も含めて身体を動かしたがらないんです。』
「ふーん。
エルフみたいな価値観か?」
『はい。
皆、如何に手を汚さず金を稼ぐかだけを考えてます。
その為の学校に10年以上通ってます。』
「その10年で働きながらノウハウを身に着けた方が儲かると思うけどなー。」
『ええ。
俺も親方と会ってから、そう思うようになりました。
…ただ。』
「ただ、何だ?」
『女共は生まれてくる子を【手の汚れない仕事】に就ける事に執着していて、俺にかなりのプレッシャーを掛けてます。』
「エヴァもそうなのか?」
『まさか。
あの人は簡単に本心を見せてくれないですよ。』
「だろうな。」
本心も何も、エヴァは史上初のドワーフ種と人間種の混血を産むのである。
将来の職業以前に生存の見通しすらない状態なのだ。
「ヒロヒコ。
オマエ、どうすんの?」
『?』
「いや、将来設計とか、そういうの。」
『…私事に区切りが付いたら、改めて相談させて下さい。』
「分かった。
穏便に区切れよ。」
『善処します。』
まあ、もうこの身体だ。
荒事は難しいだろうな。
手足が潰れた今、戦闘どころか日常生活すらままならないのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、ガルドの手伝いもちゃんと済ませたので弁当代わりに貰った餅を貪りながら飛ぶ。
『クッチャクッチャ。
ワープ。』
共和国の首都。
相変わらず新興国の熱気を感じる。
俺は記憶を辿りながら商業区と中央区の境界線になっている大通りをヨタヨタ歩く。
ここら辺には元老院議員事務所が固まっているのだ。
『すみませーん。』
少し緊張しながら目的の事務所をノックする。
「はーい。
あ、トビタだ!!」
『あ、ども。』
ドアから顔を覗かせた若いドワーフは俺を見るなり指を差して驚く。
ここはギガント族の族長にして元老院議員でもあるエル・ギガントの議員事務所。
そして俺と話しているドワーフ青年とは何度か顔を合わせた記憶がある。
確かギガント族長の旗本の1人だ。
「え?
オマエ、共和国に引っ越して来たの?」
『あ、いえ。
ギガント族長に相談したい事がありまして。』
「バカヤロウ!
族長にアポなしで会える訳がねえだろ。
元老院の中だけでも4つも役職を兼任しておられるんだぞ!」
『あ、いえ。
今日はアポを取りに来ただけですので。』
「お、おう。
それなら受け付けてやるよ。
ほら、入れ。」
『あざっす。』
ギガント議員事務所は完全に共和国仕様の内装。
中に居るのがドワーフばかりでなければ人間種の事務所と錯覚してしまうだろう。
「なあ、ニヴルって合衆国に住んでるのか?」
『あ、いえ。
王国と合衆国が領有権を主張し合ってる土地ですね。
色々あって、今は合衆国が実効支配してるんですけど、その土地の一部を実効支配してます。』
「ああ、王国と首長国の間に居座ってるブンゴロド族みたいなモンだな。」
『はい、長老会議もブンゴロド的な手法は参考にしているみたいです。
ビジネス文書の発給スタイルとか。』
「ふーん。
まあ、オマエラとは色々あったけど…
上手く行ってるみたいで安心したよ。
魔界材木の件、ウチに最初に声掛けてくれてありがとな。
おかげで族長の面子も立った。」
『いえいえ、恐縮です。』
俺を案内してくれているドワーフはタルクィニウスなる共和国風の家名を名乗っている。
無論、ドワーフ式の職業姓も保有しているのだが首都内で名乗る事はないそうだ。
彼らの本姓はもはや墓碑銘以外に記されることはない。
「族長は明日の夜に首都に帰還する予定だ。」
『そっすか。』
「宿は取ったのか?」
『あ、いえ。
考えてませんでした。』
「…そっか、俺の家門の宿泊所になってしまうが泊まっていけ。」
『えっと、御言葉に甘えます。
なんかスミマセン。』
「いいよ別に。
同種だろ。」
『ありがとうございます。』
その後、2組の来客があったのでタルクィニウス達が応対する。
エル・ギガントは普通の議員の様に会派に属しており、普通に仲間議員と合議し、普通に仲間ではない議員からの切り崩し工作を受けているようだった。
俺は勧められたロビーのソファでおとなしく座っていた。
タルクィニウスが脚の障碍に気を遣ってくれていた事に気付いたのは、ずっと後になってからだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大通りを南下し、街外れに向かう。
街壁沿いの人通りの少ないエリア。
ここが首都でギガントに割り当てられた地区。
割り当てと言えば聞こえはいいが、王都でもそうであったように隔離である。
誰もドワーフの近所に住みたいとは思わないので仕方ない。
「この辺は道が悪いから結構揺れるけど。
オマエ大丈夫か?
