森林を1台のモトラド(注 二輪車 空を飛ばないものを指す)が走っていました。
走る先にはただ森が広がっていました。
「ねぇ、キノ」
キノと呼ばれたモトラド乗りが答えます
「なんだい、エルメス」
エルメスと呼ばれたモトラドが答えます
「一体いつになったら次の国が見えるんだい?」
「もうすぐだよ」
キノがそう言うと、
「57回目」
エルメスがさも退屈そうに言います
「前に会った商人からこの先には豊かで、商業が盛んな国があると言っていたから間違いないよ。それに…」
「それに?」
「とても美味しい料理があるそうだよ」
その日のお昼頃にキノは国に着きました。
「旅人さんとモトラドさんがそれぞれ1人、明後日に出国で間違いないですか?」
入国審査官の若い男の人が言います
「そうです」
「そーだよ」
1人と1台が答えます。
そして入国審査が終わりました
「ようこそ!我が国へ!」
国に入ったキノは驚きました。
「ねぇ、エルメス」
「なんだい、キノ」
「もしかしてこの国の住人は…」
そこまで言いかけたところでキノは後から年老いたお爺さんに話しかけられました。
「お前さん、旅の方かい?」
キノはお爺さんの方を向きながら話します
「ええ、そうです。先程入国しました」
キノはお爺さんにそう答えます
「お前さん、昼は食ったのかい?」
「いえ、まだです」
「はらぺこだよー」
キノとエルメスが答えます
「ならついてくると良い、良い喫茶店を知っているんじゃ」
「それでは、お言葉に甘えて」
そう言ってキノはエルメスと共にお爺さんについていきました。
「ねぇ、キノ、気付いた?」
エルメスがお爺さんや周りの人には聞こえないほどの声で話します
「あぁ、とっくに」
そう言いながら、キノは腰に下げた「カノン」と呼んでいるリボルバータイプのパースエイダー(注 銃器のこと)を軽く叩きました。
「すると、あなたは元々この国の住人ではないのですか?」
キノが言います
「あぁ、ワシが若い頃、この国は商業で栄えていたんじゃが、その頃に奴隷商売も流行っていてな、ワシは奴隷の1人じゃった」
お爺さんが目尻に涙を浮かべたらがら話します。
「では、何故今はこの国に?」
キノが出されたコーヒーを一口も飲まずに机に置いたまま尋ねます
「ある金持ちの男がワシを買ったんじゃ、当時は生きる気力も無かったワシを本当の息子のように育ててくれた。」
そこまで言い終わったところでエルメスがキノに耳打ちします
「キノ、10時の方向、2人」
「わかった」
キノはそう言うと
「お話ありがとうございました。そろそろいかなければならない時間なのでこれで失礼します。」
席を立ってお爺さんに向かってそう言います。
「ワシも自分ばかり話してしまってすまなかったな、気をつけるんじゃぞ」
「分かりました、ありがとうございます」
キノはそう言って、エルメスに乗りうるさいエンジン音をたてながら消えていきました。
「運の良い女め」
お爺さんはそう言いながら使うはずだったであろうピストルタイプのパースエイダーを取り出し、フレームと呼ばれる金属部を磨き始めました。
その日の夜、キノはシャワーを済ませて着替えたあと「カノン」の整備をしながら言いました
「例の男達の装備は?」
エルメスが答えます
「1人はライフルタイプのパースエイダー、もう1人は双眼鏡でこっちを監視してたよ」
キノは「カノン」の整備を終えてホルスターにしまいました。
「ねぇ、エルメス」
「なんだい、キノ」
「この国の住人たちはみんな…」
「男なのか…でしょ?」
エルメスが分かりきったように言いました
「さすが」
キノは短く言いました
「それにただ男ってだけじゃない、全員がしっかりとした訓練を受けてる」
エルメスが言うと
「でもなんでだろうね?」
キノが言いました
「そこは明日にでもわかるでしょ」
「それもそうだね」
キノはそう言いながらベッドに入り電気を消しました。
「おやすみ、エルメス」
「おやすみ、キノ、また明日」