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「どこまで行ったんやろね、さっくん。金溶かすとか言うてたやんな?」
「うん。もしかしたら1発で引いちゃってどっかでじっくり眺めているか、行きたい屋台転々としてたりして。」
「有り得る…。リョウさんから連絡は?」
「ない。これだけ賑わっていたら、似たような人くらい居ても…、」
尚も辺りを見回すと、人混みを照らす屋台の灯り。そこに並ぶ、逆光で影となった2つを見つけた。その姿には見たことあるような気がして、目を凝らして漸く視認すると俺は隣の彼に声を掛けた。
「…冷める前にそこで食べてしまったら?串危ないし。」
「ぅん?あー、そやな。ごみ箱近いし、ちょうどええわ。」
理由をつけてその影の反対側へ寄るも、その前に1人と目が合ってしまった。その影は──いつか見かけた、あまり動じないタイプの方の彼の友人で。そのまま逸らされない視線。ゆっくりと隣の存在へと流れたその目が見開かれ、再度俺を見る。
こんな状況にも気付かず、俺の隣で彼はひたすらにいか焼きを咀嚼している。そうして片手に2本のビールを持つ俺の手から、自分の分を手に取って流し込むと、《ぷは、》と幸せそうに堪能していた。
ビールを俺の手に戻し、不意に口元に寄せられたもの。目を逸らすきっかけとして、彼の顔を見る。
「レンさんも食べる?めっちゃ美味いで?」
「…、要らない。」
「えー、ええやん一口くらい!はい!」
ずい、と尚も寄せられるそれを1口齧る。彼は《美味いやろ?》とやけに柔らかい表情で微笑んだ。その口端には微量なりともタレがついていて、俺はそっと親指で拭ってやった。
「…お前、俺と一緒のペースで呑んでるけど大丈夫?1回お茶かジュース飲んだら?」
いか焼きを平らげごみ箱に串と紙皿を捨てると、彼は友人たちが見える方向へ身体を向け、尚も酒を呑もうと再び缶を手にする。その手首を掴んで下げれば、
「え?まだ全然飲める、でっ、」
尚もこちらの様子を見ている友人から隠すように、彼をそのまま少し引き寄せた。
「…な に?」
ほろ酔い加減に潤み、驚きに染まる茶色の双眸がこちらを見上げる。
「ぶつかりそうだったから。一旦休憩しよ。」
彼に気付かれないように再度反対側へ目をやると、視線の先の友人の目が、思案するように泳ぐ。そのままツレに話しかけられて漸くこちらから顔を逸らしたタイミングを見計らい、俺たちは屋台の間を抜けて外側へと向かった。
座るには丁度いい高さの植え込みに並んで腰掛ける。スピーカーの裏側に来るだけで静けさが際立ち、耳が休まる。
「…レンさん?」
「ん?」
「今日な、来て良かったわ。」
「そう?」
手元の缶を見つめながら、少しだけ真面目な表情で小さく言う彼に、先ほどの2人の姿を思い浮かべ、遠回しに尋ねてみた。
「友達とかに誘われたりしなかったの?」
「…実は今朝《映画行かへんか》って誘われてた。でも断ってん。」
「、そっか。」
そこから特に何も聞くことはなく、俺は残り少しのビールを飲み干した。
「まさか、集合していきなりレンさんと2人行動になるとは思わへんかったけど!」
ははっ、と明るく笑う横顔を見るも、その表情はどこかぎこちなくて。誤魔化すように酒を煽り、彼も飲み干す。
「レンさん。あのさ、」
「何?」
「さっくん達が見つかるまで、」
一瞬、言葉を選ぶように間を置き、こちらを向いた。
「このまま、『No.1ホストのレンさん』を独り占めしててええ?」
僅かに赤らんだその顔は、先ほどのぎこちなさが払拭されたイタズラっ子のようだ。そして添えられた、冗談めいた言い方。でも、目は逸らさない。
「、…高くつくよ?」
低く返して煙草に火を点ける。《やっぱ金取るん!》と笑う彼につられて、ふっと俺も口角を上げた。
「可愛い…っ!」
まさかの1発で嫁を引き当てた俺は渡された箱を見るなり、高い高いをするように掲げて声を漏らした。他にも何か置いているところは無いかと辺りを見回す。
屋台の光が、きらきらしてる。
あっちもこっちも気になるし、甘い匂いもするし、ソースの香りもするし、音も賑やかで。正直、どこ見ればいいか分からないくらい楽しい。
射的。スーパーボールすくい。綿あめ。
どれもやりたいし食べたい!…けど、さっきリョウが何か言ってたような…?
(まあ、ちょっとだけならいっか!)
──そう思ったのが、多分間違いだった。気づけば、手には景品が増えていて。でもそれ以上に、どんどん新しいものが目に入ってきて…止まらなくて。
「サク。」
背後から聞き慣れた声に、一瞬で背筋が冷える。ゆっくり振り返ると、
「やーーっと見つけた。」
にっこりと笑ってる、リョウの姿があった。…ヤバい。すげー怒ってる。
「えと、あの、その…見てこれ!嫁が1発で出た!」
何とか誤魔化せないかと頭をフル回転させて、とりあえず最初に取った箱を見せる。
「へぇ、凄いじゃん。」
「!でさ、これが、」
褒めてくれたことに少しだけほっとしたのも束の間。
「サク。」
再度名前を呼ばれて、言葉も動きも止まる。リョウは相変わらず──でも、怒りのオーラは溶けた──穏やかな顔のまま、少しだけ目線を合わせてきた。
「急に居なくなっちゃ、ダメだよね?」
その言い方が、思ってたよりずっと柔らかくて。胸がちくっとする。
「…ごめん。嫁見つけて、そこから目に見えるもの全部、気になっちゃって…。」
自然と声が小さくなって、視線が落ちる。
「うん、気になるのは解るよ。」
否定はされない。リョウの声は、ずっと優しいまま。
「チャットでもいいから、連絡してほしかったな。どこ行ったか分からないと、心配するし。」
《ね?》と首を傾げる彼に、胸が今度はぎゅうっと締め付けられる。
リョウは、俺が居なくなってからずっと…探してくれてたんだ。
「…リョウ、ごめん。」
「いいよ。後でめめとコージにも謝ろうね。」
今度はちゃんと顔を上げて謝ると、リョウは小さく頷いて、ぽん、と頭に手を乗せられる。その瞬間、体中に張り詰めていた力が抜ける。
「あと、景品。せっかく嫁たちを沢山当てたんだから、絶対落とさないようにしないとね?」
「うん!」
「ほら、戻ろう?半分持ってあげる。」
リョウが、少しだけ柔らかく笑って、自然に差し出される手。
「じゃあ嫁以外持って!」
「えっと、嫁以外だから…これとこれと…これ、かな?」
「リョウよく覚えてんね…怖いんだけど。」