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#ファンタジー
うにい
114
126
谷崎爽奈
282
#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
7,335
転移して来る前からクラスの誰とも深く話した事が無かった。
異世界に来てから多少話をしたのが、この高橋。
理想家肌でクラス全員を保護し、帰還方法を探っていた。
ガルドやエヴァとも面識がある。
『元気そうだな、高橋。』
「そういう飛田は満身創痍だな。
…その手の穴、拷問でもされたのか?」
『邪悪な妖怪や狂信的な官憲と戦ってるからな。』
「…そっか、オマエも案外苦労してたんだな。」
当初ワープ能力を身に着けた時、異世界と地球をワープしてアービトラージに励む事を思いついた。
だが、それは出来なかった。
クラスメイトも一緒に召喚されていたから。
コイツラに地球の商品が見つかったら、すぐに俺の能力が見抜かれていただろう。
なので地球の便利グッズやら何やらを持ち込むアイデアは断念せざるを得なかった。
クラスメート達が早めに絶滅してくれたら、冗談抜きで好き放題やれたのだが、眼前の高橋が持ち前の正義感をフル稼働してクラスを守り抜いてしまった。
今回、共和国にやって来たのはクラスメートの安否確認。
【無事に死に絶えてくれていたらラッキー】
と思っていたのだが、流石に高橋は生き延びたか。
「江添が死んだ。」
『?』
「オマエと生物の実験班一緒だろ。」
『ああ、江添君。
そっか、死んだか。』
「正直に言うとホッとしたんだ。」
『彼、他責思考だから一緒に居てしんどいでしょ?』
「…亡くなった人間にそういう言い方は良くない。」
『死んだくらいで免罪されるほど世の中って甘いのか?』
「…そうだな、やや他責思考だった。」
『生き残りが共和国に移住した所までは把握してたんだけどな。』
「仕事無かったから、皆で冒険者ギルドに登録して害獣駆除とか薬草採取とか色々やってたんだけど。
次々に死んで行って、最後に俺と江添が残った。」
『ふーん。
ご愁傷様。』
「それで、彼が頻繁に借金をせがむようになって。
前から最小限しか動かない奴だったんだけど、宿から動かなくなっちゃって。」
『あー、割とそういう所あるよね、彼。』
「俺も何度か働いた方がいいって忠告しに行ったんだけど…
その度にカネの無心をされて、いつの間にか足が遠のいて…」
まあ、あるあるだ。
高橋は悪気無く労働や貯金を勧めたのだろう。
だが江添にとっては、その善意こそが苦痛極まりないものだったに違いない。
出来る奴には出来ない奴の気持ちが分からない。
正しい奴には正しくない奴の気持ちが分からない。
江添も戦闘用の便利なスキルを持っていたようだが、使いこなす胆力が無く、殆ど皆の後ろに隠れていたらしい。
そして気が付けば、最も押しつけがましい高橋以外に頼れる者が居なくなった。
厄介払いのつもりで借金を申し込んだら馬鹿正直に貸してくれたから、ますます追い詰められた。
そして最後は宿代も尽き公民館の雑魚寝区画で寝泊まり。
ロクな食事も摂れず窮死したという。
「江添からの遺言あるんだけど、聞く?」
『俺に?』
「うん。」
『別に聞かないけど。』
「うん、分かった。
でも伝えるな。」
『…。』
【飛田が上手くやれたのは単に何らかのチートを引いただけで、俺が劣ってた訳じゃない。】
高橋と江添が雑談している際に、俺の話題になったらしい。
当時の俺はギガント族長の仲人で認められたエヴァとの婚姻が世間に知られ始め、ニヴルでの居場所を確立し始めた時期だった。
困窮している江添から見れば、【アイツばっかり立ち回りやがって】という気分だったのだろう。
この呪詛をどうしても俺に伝えてくれと託したそうだ。
気持ちは分からんでもない。
「スマンな。
でも、この伝言はアイツの最後の頼みだからな。」
『いや、高橋の義理堅さは凄いよ。
オマエは俺に最後の頼みあるか?』
「何?