傷、まだ新しいだろ?」
『あ、いえ。
大丈夫っす。』
通りは無数の馬車や人力車で溢れていたが、ギガント族はそれを使わない。
ドワーフはドワーフが御者を務める馬車にしか乗らないのだ。
言うまでもなく人間種がドワーフの馬車に乗る事もない。
それが差別なのか適度な距離感を保っているだけなのかは分からない。
ただ、異種族同士が同じ街壁の中で暮らしながらも刃傷沙汰が一度も発生していない事実こそが共同体にとっての答えなのだろう。
「ゴメンな。
こんな辺鄙な場所で。」
『いえ、俺が王都に住んでいた時…
ニヴルも街壁沿いでした。』
「へー。
まあ、どこも結局同じだよな。」
他愛もない話をしながらタルクィニウス家門の宿舎にお邪魔する。
こちらも新婚らしくお腹の大きな奥様と挨拶を交わす。
その後、客間に通されタルクィニウス直々に茶を振舞われる。
「共和国式しかないけど構わないか。」
『いつか…
ギガント式も飲んでみたいです。』
「…そうだな、いつか。」
寂しそうに笑いながらカップに口を付ける姿は非常に洗練されており、彼らが強いられているものが痛いほど伝わってきた。
「で?
用件は何だ?」
『…。』
「俺は族長の旗本だ。
それも先手組に属して、平時には秘書業務も任されている。
その俺に話せない内容なら取り次ぎも難しいぞ。
どうせ今日の用件はニヴルを通してないんだろ?」
『実は自分でもよく分からないんです。』
「オマエ、来訪者としては歴代ワースト2位に登り詰めたぞ。」
『俺より酷い奴とか居るんですか?』
「富裕区の婦人会御一行様だな。
ドワーフは子供の教育に悪いから首都から出て行けだとさ。」
ギガントは頑張って共和国に馴染んでいるし元老院内でも好評なのだが、その奥さん連中にまでは評価が波及していないらしい。
『俺の相談も少し似てるかもです。
同郷の奴らが全員死んでくれたら俺の子育てにプラスだと思ってまして。』
「1ミリも似てねーよ。
噂以上にサイコだよなオマエ。」
『えっと、それじゃあギガント族長に…』
「あ、うん。
オマエみたいなキチガイを取り次げる訳ねーから。
それだけで切腹モノだから。」
『いやぁ、世の中厳しいっすね。』
「あ、うん。
オマエが世の中舐めてるだけだと思うぞ。」
『うーん、俺なりに真面目に頑張ってるんすけど。』
「あ、うん。
頑張ってそれなんだ…」
『スミマセン。』
「いや、俺に謝られても仕方ないんだけどさ。
もうすぐ執政官選挙だから…
頼むから族長の仕事増やすなよ。」
『あ、はい。
なんかスミマセン。』
共和国では来月から執政官選挙が始まる。
今回は保守政党と革新政党が拮抗している為、ギガント族長のように傍流で中立を守っている議員への工作が激しい。
その潮流の中でギガント族はかなり繊細な舵取りを強いられているとのこと。
エル・ギガントは氏族がとばっちりを受けないよう、文字通りに東奔西走中。
『いやぁ、忙しい時期に申し訳ないです。』
「ホントだよ、コノヤロー。
…で、何?
同郷人を殺しに来た訳?」
『いやいや!
そんな酷い事をする訳ないじゃないですか。
【死んでくれてたらラッキー】くらいのスタンスですよ。』
「執政官に向いてるよオマエ。」
『いやぁ、よく政治家向きって言われるんです。』
「あ、うん。
それ、最低のゴミって意味だから。
一々言わせんな恥ずかしい。」
『猛省して、己の私利私欲の為だけに生きます。』
「うん、オマエみたいなキチガイはそうしてくれると社会が助かる。」
タルクィニウスは言い終えてから黙る。
「…。」
『…。』
「…。」
『…。』
「…1人、オマエの同郷が生き残ってる。」
『どうせ高橋なんでしょ?』
「殺すなよ、絶対。
ギガントとも関わりがあるんだから。」
『え!?
マジっすか?
高橋の奴、まだ共和国に住んでるんすか?』
「…オマエに教えるの何かヤダ。」
『別に殺すとか、そんなのじゃないですよ。
アイツ腕も相当立ちますし。』
「タカハシ君の腕が立たなかったら、今頃コイツに消されてたんだろうなー。」
『他の生き残りは居ます?』
「あ、うん。
オマエには絶対に教えない。」
『やだなー。
人を殺人鬼みたいに言わないで下さいよー。』
「あ、うん。
評価するのは周囲であって本人ではないから。
そこはお互い戒めて行こう、な?」
『はーい。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
タルクィニウス家門の朝食に招かれる。
子弟教育も兼ねているらしく、小学生くらいの児童ドワーフが共和国式のマナーで食事をしていた。
『いや、それはいいんだけどさ。』
「ん?」
『何でオマエがここに居る訳?』
「自己防衛だよ、決まってるだろ。
一々言わせるなよ、恥ずかしい。」
俺の正面に座ったのはクラスメートの高橋だった。
昨日の今日でここに居ると言う事は、ギガントとの強いパイプがあるのだろう。
参ったな。
こうなる前に始末しておくべきだった。
コメント
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第136話、読み終えました…!「同郷の奴らが全員死んでくれたら子育てにプラス」って発言、軽く言ってるのが逆に怖いし、タルクィニウスとの「執政官に向いてるよ」の応酬がもう皮肉の応酬で笑っちゃったけど、同時にヒロヒコの闇の深さがじわじわ来ましたね。最後の高橋登場と「始末すべきだった」で終わる締め方、ゾクッとしました。この世界の空気感、重くて好きです…🥀