テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
12,555
「よっしゃーー!祭りじゃーーーい!」
会場前でやっと4人揃って並んだ瞬間、拳を突き上げてもう楽しそうに騒ぐサクさん。
彼だけ甚平なのは恐らく動きやすさを重視したのだろう。それでもピンク髪と縹色のそれが引き立て合って。
ハーフアップに結ばれた髪に刺されているのは、瑠璃色と翡翠色のベースで控えめな黒マーブル、更には少々の金箔が塗された蜻蛉玉が揺れる簪。髪の長さでアレンジできるのは良いなぁなんて、思ったりして。
「えっ、コージの帯可愛くない!?ヒラヒラしてるー!可愛い!」
「んぇっ?…ありがとう。」
「レンもリョウも良い!!解釈一致!ありがとうございまぁす!」
と終始ハイテンションなサクさん。リスのような素早い動きでそれぞれの浴衣をチェックし、最終的には目の前で拝んで頭を下げた。
「最初に言っておくけど、サクはぐれないでね?万が一はぐれたらすぐに誰でもいいから連絡すること!」
なんて釘を刺すリョウさんは、千歳緑の浴衣に乳白色地の白波柄の帯を巻いている。明るめのも試してみるかと勉強になる。ただ、リョウさんの忠告はそれより先にターゲットを見てしまったサクさんの耳に届いていなかったようで。
「んっ?…およよよ…??あれに見えるは俺の嫁では!?っしゃあああああ!金溶かしてきまぁす!」
息巻く言葉に気付いた時には、もう人混みの中へと消えていった。
「ちょ、サク!…っもう…めめ、コージ、集合して直ぐでごめん、ちょっと保護者してくる!捕まえたらまた連絡するから!」
と半ば走りにくそうに下駄を鳴らしながらリョウさんはサクさんを追いかけていった。ぽつんと取り残される俺たち。少しの間の後、隣の彼は呟いた。
「…さっくんはいつでもどこでも『さっくん』やな。」
「まぁ、サクさんは根っからの2次元ヲタクだからね。」
「!っはは、そうなんや!初めて知ったけど納得やわ!」
《今度好きなアニメの話してみよかな。》とどこか楽しそうに笑う。いつもどこか気を張っているような彼から、こうしてしっかりと笑うその顔は初めて見たような気がした。
「俺たちは屋台で何があるか見ながら合流を目指そっか。」
「おん。ほな、一先ずはビールやな!」
そうしてびっ、と勢いよく入口すぐのドリンク屋台を指さす彼につい溜息が零れる。
「…お前、合流する気ある?」
「リョウさん居るから一旦はない!久しぶりやから祭を楽しみたいねん!」
先ほどまで2人相手に多少緊張していたくせに、祭の雰囲気と立ち並ぶ屋台、そしていつもはしない装いにわくわくが抑えきれないという感情と比例した素直な発言。目の輝き加減からこちらにも伝わってくる。
「…まあ景気づけにはいいか…。」
既にカラコロと下駄を鳴らしてドリンクの屋台へと駆け出す彼に、
(リョウさんも今こんな気分なんだ。)
と、やや大股で歩いてついて行きながら、上司への同情が浮かんだ。
スピーカーから流れる祭囃子と、人混みから生まれる雑踏の音。お互いに3本目の缶ビールを煽りながらも、するすると人混みに流されることはなく進んでいってはいて。
「おるー?」
すぐ右隣で普通に発せられても掻き消されそうな彼の声。最早身長を理由に探索を任されているのは解っていた。そのうえで投げかけられた問いかけに、頭を寄せて少し声を張り上げて答える。
「いや…いない!リョウさんも背が高いから見つかると思ったけど!」
「さっくんのピンク頭も目立つんにな、どこおんねんやろ………あっ!」
何かを見つけたように指をさす彼。
「いた?」
「イカ焼きある!」
「…、食べたいの?」
「食べたい!けど、さすがに自分で払う!やからレンさんここ居て!」
《ビール呑んでたら外せへんやつやん!》と外見からして酔いが回っているのかそうでないのかも分からないテンションで屋台へと足を運び、さっさと自分で支払いを済ませ、満足そうに戻ってきた。
「ほんまは箸巻き欲しいねんけどな…やっぱ見る限り無さそうやな。」
「箸巻き?…何それ?」
「えっ、知らんの!?あったら絶対買うねんけど!」
話を聞く限り、薄めのお好み焼きを割ってない割り箸でぐるっと巻いた食べ物?らしく。《箸巻き知らんとか人生の半分損してるわぁ、》と仰々しく言いながら彼が笑う。
ふと、酔いにフラついたのか、そのまま一歩こちらへ寄る。別に人混みに押されたわけでもなく。自然と距離の近さを感じて。
「お前まではぐれないでよ?探すのめんどくさいから。」
右手にはすぐ食べるからと紙皿に載せられたいか焼き、左手にはビールを持つ姿を一瞥して、位置的に丁度よかった左手首を掴むことにした。反射的にこちらを見上げるも、彼はあくまでも平然とした態度でいて、
「、…はいよー。あ、でも、」
特に嫌がる様子もなく、それでも食欲に忠実ではいるようで、《これだけ1回食わせて?》と1度立ち止まって腕を振り解き、俺に缶ビールを任せる。いか焼きを1口頬張ると、《ん~~!!》と至福の表情を浮かべ、再び同じところを掴ませるように彼は手を差し伸べてきた。