冥途の土産とか、そういう文脈?」
『ああゴメンゴメン。
違う違う。
俺、勝てない喧嘩はしない主義なんだわ。
オマエを奇襲しても殺す自信がない。
もう、こんな身体になっちまったしな。』
「お、おう。
きっと五体満足なら飛田は俺を殺してたんだろうな。」
会話がそこまで進んだ時にタルクィニウスに激しく叱責される。
「ウチの宿舎で物騒な話してんじゃねー!!!」
『「申し訳ありません。」』
そりゃあ、そうだ。
ここで何か事件が起こればタルクィニウス家門全体の責任問題になってしまうからな。
「オマエらさあ。
ダチではないにせよ、面識はあるんだろ?
じゃあ、もうちょっと穏健な近況報告とかしろや。」
『「あ、はい。」』
「えっと、飛田って結婚したんだよな。」
『あ、うん。』
「おめでと。」
『ありがと。』
「…。」
『…。』
「いや、俺の近況を聞けよ。」
『あ、ゴメンゴメン。
高橋は最近どうよ?』
「とって付けたような質問だなー。」
…だって俺の興味はオマエらの生死だけだったし。
『どうよ?』
「俺のスキルに関しては前も説明したな。」
『ああ、よく覚えているよ。
【|愛弟子《トレース》】って名前だったか。』
「うん、設定した対象の技術を再現する事が出来る。
それも際限なくな。」
『…うん。』
そう、恐ろしいスキルなのだ。
しかもコイツは親衛騎士団から相当気に入られていた。
王国全土から集められた最精鋭の技術をフルに使えるそうなので、実質的に異世界最強の戦士と言っても過言ではないだろう。
地のスペックが低い上に障碍まで負っている俺がワープをフル活用したとしても、コイツに傷一本負わせる自信がない。
奇襲を掛けた所で反撃で瞬殺されると予想している。
それが俺が高橋を警戒し続けた理由。
「王都に召喚された頃は戦闘技術ばかりを習得していたんだがな…
今は職人仕事を積極的に覚えている。
それで…
何でも屋だな。
こうやってギガント族から下請け仕事を任される程には流行している。
まあ、それが江添から決定的に嫌われた理由でもあるんだけどさ。」
そりゃあな。
何にも出来ない江添からしたら、王国でも共和国でも居場所を作った高橋なんて俺以上に鼻持ちならない存在だろうな。
おまけに面倒まで見てくれるんだぜ…
『ああ、その仕事の縁でオマエに連絡が行ったんだな。』
タルクィニウスと目が合う。
どうやら、この男が高橋に俺の来訪を告げたらしい。
「びっくりたよ。
飛田が襲撃しに来たって聞いたからさ。
決闘に発展するのも運命だったのかなって、半分諦めてここに来た。」
『オイオイオイ。
人聞きが悪いな。
俺はオマエらがちゃんと死んだか確かめに来ただけだぜ?
クラスメートを人殺し扱いするなんて本当に非常識な奴だな。』
「ゴメンゴメン。
俺の中で飛田ってシリアルキラーみたいなイメージがあったからさ。」
『あのなあ。
仮に俺が殺人を犯したとしても、それは社会の所為じゃん。
大体、俺は未成年だから何をやっても犯罪じゃねーよ。』
「少年法は早めに改正するべきだよなー。」
『結論から述べるぞ。
オマエが生き残ったのは残念だけど、他の奴が死んだのは良かったよ。』
「何かゴメンな。
最近の俺、体調も滅茶苦茶いいし、オマエよりは長生きすると思う。」
『あ、それ分かる。
妙に肌艶がいいから。』
「俺のスキル。
健康法とかもトレース出来るんだ。
近所にヨガマスターっぽい人とか、滋養料理名人とかも住んでて結構仲が良いから。
多分、世界一健康状態に恵まれてると思う。」
『江添君の気持ちが分かるわー。
オマエなんかからカネを借りる時って絶望的に惨めだったろうな。』
「仕方ないだろ。
貸さなかったら貸さなかったで、彼は根に持つタイプだったし…
話を戻すぞ。
俺は健康かつ武芸百般。
誇張抜きで飛田の3倍くらいは生きる。」
『だろうな。
俺はもう身動きも取れんよ。』
「名誉の負傷?」
『右手以外は俺の中で誇ってる。』
高橋は無遠慮に俺の傷を眺めている。
「飛田はチワワみたいに好戦的だからな。
その矛先がいつこっちに向くか冷や冷やするよ。」
『…なあ。
俺がオマエを殺す方法ってある?』
「どうだろ?
