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ラチム
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#ホラー
天音ろっく
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高校の何年生だったかちょっとうろ覚えだが、確か季節は夏。ちょうど夏休み期間だったと思う。
外守護のS兄は修行で不在。憑依守護のノイやひな達も何かの野暮用で不在だった日の出来事。
S兄の代わりに来た、ジェミと呼んでる謎の黒人っぽい守護だけが一緒だった。
夏休みが始まって間もないある日、突然親族の訃報があり、数日後に本家の家族皆で遠方の会場でのお通夜に参列した。
といっても、私は亡くなったご本人と全く面識はない。
本家とは繋がりが深かったらしいが、不思議と私だけはちゃんと会った記憶もなかった。
その頃私は結構グレていたので、ほとんど家に帰らず彼氏の家に泊まり込んでいた。
最初は家族全員で一緒に行かなくてはならないと言われて、家族と折の悪かった私は同行を拒否したのだが、祖母と母に「行きたくないだろうけど、これだけは必ず参列しないとダメ」と押し切られ、渋々参列したのだった。
遠方の葬儀場はかなりの田舎で、車で片道約三時間以上かけて移動した。
綺麗で名の知れた葬儀場ではなく、聞いたこともなければ古い大きな民家(しかも和風な豪邸)を改造したような会場だった。
少なくとも地元ではこんな葬儀場は絶対にない。言われなければ故人の親族の家だと思うくらい、一見ごく普通の二階建ての民家だった。
故人は人脈が随分と広かったのか、私が全く面識のない親族や故人の知人友人が何組もいた。
通夜の会場は結構広かったのだが、そこにみっちり並んだ椅子が全て埋まるくらいの参列者だった。
普段あまりにも親族付き合いがないせいで、母方の親族がこんなにいるなんて知らなかった。
でも考えたら母方の祖父母は兄弟姉妹がめちゃくちゃ多い。
他の親族の訃報の時はほとんど参列しないのに、こんな本家総出で参列するなんて珍しいなと思って母に理由を聞いたが、母は濁すだけだった。
宗派的なことが原因なのか、詳しい原因は分からないが、うちの本家だけやたらと他の親族の大人達から一線置かれているのが肌身で分かった。
「……これ、私も来る必要あった?」
通夜の最中、居心地が悪くて小声で一応母に確認する。
「正直長居はしたくないよ、私も。でも仕方ないんだ、今回だけは黙って参列しといて。あんたが強制的にうち以外の親族の葬儀に参列させられるの、最初で最後だから」
母は苦い顔でそう言った。
ふと全体を見渡した時、何か違和感を感じたが、それが何か分からなかった。
開式と読経、それから皆で焼香をするのだが、何故か私の番の時だけ焼香するのを母が止めた。理由は教えてくれなかった。
ただ「今日はしなくていいの。参列するだけで大丈夫」とやけに行動を封じてくる。
他の知人の通夜の時は至って普通に焼香していたのに。
母の言動と行動に若干の違和感を感じながらも、全員の焼香を眺めていると、何故か未成年者だけは焼香をしていなかった。
途中でそのことに気付いて母に「子供は焼香しない決まりでもあんの?」と訊くと、母は短く「まあそんな感じ」と答えた。
余程答えたくない理由があるのか、やけに不自然だなと子供心ながらに思った。
線香の強い匂いがせっかくの可愛い制服につくのがなんか嫌だなぁなんて無礼なことを考えていると、大人全員の焼香が終わった。
暇を持て余した子供達がソワソワしている。
焼香が無事終わると閉式し、その後は通夜振る舞いが行われた。
大人達は酒を飲み、私はジュースとちょっと豪華な夕飯をご馳走になった。
少食だった私はほとんど食事には手を付けず、その辺にあったジュースをちびちびと飲んでいた。
普段全く顔も合わせない親族の数人が、私を見て「あら~、大きくなったのね」「もう高校生なの?早いわ~」など話しかけてきたりもした。
よそよそしい親族と、そうでない親族にがっつり分かれていた。
一通り軽い世間話が終わった後、ふと背後に気配がして振り向くと、今度は小さな女の子が立っていた。見た目は四、五歳程度だ。
「遊ぼ」
暇そうな女の子はそう言って私の腕を引っ張った。
同じくらいの年頃の子も多々いるのに、なんで高校生の私なのだろうと一瞬思った。
まあ私も暇だし、ちょうどいっか。
「ちょっと遊んでくる」と、親族と談話している母にそっと耳打ちして女の子(仮にAとする)について行く。
見渡すと既に親族の子供達は、この広い会場にいなかった。
襖を開けると長い廊下があり、奥の方には既に子供達が集まっていた。
その先には階段があるようで、階段に座ってお喋りしていたようだ。
とはいえ、私は全員と全く面識がない。ここまで面識がないのも逆に笑えるなと思った。
話し掛けて、簡単に自己紹介をする。
高校生は私しかおらず、中学生が一人と小学生が複数、園児が三人ほどだった。
「この葬式ってさ、誰が亡くなったんだろ?」と中学生女子(仮にBとする)がぽつりと言う。
「実は私も知らないんだよね、ずっと気になってるけど」と返せば、Bが「えっ、やっぱり?ねえ、親達の反応なんかおかしくない?」と便乗してきた。
どうやらうちだけではなかったようで、小学生の子達も便乗する。
ずっと底知れぬ未知の、何とも言えぬ不安があったが、少しだけ安堵した。
「それ何処の制服?めっちゃ可愛い」とBが私の制服を褒め、話題が逸れた。
