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『第二ボタンの向こう側』
「明日の卒業式で、第二ボタンをください」
それだけ言って、
私は逃げるように駆け出した。
返事を聞く勇気なんて、最初からなかった。
自分の気持ちを
一方的に押しつけただけだって分かってる。
格好悪いのも、重たいのも、全部。
でも__
断られるかもしれない、
そう思った瞬間、
その場に立っていられなかった。
卒業式後の校庭。
写真撮影の列に並びながら、
私は何度も視線を遠くへ投げる。
笑っている友達。
フラッシュの光。
その向こうにいる、あの人。
もらえなかったらどうしよう。
せめて、写真だけでも一緒に写れたら。
そんなことを考えていた時、
担任の声がした。
「渡し忘れてたプリントがある。職員室まで来てくれるか?」
「えっ…あ、はい」
背中を叩く友達の手。
無言のガッツポーズ。
心臓が、やけにうるさかった。
校舎に入ってすぐ、先生は足を止めた。
ポケットを探り、振り返る。
「……中学の学ランか、高校のブレザー。どっちがいい?」
一瞬、意味が分からなかった。
差し出された右手。
その上に、制服のボタン。
「え……もらって、いいんですか」
「……ああ」
視線を合わせない先生の横顔が、少し赤い。
私は、ずっと抑えていた言葉を、
ここで零してしまった。
「私、三年間ずっと……先生のことが好きでした。だから卒業式後に第二ボタン欲しいって言ったんです」
沈黙。
逃げ場のない静けさ。
「……知ってるよ」
その一言で、胸が痛くなる。
「じゃあ、なんで、知ってるならくれるんですか?!期待するなと言われても期待しちゃいますよ?!先生はそれでいい…」
「……期待するなとは言ってないだろう」
大きな声で遮られた。
こんな風に大きな声を出した先生は
見たことがない。
「………えっと、それってどういう、?」
真っ赤になった先生の顔。
やってしまったと言うような顔。
「だから………その………」
右手を引っ込めて足元を見ながら
ボソッと呟いた。
「俺も好き……だったんだよ………」
「………………???????」
言葉にならない
「……ろ、ロリコン…………???」
「ふーざけんなてめー。6つしか変わんねえよ」
少し食い気味に暴言を吐く姿が嬉しい。
「じゃあボタンどっちもちょうだい」
広げた両掌にボタンふたつ置いて、そのまま私の手を握った。
「教師としてあるまじき発言になっちゃうんだけどさ、……」
「うん?」
「……俺と付き合ってくれませんか」
私の目を見つめて真っ直ぐ言ってくれた。
卒業式中よりも大きな粒の涙が零れる。
テストでいい点を取るより、
大学に受かるよりもうれしいかもしれない。
大袈裟じゃない。
「……はいっ、!」
2人の関係に誰にも言えない秘密ができた。
コメント
6件
控えめに言って結婚してくださいってくらいこの設定好き💍
涙ボロボロですが訴えていいですか小説うますぎ罪で