飛田も相当修羅場を潜ってる雰囲気だからな。
頑張れば相討ち…
いや、その身体じゃ難しいか。
まあ、手傷くらいは負わせれるんじゃない?」
『うん、それがオマエに手を出さない理由。
だから安心しろ。』
「やれやれ、クラス替えだけは運ゲーだよな。」
『分かる。』
「なあ。」
『ん?』
「本題に入らないのは、宿舎だから?」
『うん。』
俺達はタルクィニウスの様子を伺う。
いつの間にか人払いが済んでおり、食卓の中央でタルクィニウスは腕を組んで瞑目していた。
『タルクィニウスさん。
高橋と戦争や政治の話をしていいですか?』
「いいわけねーだろ!!!」
『ですよねー。』
「中庭で立ち話でもして来い。
あくまで旧交を温める為な。」
『あざっす。』
「…俺が切腹になったらオマエの所為だからな。」
『えー、マジっすか。
じゃあ、帰ったら弔慰金でも贈っときますわ。』
「切腹モノの話をすんなって話だよッ!!」
何だかんだ言いながらもタルクィニウスは中庭の目立たない場所を貸してくれた上に、厳重な人払いを済ませてくれる。
「飛田ー。
オマエは何で人に迷惑ばっかり掛けるんだよ。」
『違うんだよー。
社会が先に俺に喧嘩を売って来るんだよー。』
「オマエって懲役喰らっても馴染めそうで羨ましい。」
『じゃあ、手短に本題に入るぞ。』
「お手柔らかにな。」
『王国へ報復をする。』
「え?」
『まぁ1種のケジメだな。
俺、売られた喧嘩は買う主義だから。』
「いや、今【お手柔らかに】って言ったよな?」
『本当はな?
俺のシナリオではクラスメートは全滅していて欲しかったんだ。』
「え?
オマエ、それを繰り返す?
2人きりの時に言われるとホントに怖いんだけど。
ちな、飛田が相手だから防刃チョッキを着込んできた。」
『もし全員死んでくれてたら、王国は掛け替えのない友を殺した仇って事になるよな?
じゃあ報復の大義名分が出来るよな?
そのパターンだったら、話がシンプルで助かったんだ。』
「え?
オマエに友達扱いされたくないんだけど。」
『でもさあ。
残念ながら高橋が生き残っちゃった訳じゃない?』
「オマエの表情が心底残念そうで怖い。」
『だからオマエの合意がないとクラスメートの報復という美談が俺の中で成立しないんだよ。』
「えっと、飛田って確か新婚なんだよな?」
『うん。
今月中に子供も生まれる。』
「おめでとう。」
『ありがとう。』
「じゃあもっと穏健に生きなきゃ!」
『いーや、俺の考えは違うね。
生まれて来る子供の為にも禍根も後顧も共に断たなきゃ。』
「俺の顔を見ながら後顧って言葉を使うなよ。」
『高橋、王国への報復は…』
「反対。」
『え!?』
「はんたーい。」
『えーーー?』
「いやいや、その驚愕は何だよ。」
『オイオイオイオイ、オマエに人の心は無いのか?
掛け替えのないクラスメートが殺されたんだぞ!』
「いやいやいや、心が1番欠如してるのオマエだし、クラスへの殺意が1番高いのもオマエだし。」
『うん、それは認めるよ。
正直、機会があれば皆殺しにしてやろうと思ってた。
テメーら、俺のことをワープアって笑いやがったからな。』
「怖い怖い怖い。
その粘着思考が本当に怖い。
あれは本当に悪かったよ。」
『でも結果として俺は誰も殺してない訳じゃん?
それどころか、何度か助け船を出してやった訳じゃん?
じゃあその殺意はノーカンじゃん?