皆道内から集まっているが、てんでばらばらな地域から参列していたようだ。
私と同地域が一人もいなかった。Bも遠方から来ていたらしい。
そのうちの一人がこの会場の地域の子だったらしく(仮にCとする)、Bが「さっきの線香立てるやつもさ、何でうちらやらせてもらえなかったんだろ?この地域の特徴なの?」と興味津々だった。
Cはこの地域の小学生らしいが、あまり葬儀自体に参列したことがないらしく(そりゃそうだ)、前に一度だけ祖母が亡くなった時の葬儀では、普通に焼香はしたと言う。
じゃあなんで親達が頑なに詳細を言わず、子供達を棺桶に近寄らせないのか、謎だけが残った。
好奇心が旺盛なのか、Bは周囲を見渡して階段の先を見た。
「……上って何があるんだろ?」
他の子達も気になっていたらしく、周囲を警戒しながらBに続き恐る恐る階段を上がり始めた。
私は一番下にいたので、最後に皆の後に続いた。中段に差し掛かった時、背後で妙な視線を感じて振り向く。
広い会場とは逆の襖が開いて、中年の女が顔と体を半分だけ襖から覗かせていた。
その半分見えている服装に、違和感を覚えた。
皆黒や紺色の服装の中、この女だけは綺麗なクリーム色の着物だった。黄色い綺麗な帯を巻いている。
この会場の従業員なのか。
「ちょっと待って!戻って!」とBを呼ぶと、Bがはっとして振り向く。
「大人に見つかった!」と小声を張り上げると、小学生達も振り向き、皆着物の女に気付いたようで戻ってきた。
「あー、すみません、勝手に上がって」
Bが先手を打つように謝ると、着物の女が口を開いた。
「……二階の奥のドアは開けてはならんよ」
酒で嗄れた声だった。無表情で低い声が威圧感を与えてくる。
「絶対に」
念を押すように告げて、着物の女はサッと引っ込んだ。ぴしゃりと襖が勢い良く閉まったことに、一同は肩を跳ねさせた。
「こっわ……」と各々に悪戯がバレたバツの悪さでもじもじする。
そんなことをしているうちに、やがて会場側の襖が開いた。
どうやら通夜振る舞いが終わったらしい。親族が数人顔を出した。
ここからは帰る人達、泊まる人達に分かれるはずなのだが、妙なことに今日は親族全員が泊まると言い始めた。
友人知人は帰るようで、もう身支度を始めていた。挨拶をしながら一人、また一人と帰っていく。
訳も分からず参列した親族の子供達は、急な外泊に喜ぶ。Bも通夜の場を何かと勘違いしているのか、一泊と聞いてちょっと嬉しそうだった。
「……結局うちらも泊まんの?」
ぶっきらぼうに訊く。
母は疲れた顔で「ごめんね、帰りたいだろうけど今日は泊まりになるわ」と言いながら、車から荷物を取ってきた。
私の着替えも適当に詰められている。やけに用意周到だ。
「まあ、これから帰ったらまた片道三時間でしょ、明日も此処まで来るってなると、ちょっとね……」と参列していた私の叔母も荷物を持っていた。
「明日の葬儀と告別式が終わったら帰れるから」そう言って私の肩を祖父が叩いた。
寝る部屋は二階だったらしく、その後全員二階へと通された。
二階の先にも廊下が長く続いており、左右の襖を開くと既に敷布団が各親族ごとに用意されていた。
ふと、先程の中年の女の言葉を思い出す。
『二階の奥のドアは開けてはならんよ』
廊下の先のことかと視線を向けるが、一番端は窓がひとつあるだけだった。そもそも左右の襖以外、ドアなんてものがない。
寝室となる和室は本当に広く、二家族が一緒に布団を広げても問題ないほどだった。
偶然にもBの家族と同室で、そこで初めてBに弟が一人と妹が二人いると知った。
意気投合したのもあり、私とBは布団を並べて寝ることにした。
まあこんな場所だけど、確かに外泊するのが私も少し楽しかった。
母が持ってきた私のスエットとBの私服のスエットが偶然にも色違いで、そこもちょっと嬉しかったのを覚えている。
ガラケーを取り出すと、Bはまだ携帯を持っていないようで羨ましがっていた。
少しの間、ガラケーでダウンロードしてあった流行りの曲を流してBと聞いたり、お喋りを楽しむ。
夜の九時半を回った頃、母が私達に言った。
「お楽しみのところ申し訳ないけど、今日は十時には必ず寝なさい」
「は?十時?早過ぎるって」
抗議するが、母は頑なに譲らなかった。
「あんたはいつも夜更かしするけど、小さいお子さんも周りにいるでしょ。あんたが起きてると迷惑になるから、十時には寝て。朝は早めに起きていいから」
どういうこっちゃ、と当時は思った。Bも布団に潜りながら「厳しいね」などと笑う。
Bの母親も「B、あんたも十時に寝るんだよ」とぴしゃりと言い放った。
私もBも起きているつもりだったが、母にガラケーを没収され、きっちり十時には全ての部屋が消灯した。
「……修学旅行より厳しくね?」
「……子供達ってより、爺婆の為に早よ寝ろってことじゃね?」
不服な私達が真っ暗な中呟くと、双方の母達に怒られた。
しばらく真っ暗な中無言でいるうちに、やがて周囲の寝息が聞こえてきた。
抗議していたBも疲れていたのか、わりと早く寝落ちたようだった。
やがて、疲れていたのか私も浅い眠りに入った。
コメント
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読み終えました。葬儀の場のヒンヤリした空気が、読んでいてひしひしと伝わってきました。母が焼香を止めたこと、着物の女の「二階の奥のドアは開けてはならんよ」という警告——あの不穏な空気感が本当に巧みで、引き込まれました。子供達だけが焼香しなかった違和感も、妙にリアル。続きがすごく気になります。読ませていただきありがとうございます。