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昨日、課長に抱かれました

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昨日、課長に抱かれました

101 - 番外編6 認められること――多幸な莉子SIDE/#EX06-01.そんなあなたをまるごと

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2024年12月16日

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「今更ですよ……課長」


わたしは、あなたの頬に手を添えた。


「どんな過去があっても、……あなたは、あなたです。


そこそこ女遊びをしてきたことくらいは……分かりますし。だからといって、あなたへの愛が覆る……そんな、簡単な恋のプロセスを経て、あなたを選んだわけでは……ありません」


力強くわたしは言い切った。


「自分のなかに、もうひとり自分がいる。それが、なんだっていうんです。


わたしだって、性犯罪被害者なので、いつまでも……膝を抱えてうずくまり、孤独をもてあます子どもを有しています。


いま、わたしは……幸せです。


でも。どんなに幸せになっても……あの子を、わたしの内側から消し去ることは出来ない。


課長にとって、裏の顔の課長が同じ。大切な、課長の一部なのだから、わたしは、課長を愛する者として……理解します。


誰にだってひとには言えない秘密のひとつやふたつくらい、ありますよ。


夫婦なんですから。縁あって一緒になったんですから、それを分かち合えたら……と、思います」

「莉子……」やさしくわたしの髪を撫でるこのひとは誰だろう、とわたしは思う。いや……紛れもない、わたしの最愛のひと。三田遼一。「おれ……自分の話したら引かれんじゃないかとすごく……不安で」


「もっと。いっぱい、課長の話をしてください……なにもかも」


にじんだ視界のなかで、わたしはあなたへと手を伸ばした。


* * *


――子ども。


子ども。子ども。そうか……欲しい。


欲しくないといえば嘘になる。けども……それよりもいまは、あなたが、大事。


守りたいものを守り抜きたい。あなたの……正義を。純情を。純真を。


「――幸せがあれば叩き潰したいとおれは思う」


そんな、あなたを。


「可憐な花を見れば握り潰したいと思う、そんな自分が恐ろしい……」


どんな、あなたも。


「醜い。本当は醜い自分を曝け出すのが怖くて……逃げてばかりいる」


受け止めたい。だから――わたしのなかに、入って。


あらゆる嘆きをも受け止めるから。


あらゆる悲しみをも癒すから――わたしは、幸せの器。あなたをただ、癒すだけの。


「どんな……あなたも、愛している……」

海の底よりも深く、あなたと分かり合えた夜だった。静かに――わたしたちは、肌を、重ねた。


* * *


「莉子ぉー。大丈夫?」


それから、二年半が経過した、ある冬の夜。


なにかが出そうなのに出ない感覚を持て余し、わたしは、トイレに引きこもっていた。気がつけば……三時間も籠城していた。あなたが心配するのも、無理からぬ話。


「や……なにか出そうなのに。でも、出ないの」


「病院行ってみようよー」わたしを心配するあまり、会社を休んだあなたはそう言う。「それって、産気づいてるって意味なんじゃない? とにかく、その状態はおかしいし、……電話して行ってみようよ」


――だってわたし、空振りで三回病院に行っているのよ! 恥ずかしいよー! てっきりこれが産気づくって感覚なのかと思って、夜中に三回も病院に行って……お恥ずかしい! 病院関係者のみなさんごめんなさい!!


妊娠後期に入ってから、ずっとお腹が圧迫されてるって感覚が続いていて、いったいどの感覚が、『産気づく』なのかさっぱり分からない!


ともあれ、課長の進言を受け、わたしは無事病院に行き……それから三時間後には出産した。


三キロ足らずの、元気な女の子の赤ちゃんに……愛良(あいら)と名付けた。


昨日、課長に抱かれました

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