むしろオマエらの味方と言っても過言ではない訳じゃん?』
「うーーーーーーん。
いやーーーーーー、その理屈はどうかな?
えーーーーー?
そんな理屈通るのか?
普通に過言だと思うぞ。」
『いやいや!
結果を見てくれよ!!
俺はオマエらを一度たりとも攻撃してない訳じゃん!!
そこをもっと評価してくれよ!!』
「うーーーーーん。
クラスメートを攻撃しないのは、人として当たり前だと思うけど。
うーーーーーーーーーーん。
でもまあ飛田にしては節度があったのかなぁ?」
『だろ?
じゃあ、双方の合意が取れた所で本題に入るぞ。』
「反対。
復讐は何も生まない。」
『でもムカつく奴が死ぬの楽しいじゃん?』
「まあ、一般論として人間にそういう感情が備わっている事は否定しない。」
『じゃあ、復讐はエンドルフィンを生む訳じゃん?
そして生物の活動目的ってエンドルフィンの生成じゃん?
じゃあ復讐は生産的行為じゃん。』
「いるよなー。
謎理論を展開する時だけ饒舌になる奴。
でも反対。
俺達を召喚した王様は既に死んだし、王国は事実上崩壊してるし、復讐の対象が存在しないから。」
『でも王族は何人か残ってる訳じゃん?』
「えー?
そこまで範囲を広げた話なのか?」
『うん、相手が封建国家である以上、最低でもロシア革命レベルのペナルティを覚悟して貰うよ。』
「…なぁ、ペナルティより再発防止の話をしない?」
『ケジメが先だ。』
「オイオイオイ。
クラスメートの話なんだから俺にも投票権あるだろ?
何?
飛田は2-Bを大義名分にする癖に、クラスメートの俺の意見は無視する訳?」
『ぐぬぬ。
だからコイツだけには死んでいて欲しかったんだ。
江添君なら全面賛成してくれたのに。』
「江添なら100%飛田派に回っただろうな。
自分じゃ何にもしないだろうけど。」
生き残り2名で2-Bの方針を決める。
多数決方式なので、俺の崇高な提案は全て高橋に潰されてしまったが、1つだけ合意に至る。
【召喚被害の再発防止】
「これ以上、被害者を増やす訳にもいかないからな。」
『…ああ、そうだな。』
当然だ。
地球情報は俺と我が子だけが独占する。
新規参入など許してたまるか。
「でも、具体的にどうする?」
『関連資料は全て俺が入手する。
魔法関連は大抵エルフ文字で書かれているが…
文字はオマエが読め。』
「エルフ文字なんて読め…
いや、解読も技術のうちか。」
『そういう事だ。
何日でマスターできる?』
「え?
ここからだと家に帰るまで1時間は掛かるからな。
70分後にはマスター出来てるんじゃない?」
『GOOD。
じゃあ、後から資料を届けるから住所教えろよ。』
「えー、オマエに住所知られるの嫌なんだけど。」
『少しは俺の気持ちが分かったか。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
80分後。
例の尖塔から接収した資料の1枚を翻訳させる。
事前にマグダリオンにさせた翻訳とほぼ一致したので、情報の半分はコイツに翻訳させる事にした。
残りの半分はマグダリオンにやらせ、全ての情報は俺だけが掌握する。
「飛田。」
『んー?』
「メシでも食ってけよ。」
『…うん。』
2人で大鯛の塩焼きを注文して貪る。
日本料理に似ている為か、生前に江添が好んでいたそうだ。
俺と高橋は眼下に広がる運河を眺めながら、死んでいった級友の名を1人1人読み上げていった。
じゃあな。
俺はオマエらが大嫌いだったけど、それはオマエらの責任じゃないとだけ最後に伝えておくよ。
コメント
1件
ああ、読み終わりました……。飛田と高橋、お互いに「生きてたか」って顔で会ってるのに、最後にあの遺言を伝える場面と、二人で級友の名前を読み上げるところでじわっと来ましたね。あの「嫌いだったけど、お前らの責任じゃない」って飛田の言葉、すごく刺さりました。歪な距離感のまま、それでも同じクラスだったんだなって。